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【Re:ゼロから始める荒野開拓】転用したら豊かになった件【領主になるために本気出す】

 ミッチェル領西部荒野再開発における導排水制御と音響区画整理

 死の花資源畑とプテラケファルス求愛阻害を両立する公共事業


         フランチェスカ・ウァレリア・フォン・ミッチェル


 要旨


 本稿は、公国北部に位置するミッチェル領西部荒野の再開発事業について、導排水制御、区画整理、維持部材供給、および翼竜害対策を統合した公共事業として報告するものである。天空の台地との境界へと連なる当該荒野は、長く人の居住と持続的耕作に適さぬ土地として扱われてきた。他方、当地に自生する死の花は、水分条件の制御下において、毒性植物としての相から、油脂、硬質素材、球状種子を供給する資源植物としての相へと転じ得る。死の花が乾いた土地では毒をため込み、水が豊富な土地ではその毒をほとんどため込まず、果実に油を満たし、葉と茎を硬質素材化し、種を石のような球とすることは、筆者がすでに公の場で説明した通りである。


 しかし、資源相へ転じた死の花は、それで安全になり切るわけではない。筆者の先行観察では、死の花群落とプテラケファルスの求愛行動には関連が見られた。一定条件の畑が長く固定されれば、当該翼竜にとって好適な求愛場、ひいては営巣地へと変わり得る。ゆえに荒野再開発は、単なる導水では足りず、死の花畑の音質を固定させず、かつ維持部材畑として成立させる区画整理を必要とした。


 本事業では、区画ごとに給排水条件を周期的に変動させ、さらに水車駆動の人工打音装置を併設することにより、求愛の成立条件そのものを崩す二段階の音響防除を実装した。その結果、資源相の死の花を安定利用しつつ、大規模営巣を抑制し得る新区画造成が可能であった。これは、荒野を耕地へ変える事業に留まらず、維持部材畑、防除音響、補給食供給、工芸資材生産、ならびに街区の拡張を一体として進める再開発である。


 緒言


 天空の台地との境界へと連なる我が領西部の荒野は、長く、人の居住と持続的耕作に適さぬ土地として扱われてきた。当該荒野全域は、かつてガン・イシュ国が領土として主張した場所であるが、我が国ではガン・イシュ国を国家と認めぬまま、世に言う第二次異種の民殲滅戦によって、当国は消滅した。現在は、消滅後に当該地域へと到達した山岳国の宣言により、天空の台地のみが国際的に自然公園として保護されることとなったことは、記憶に新しい。ゆえに本稿が扱うのは、保護対象たる天空の台地そのものではなく、その外縁に連なり、公国北部に位置する我が領西部荒野の再整備である。山岳国が登攀と確認に関与する位置にあること、公国が天空の台地外縁に面する政体であることは、地理と戦後秩序の双方に照らして明らかである。


 また、我が領が抱える課題は、ただ西部荒野が未開発であるという一点には存しない。領の中心部は、かつてイシュの民の土木作業によって、水と土地の均衡を保つ豊かな地として成立していた。彼らがいなくなったとき、まず必要となったのは、その既成の均衡を崩さぬため、人の代わりに水と戦う装置を整備することであった。昔は、その仕事の多くをイシュの民が担っており、彼らがいなくなったとき、この土地はゆっくり沈むはずだったが、その事実は当時伏せられ、大規模な公共事業だけが黙々と進められたのである。本稿が扱う西部荒野再開発は、その中心部で実用された装置系技術を、天空の台地との境界へと連なる我が領西部の荒野へ転用する第二段階の事業である。ゆえに本事業は、荒野に新地を得る開発であると同時に、既存領地の維持技術を外へ拡張する試みとして位置付けられる。


 当地に自生する死の花は、乾いた条件下では毒を蓄え、死骸の周囲で群生し、荒野の不吉を視覚と音の両面から強めてきた。他方、同じ植物は水が豊富な土地では毒をほとんど蓄えず、果実に油を満たし、葉と茎を硬質素材化し、種を球状硬質体とする。すなわち問題は、植物種の違いではなく、土地条件の違いである。死の花の果実脂肪、硬質化、根色変化といった基礎形質は、既知の植物誌とも整合する。


 ただし、ここで新たな問題が生じる。死の花を豊かな区画で資源化すると、その硬質化した花葉は固有の鳴音を安定して発し、一定条件下ではプテラケファルスの求愛行動と重なりやすくなる。筆者が先に行った観察では、死の花とプテラケファルスの求愛行動には関連性が見られた。人のいなくなった白い道沿いで求愛の声が広がるという観察は、その端緒である。もし資源畑を固定的な好適音域に保てば、営巣を招き、鳥害ならぬ翼竜害を引き起こしかねない。


