第1話 始まりは友達からの誘い
[ラウラはデモンハンターオンラインって知ってるか?]
唐突に送られてきたその一文に、私はスマホを持つ手をほんの少しだけ止めた。
画面の向こうのチャットアプリのトーク欄には、いつものアイコン――三毛猫の、適当に描いたようで少し愛嬌のある猫の顔が何事もなかったかのようにこちらを見ている。
《デモンハンターオンライン》。略してDHO。
名前くらいは当然知っている。というか、知らない方がどうかしているレベルで、今この瞬間、ネット上のあらゆる場所で話題になっているVRMMO。
ニュースサイト、動画配信、SNS、掲示板――どこを見てもその名前を見かけない日はない。いや、日どころか、数時間でも見ないことはないレベルだ。
[知ってるよ]
とりあえず、そう短く打ち込んで送る。
既読は一瞬で付いた。
[やろうぜ!]
その返信は予想通りすぎて、逆にちょっと笑ってしまう。
[いや、絶対それ言うと思ったけどさ]
[でしょ?でも聞くじゃん?一応導入って大事だからさ]
[導入の意味わかってる?]
[雰囲気なら]
[雰囲気で話進めないで]
思わずツッコミを入れつつも、私は軽く背もたれに体を預ける。
そのままスマホを顔の上にかざすように持ち上げて、トーク欄を眺める。
三毛猫――ネットで知り合ってからそこそこ長い付き合いになる相手だ。
本名も顔も知らないけど、まあ、そんなのはこの関係ではどうでもいい。ゲームの話をして、くだらない雑談をして、時々どうでもいいことで盛り上がる。距離感としては、ちょうどいい気楽な友達ってやつだ。
で、その三毛猫がわざわざ振ってきた話題が、今一番ホットなVRMMO。
[で、なんで急に?]
そう聞くと、間を置かずに返事が飛んできた。
[いやもうさ、これはやるしかないなって思って!だってここ最近はずっとDHOのニュースが流れてるんだぜ?興味を持たないはずがないだろ!!]
[そのやるしかないっていうのはだいたい危ないやつでしょ?]
[違う違う、今回はマジで違う。ちゃんと理由があるから]
[はいはい、聞こうじゃないですか]
[まず一つ目。これ一番大事、ゲーム内通貨が現実の金と両替できる]
[うーん強い!]
これは反応せざるを得ない。だってそうでしょう?ゲームをしてお金が稼げるなんて、そんなの普通に考えて強すぎる。
[だろ!?しかもレート結構いいらしいんだよ。トップ勢とか普通にバイト以上に稼げるって話出てるし]
[いやそれもう一種の職業になりえるじゃん]
[職業だよ!!プロゲーマーとかそういうレベルじゃなくて、普通に働くの代替になりうるやつ]
そこまで言われると、さすがに無視はできない。
お金という現実と直結している要素。ゲームの中の話がそのまま現実の価値になるというのは、かなり大きい。
……うーん、でもなぁ。
[そういうのって結局、上位だけじゃないの?普通にやってもそんな稼げないパターン]
[そこなんだよ!ラウラならいけると思うんだよな]
その一文に小さく笑ってしまう。一緒にゲームをしてほしいのはわかるけど、持ち上げすぎじゃない?
[急に持ち上げてくるじゃんww]
[いやマジで。ラウラってさ、変なとこで効率厨じゃんか]
[変なとこでは余計じゃない?合理的って言ってよね]
[あと変なとこでロールプレイするじゃん]
[うーん、それは認める]
[DHOってさ、自由度高いんだよ。戦闘だけじゃなくて、生産とか、交渉とか、そういうのでも稼げるらしい]
[へぇ]
[だから普通にやるだけじゃなくて、どうやるかで差が出るタイプのゲームなんだよ]
その言い方は、ちょっとだけ私の興味をくすぐった。
[で、二つ目]
三毛猫のメッセージが続く。
[今ならバイザーが無料で手に入る]
[え?]
[余ってるんだよなー。βの時のやつ]
私は一瞬、画面を見つめたまま固まった。
[いや、ちょっと待って]
[うん?]
[それって、あの高いやつ?]
[そうそう、普通に買うとクソ高いやつ]
確か普通のバイザーは二万円程度のところ、DHOの専用バイザーは十万円以上したはずだ。
[それを?]
[タダであげる]
[なんで?正直言って怪しすぎるんだけど]
[余ってるから]
[雑すぎない?]
[いやマジで使ってないんだよ。βの時に複数確保しててさ。売るにしても手続きとか面倒臭いし]
さらっと言っているけど、それは普通にすごい話じゃない?
私は体を起こし、ベッドの上で姿勢を正した。
正直、私もDHOのは気になっていた。けどそのバイザーの高さに断念していたのだ。それをタダであげる?ガチで??
[それ、本当にいいの?]
[いいよいいよ。その代わり、一緒にやってくれれば]
[なるほど、そういうことね]
[そういうことなのだよ]
[で、三つ目]
[まだあるの??]
正直、値段の問題が解決したならやるという選択一択なんだけど……まだ理由があると言うなら聞いてやろう(謎の上から目線)。
[あるよ。これ、滅茶苦茶大事だから!]
[ふーん、で内容は?]
[――普通に!めちゃくちゃ面白い!!]
[それはまあ、うん。そうだろうね]
[いやマジで。βやってたけど、あれはヤバい]
ヤバいという言葉の使い方が雑すぎるし語彙力がなさすぎるけど、こいつがこういう言い方をするのは大抵、本気でハマっている時だけだ。
つまり、それだけ面白いということ。
[どんな感じ?]
[自由度高すぎて、意味わかんないことできる]
[それは褒めてるの?]
[褒めてる。あとNPCが賢い]
[へぇ]
[普通に会話できるし、選択肢で分岐するし、変な行動するとちゃんと反応する]
[それはちょっと面白そう]
NPCがちゃんと反応してくるタイプのゲームは個人的にかなり好きだ。ロールプレイのしがいがあるし、何より事前情報でグラフィックも現実レベルであることがわかっている。
正直、ここまで条件が揃っていると、もう決まりみたいなものだ。お金が稼げる、無料、そして面白い。三拍子揃っている。
「うん、やろうかな」
端末を弄って返信をする。
[いいよ、やる]
そう送った瞬間、すぐに既読がついた。
[よっしゃあああああ!!!!!]
[いや、テンション高すぎて草]
[いやだってさ、これでぼっちじゃなくなったしな!]
[一人でやってたの?]
[まあ、最初だけな。すぐやめたけど]
[なんで?]
[寂しかったから……]
[小学生かな?]
[うるせッ]
思わずくすっと笑いながら、私はスマホを軽く握り直した。
[じゃあ、バイザー送るわ]
[よろ]
[届いたらすぐ始めろよ]
[りょーかいであります!]
短いやり取りのあと、私はスマホをそっと胸の上に置いた。
天井を見上げる。なんとなく、胸の奥が少しだけわくわくしているのがわかった。
こんにちは、犬戌亥です。
いままでは他の小説投稿サイトに作品を投稿していたのですが、なろうでも作品を投稿することにしました。
なろうでは初の作品となる、「異界の貴族、ラウラリアの優雅な攻略録」。スローペースでの更新となりますが、ぜひ長い目で読んでいただけたら幸いです。




