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第14話 2日目のログイン


 学校から帰り、早速ログイン。


 目を開けると、天幕が目に入る。

 昨日感じた違和感は、まだ完全には消えていないものの、今日はどこか受け入れやすい形に落ち着いていた。


 慣れって怖いなぁ。

 そんなことを思いながら、私は軽く肩を回し、手を開閉する。指の長さ、腕のしなり、重心の位置。すべてが昨日と同じラウラの身体だった。


 そして同時に、視界の端に淡く浮かび上がるシステムメッセージ。


「なんか来てるね」

 私はベッドの上で姿勢を整え、表示された内容へと視線を向ける。

 そこに並んでいたのは、見慣れたはずなのに明らかに量が違う通知の数々だった。


 まず、SPの増加。

 増加した数字を見た瞬間、思わず一瞬だけ思考が止まる。


 え、多くない?

 いや、昨日の内容を考えれば納得ではある。礼法、歴史、制度、魔物、薬物、社会構造……あれだけの知識を詰め込んだのだから、経験値的なものが入るのは当然だろう。

 当然、当然なんだけど、0から一気にこれは……ちょっとこれは多すぎる気がする。


「……勉強って、そんなに稼げるコンテンツだったんだ」

 思わずぽつりと呟く。

 そして、その下に並んでいるスキル取得を見て、さらに眉がわずかに上がった。


【礼儀作法(貴族)】

【薬物知識】

【魔物知識】

【歴史知識】

【社会知識】

【魅惑の微笑み】


「……多くない?」

 いや、知識系が増えるのはわかる。むしろ納得だ。あれだけ叩き込まれたのだから当然だろう。


 でも――


「魅惑の微笑み、いつ覚えた?」


 記憶を辿る。

 昨日、私は確かに礼儀や所作、対人の振る舞いを学んだ。視線の向け方、声の落とし方、笑みの角度、距離の取り方。


「……これは副産物なのかな?」


 意図的にスキルを取得したというより、振る舞いを極めた結果、システム的にスキル化されたタイプのやつなのかもしれない。

 しかもインキュバス+高位種族補正が乗っている。


「そりゃ強いわけだ」

 昨日のメイドたちの反応を思い出して、少しだけ苦笑が漏れる。

 そしてさらに下。


【称号:知識家】

【称号:美形】


「……うん、まあ、そうなるよね」


 知識家はともかく、美形の方は完全に種族と外見補正の結果だろう。

 いや、キャラクリ時点でもそこそこ自信はあったけど、まさか称号で正式に認められるとは思ってなかった。


「ちょっと面白いなこれ」


 軽く肩をすくめながら、私はベッドから降りる。

 足が床に触れた瞬間、昨日よりも一段しっくり来る感覚があった。


 軽く息を吐き、昨日教わった通りに衣服を整える。ジャケットの皺を伸ばし、片マントの位置を微調整し、襟元を整える。


 ――うん、今日もいい感じ。

 そんなことを思いながら扉へ向かい、静かに開ける。


 すると、案の定というべきか。


「お目覚めでございますか、ラウラリア様」

 そこには、きっちりと姿勢を正したマルコスが立っていた。


「おはようございます、マルコス」

「おはようございます。本日もお健やかなようで何よりでございます」


 昨日と同じ、しかしどこか少しだけ柔らかい声音。

 私は軽く頷きながら、そのまま廊下へと歩き出す。


「……どれくらい経ちました?」

「この世界の時間で申しますと、一日と少々でございます」

「私の世界ではその半分くらいしか時間が経っていません。やっぱり、この世界では二倍で時間が流れるんですね」

「はい。異界人の活動時間との調整のため、そのような形となっているようです」


 私は小さく頷きながら、ふと口元を緩めた。


「一日以上経ってるなら、皆さん結構心配してたりします?」

「いえ」


 即答だった。


「ラウラリア様が異界の眠りにつかれることは想定内でございますし、むしろ十分にお休みいただけたことを喜ばしく思っております」

「……なるほど」


 扱いが完全にそういう存在として確立してるんだ。まあ、その通りなんだけど。