 したがって、西部荒野再開発に必要なのは単なる導水ではない。

 第一に、死の花を資源相へ安定転換すること。

 第二に、その音質を固定化させず、営巣を阻害すること。

 第三に、資源生産、装置維持、防除、景観形成を一つの区画整理へ統合すること。

 本稿は、この三点を満たす公共事業の実施報告である。


 既往知見


 白い道と花の回廊に関する先行観察では、石灰質の未舗装路沿いに帯状の群落が形成され、小動物がこれを避けることで、花の回廊は静寂を保ちやすいことが知られている。また断崖に巣を作るプテラケファルスは、海で魚を、崖上で小動物を狙う唯一の外敵であり、その行動は回廊沿いの静けさと生態的緊張に深く結び付いている。


 また死の花は、荒野では高く打ち合う音を強める一方、台地上ではより低い音を帯びる。台地上の個体は、表面が硬く、内部に空洞を持ち、花も葉も打ち合うたびに澄んだ音を鳴らす。これらは楽器に加工され、伴奏にも用いられる。すなわち死の花の音は偶発的な雑音ではなく、土地条件に応じて変わる構造的な音であり、加工可能な音である。


 さらに、死の花の実から得られる油と種は、風車水車の軸を支える部材として有効である。筆者はすでに、普通の軸では持たぬ大型装置に対し、死の花の実からとれる油と種を用いていることを公に説明している。回転軸は重く、湿気と塩で痛むが、球状種子と油脂の組み合わせにより、その維持が可能となった。したがって死の花は、象徴的な毒草ではなく、装置を存続させるための基幹作物でもある。


 以上の既往知見は、本事業における二つの着想を支えた。

 第一に、死の花は部材供給作物たり得ること。

 第二に、その音質は防除に利用し得ること。

 本稿は、この二つを西部荒野の導排水計画へ統合したものである。


 対象地


 対象地は、ミッチェル領西部荒野のうち、既存の管理地で実用されている導排水装置を延伸し得る一帯である。土壌はもともと死の花の生育に適し、乾燥時には毒相を強めやすい。一方、導水による表層水分の維持が可能な区画では、資源相への転換が見込まれた。ここで目指されたのは、中心部の維持技術をそのまま複製することではなく、荒野側の土壌条件に合わせて、死の花資源畑と防除音響を含む新区画として再設計することであった。


 対象地は一枚岩の造成地として扱わず、導水量、排水性、作業動線、維持部材畑、防除音響設備の配置を前提として、複数の機能区画へ分割した。これは耕地化だけを目的としたものではなく、将来的な街路形成と所領運営を見越した区画整理である。新しい土地は、収穫のためだけにあるのではない。維持、流通、防除、補給、工芸、生産の各機能を最初から抱えたまま、街へ変わっていく必要がある。


 方法


 一、導排水制御


 大河からの引水と既存水路の勾配調整により、対象地を複数区画へ分割した。各区画には独立した給水口と排水口を設け、水分量を均一に固定するのではなく、周期的に変動させた。目的は作物維持だけではない。死の花の鳴音を一区画ごとに固定させず、求愛成立に必要な音域の持続を断つことにある。


 二、死の花定期部材畑の造成


 各区画のうち一部を、軸受け用種子、油脂採取、補給食転用、工芸用素材に応じた畑として割り当てた。資源相の死の花は、風車水車の軸受け維持に不可欠であり、当該畑は単なる付属畑ではなく、再開発区画全体の維持部材供給基盤である。死の花を作ることは、装置を回し続けることであり、装置を回し続けることは、水と戦い続けることにほかならない。


 三、音響区画整理


 営巣を防ぐため、畑を大区画化せず、給排水路、作業道、防風帯、小型の水車付属構造物を挟んで分割した。これにより、隣接区画の音域と残響がずれるよう配置した。さらに、区画ごとに給排水周期を意図的にずらし、同時に同一音域が成熟しないよう運用した。

 ここで狙ったのは単純な忌避ではない。プテラケファルスの求愛が、オス、メス、花の音の重なりに依存するならば、その重なりが成立しない区画構成を先に作るべきだからである。


 四、人工打音装置


 死の花の硬質化素材を用いた打音板、振鈴、残響板を水車駆動で鳴らし、畑音とは一致しない周期音を加えた。これは単に追い払うための大音響ではなく、オス、メス、花の音の重なりに人工的なずれを差し込むことを狙ったものである。素材には既報の硬質花葉加工法を用いた。自然音の固定を崩すことに加え、人工音によって重なりそのものを裂くことが、第二段階の防除である。


 五、運営条件


 本事業は、イシュの民の労働を前提としない。大規模労働力の投入、装置維持、定期交換部材の供給、補給食の確保、工芸品の生産を、すべて人間側の所領運営の中で完結させることを条件とした。これは技術試験ではなく、領地経営として持続可能であることが求められた。沈むはずだった土地を支えるという前提において、維持は例外ではなく、開発そのものである。


