表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
40/40

第37話 白い小道のウソつき看板


 そんなわけで、私たちは三本の道を少しずつ試した。


 中央の白い小道では、看板が次々と怪しい指示を出してきた。

 「右へ行け」「戻れ」「市場は後ろ」「君はもう迷子」「これは嘘ではない」「この看板は信用できる」など、どれもこれも絶妙に腹立たしい。


 だが、ルーザが魔力の流れを見て、私が言葉の矛盾を拾い、いくつかの嘘を見破るたびに嘘コインが出た。

 途中で看板が「もうやだ」と表示した時は少しだけ申し訳なくなったが、受付妖精が爆笑していたのでたぶん問題ない。


 左の花畑では、花たちがひたすら騒いだ。

 私が少し微笑むだけで花コインが出た。出すぎるのも怖いので途中から表情を抑えたが、今度は「すました顔もいいね!!」と言われて追加で花コインが出た。


 ルーザが無言で私を見ていたけど、不可抗力です。

 さらにルーザが花たちに「道を塞がないでください」と言ったら、花たちが「黒いお姉さん命令したー」「かっちょいー」と騒ぎ、なぜかごきげんコインが一枚出た。

 ルーザはそれを見てかなり複雑そうな顔をしていた。

 私は笑わなかった。偉い。


 右の小川沿いでは、私が流されるのはルーザに止められたため、代わりに小川へ質問を重ねた。

 「どこへ流れるのか」「市場へ行けるのか」「迷子になる条件は何か」などを聞くと、小川は「たぶん」「気分」「流れ次第」「水だからね」みたいなことしか言わなかった。


 だけど、その曖昧さ自体がヒントだった。

 つまり、この道は目的地へ向かう道ではなく、流れに身を任せることでランダムな場所へ飛ばされる迷子発生ルートなのだろう。

 カイが身をもって証明している。ありがたい反面教師である。


 そうして三本の道を調べ終えた頃には、私の手元には金貨コインが数枚、花コインがそこそこ、嘘コインが数枚、ごきげんコインが一枚、そして情報という名前の一番大きな収穫が残っていた。


 受付妖精は、明らかに楽しそうだった。


「変なの」

「変ですか?」

「みんな、道を進むのに」

「はい」

「君は道を調べた」

「必要なので」

「道を選ぶゲームなのに、道を選ぶ前に道と話すの、変」

「妖精の国では普通かと思いました」

「普通じゃないよ。でも面白い」


 妖精はにやっと笑った。


「やっぱり観察してみる!!」

「もうされているのでは?」

「もっとする」

「遠慮していただけると助かります」

「やだ」

「でしょうね」


 私はため息を吐きつつ、少しだけ笑った。


 結局、市場へ向かう道として選んだのは中央の白い小道だった。

 理由は単純で、最も安定して市場へ近づいている魔力の流れがあったからだ。


 ただし、途中で看板が嘘をつくので、それを見破りながら進む必要がある。ルーザの魔力視と私の言葉読みがあれば、たぶん突破できる。たぶん。

 受付妖精は「つまんない道選んだー」と言ったが、その直後に「でも君たちが行くなら面白くなるかも」と言い直した。どういう意味だ。怖い。


 白い小道を進む間も、看板はしつこかった。


《この先行き止まり》

「嘘ですね」


《ほんとうだよ》

「魔力の流れが続いています」


《ちぇ》

《左を見るな》


「見ろという意味ですね」

 左を見ると、小さな金貨コインが草むらに落ちていた。


《なんで見るの》

「見るなと言われたので」


《ひどい》

「理不尽です」


 ルーザが小さく呟いた。


 看板と会話しながら進むのは思っていたより楽しかった。

 いや、看板側はだんだん不満そうになっていたが、こちらとしては嘘コインも増えるし、道の性質もわかるし、良いこと尽くめである。


 妖精の国では、相手が妖精でなくても油断できない。看板ですら遊んでくる。

 だが、遊んでくるなら遊び返せる。そう理解した瞬間、この国の見え方が少し変わった気がした。


 そして、しばらく進んだ先で、草原が開けた。

 目の前に現れたのは、遠くから見えていた巨大な木だった。


 近くで見ると、それは想像以上に大きかった。

 幹の太さは小さな屋敷ほどもあり、枝は空へ広がり、その枝の一本一本に店のようなものがぶら下がっている。


 布の屋根、木箱、吊り看板、光る瓶、歌う袋、勝手に移動する値札。

 根元には妖精たちが飛び回り、プレイヤーらしき姿もちらほら見える。


 どこかの枝では小さな鍋が勝手にスープをかき混ぜ、別の枝では帽子が客を選んで逃げ回っていた。

 市場という言葉は確かに合っている。だが、普通の市場ではない。商品も、値札も、店も、たぶん木も、全員が自我を持っている。


 木の幹には、大きな顔があった。

 いや、顔のような模様と言うべきかもしれない。だが、目のような穴がゆっくり開き、口のような裂け目がにんまり笑ったので、もう顔でいいだろう。


「ようこそ」

 木が喋った。


「笑う木の市場へ」

 声は低く、やたら楽しそうだった。


「ここでは何でも買えるよ。売ってくれるならね」


 私はその言葉を聞いて、思わず目を細めた。


「お金ではなく、商品側が売るかどうかを決めるんですね」

「正解さ!」


 笑う木が笑った。

 枝がざわざわ揺れ、吊るされた店たちが一斉にこちらを向いた気がした。


 ルーザが静かに言う。


「帰りませんか」

「まだ来たばかりですよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