 そんなことを考えながら、私は応接間へと通される。


 そこにはすでに、バルタザールの姿があった。


「おお、来たか」

「おはようございます、父上」


 自然と口をついて出た呼び方に、バルタザールの目がほんのわずかに細まる。

 ……やっぱりこれ好きなんだなこの人。

 苦笑しつつ、私は一礼する。するとバルタザールは、満足げに頷いたあと、実にあっさりと言った。


「一昨日の内に知識はすべて詰め込めたようじゃからのう。今日は実践じゃ」

「……はい?」

「戦い方と魔術の実践じゃ!一昨日はあの二人が調子に乗って詰め込みすぎて、もうほぼ教えることがないと言っておったからのう」

「……え?」


 私は反射的に、ばっと視線を横へ向けた。

 そこにいたのは、いつも通りの姿勢で控えているマルコスとラニア。


 ――のはずなのだが。

 二人とも、ほんのわずかに視線を逸らしている。


 しかもラニアはうっすらと苦笑い。

 マルコスに至っては、咳払いで誤魔化そうとしている。


「……あの」

「……」

「……」

「……知識、もう終わってるんですか?」


 沈黙。

 そしてラニアが、観念したように小さく口を開いた。


「……基礎部分は……概ね」

「概ねって言った」

「応用はまだございますが、少なくとも日常的に困ることはほぼないかと」

「いやいやいや!」


 思わず一歩前に出る。


「昨日一日ですよ?」

「ええ」

「十時間ちょっとですよ??」

「ええ」

「それで終わるんですか???」

「ラウラリア様が終わらせてしまいました」


 真顔で断言される。


「……えぇー」


 内心では盛大に、知識ってもう終わってるん!?

 と、エセ関西弁でツッコんでいた。


 いや、確かに吸収はできてた。できてたけど……終わるとは思わないじゃん普通。

 するとバルタザールが愉快そうに笑う。


「よいではないか。無駄に引き延ばすより、さっさと次へ進んだ方が面白かろう?」

「それは……そうですけど」


 否定はできない。

 むしろ、かなりワクワクしている自分がいる。


 戦い方や魔術の実践。ここまでずっと知識だったものが、いよいよ行動になる。

 他のプレイヤーはゲームを始めたらすぐに魔物を狩りに行ったりするんだろうし、DHOとしては、むしろここからが本番だ。


 私は軽く息を整え、口元に笑みを乗せる。


「では、ご指導よろしくお願いいたします」

「うむ」


 バルタザールは満足げに頷いた。


 ――と、その前に。

 私は一瞬だけ言葉を選び、それから続ける。


「……その前に、一つお願いが」

「ほう?」

「実は、元の世界での友人がこの街に来ているそうで」


 バルタザールの眉がわずかに動く。


「異界人か」

「はい。可能であれば、時間をいただきたいのですが」


 ほんの一瞬の間。

 そして返ってきたのは、思っていたよりも軽い答えだった。


「今日中に実践の訓練を終わらせるなら、それ以降は基本自由じゃぞ?」

「……え?」


 マジで?


「訓練、今日中に終わるんですか?」

「終わらせるのじゃ。できるであろう?おぬしなら」

「……」


 口元が自然と持ち上がる。ラウラくんとしては少し悪そうな顔をしているだろう。

 でも、今の私はラウラくんであり、ヘル家の跡継ぎであるラウラリアでもある。だから問題はない。


「やりましょう。今日中に終わらせてみせます」

「よい返事じゃ」


 バルタザールが満足げに頷く。

 その横で、マルコスとラニアがほんの少しだけ目を見開いた。


 私はそのまま一歩前へ出る。

 胸の奥で、期待がじわりと熱を帯びていく。


 どんなやり方で教え込まれるのか。どれくらい厳しいのか。どこまで通用するのか。

 ――そして、どこまで自分が伸びるのか。

 その全てが楽しみだった。


「では」

 私は姿勢を整え、視線をまっすぐに向ける。

「ご指導、お願いいたします」

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