 結果


 一、資源相への転換


 導水区画では、死の花は毒をほとんど蓄えず、果実に油を満たし、葉と茎は硬質化し、種は球状硬質体として採取できた。これは従来、豊かな条件で見られた資源相を、西部荒野の造成区画において再現したものといえる。


 二、営巣抑制


 水分条件を固定した試験小区画では、鳴音の傾向が安定し、上空滞留が増す傾向が見られた。これに対し、水分量を周期的に変えた区画では、音域が揺れ、長期滞留は減少した。さらに人工打音を併設した区画では、求愛に伴う重なりが成立しづらく、営巣行動への移行は顕著に抑制された。

 すなわち、防除の要は単に音を鳴らすことではなく、好まれる音を固定させないことと、求愛の重なりをずらすことの二つにあった。


 三、維持部材供給


 得られた種子は球状硬質体として軸受け交換に利用でき、油脂は回転部の保守と補給食加工の双方に転用し得た。これにより、再開発区画は自らの維持に必要な部材を内部で賄う循環を持ち始めた。装置が土地を支え、その土地が装置を支える、という関係が初めて閉じた。


 四、区画の副次効果


 人工音響設備は、防除目的のために導入されたものであるが、結果として、風車水車の回転と畑の鳴音とが重なる独特の風景を生んだ。これは往来する者にとって新区画の印象を決定づける土地の顔となり、工芸資材や補給食と並んで、当該地域の新たな特産化の可能性を示した。防除設備は景観を損なわず、むしろ景観の核となった。


 考察


 死の花は、水を与えれば必ず安全になるのではない。土壌条件の変化による劇毒化は別稿第二十四篇に譲る。一定条件が長く固定されれば、その鳴音がプテラケファルスにとって好適な求愛場を形成しうる。ゆえに再開発区画は、安定供給と不安定音響を同時に成立させねばならない。


 ここで重要なのが、二段階の防除である。

 第一段階として、区画ごとの水分量を周期的に変えることで、花音の音域と残響をずらし、生育した環境と結び付いた好みの音を固定させない。

 第二段階として、硬質化素材による人工音を重ね、オス、メス、花の音の重なりそのものを阻害する。

 この二段階により、当該翼竜を単に追い払うのではなく、求愛成立条件を崩すことができた。よって本事業における区画整理は、農地整理であると同時に、繁殖阻害のための音響設計でもある。


 また、本事業は死の花畑を公共設備として位置付け直した。

 死の花は毒草でも霊異の徴でもなく、

 軸受けを生む畑であり、

 油を生む畑であり、

 補給食を支える畑であり、

 工芸素材を生む畑であり、

 同時に、防除音響を構成する畑である。

 この多機能性こそが、西部荒野再開発において他の作物に代えがたい理由である。


 さらに、領主として付言すべき点がある。本事業の正当性は、単に技術的成功にのみ存するのではない。天空の台地そのものが保護対象として扱われる一方、その外縁荒野は、公国の所領秩序の下で再整備されるべき土地である。よって、本稿が示すのは、保護と開発の境界を曖昧にする試みではなく、境界を引き直したうえで、その外側を責任を持って運営する方途である。沈むはずだった領地を支えるために始まった装置が、いまや新区画を生み、その新区画がさらに装置を支える。この循環は、所領経営の一形態として、十分に擁護されてよい。


 結語


 ミッチェル領西部荒野の再開発は、導水による耕地化だけでは成り立たない。そこには、排水、区画整理、維持部材供給、求愛阻害、防除音響、補給食供給、景観形成を一体として設計する必要がある。本稿で示した方法は、死の花の資源相を安定利用しつつ、プテラケファルスの営巣を抑制し得る公共事業の一例である。

 すなわち、西部荒野は不毛地ではない。

 水と音を誤れば害を招くが、水と音を制すれば、領を支える土地となる。


 参考文献


 フランチェスカ・ウァレリア・フォン・ミッチェル

 『ミッチェル領荒野を拓く 全の試行と一の結実』


 第一篇 白い道の花 初見録

 第二篇 花と翼竜 白い道における同時観察

 第十三篇 死の花の音域について 荒野と台地の比較

 第二十四篇 死の花毒性変化論 乾湿条件の偏りを読む

 第三十五篇 死の花果実油の採取と転用

 第三十六篇 球と軸 死の花種子の機械的応用

 第三十七篇 硬質化した花葉とその加工

 第四十八篇 死の花から生まれるもの 補給食・工芸品・保存具

 第六十九篇 風車水車を保つ 定期交換部材供給の書

 第九十篇 翼竜を寄せる音 予備区画における観察と偏り

 第九十一篇 水車が鳴らす音 畑地防除のための人工打音装置

 第百十二篇 ミッチェル領西部荒野再開発における導排水制御と音響区画整理

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