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査読

 IMRaDで見ると、かなり強い。

 でも、論文の顔して、けっこう領主。


 ◆


 はいどうも、チーム・ミスリルの瑠璃ちゃんだよ!


 今回はね。

 ついに、ついにやります。


 ひとり査読会。


 ミスリルちゃんを呼ぶと、どうしてもね。

 視界が広がるんだよ。

 それはそれで最高なんだけどさ。

 今日は逆。

 瑠璃ちゃん一人で、論文を、論文として、IMRaD形式で、最初から最後まで査読してみようじゃないか、という回です。


 え、こわ。

 私がいちばんこわい。


 でも、やる。

 なぜなら私は、論文の書き方を後進に教えている側だからね。

 異世界だろうが何だろうが、そこは逃げません。


 というわけで、いってみましょう!


 まず、I。

 Introduction。

 緒言。


 ここ、強いです。


 何が強いかって、土地の説明から始まってるようで、実際には立場の説明から始まってるところ。


 この荒野はどこにあるのか。

 天空の台地とはどう接しているのか。

 ガン・イシュ国を認めない戦後秩序の中で、どこまでが保護で、どこからが再整備なのか。


 この線引きを、最初に逃げずに書いてる。

 だから、この論文は最初から、

 ただの土木報告じゃないですよ、

 という宣言になってるんだよね。


 しかもさらにえらいのが、

 西部荒野が未開発だから拓きます、

 で終わらないところ。


 中心部の豊かさは、もともとイシュの民の土木で保たれていた。

 彼らがいなくなれば、土地は沈むはずだった。

 だからまず、人の代わりに水と戦う装置を整えた。


 はい。

 ここで論文の本当の主題が見える。


 新地開発じゃないんだよね。

 維持技術の外部展開なんです。


 つまりこの緒言、研究背景を述べるだけじゃなくて、

 何が失われ、

 何を伏せ、

 何を延ばそうとしているか、

 そこまで書いてる。


 重い。

 でも、かなりいい。


 次、M。

 Methods。

 方法。


 ここ、だいぶ好き。


 まず対象地の切り方がいい。

 既存の導排水装置を延伸し得る一帯を選んでいる。

 ゼロから夢を描くんじゃない。

 すでに回っている系をどこまで再設計できるか、という発想。


 で、そのうえで、

 中心部の技術をそのまま複製するのではなく、

 荒野側の土壌条件に合わせて新区画として組み直す。

 ここも良い。


 雑な真似をしない。

 同じ技術でも、土地が違えば形は作り直す。

 この感覚、かなり信用できます。


 方法論の中身も明快です。


 導排水制御。

 死の花定期部材畑。

 音響区画整理。

 人工打音装置。

 運営条件。


 ちゃんと項目立てされていて、

 しかも並び順がいい。


 まず水をどう振るか。

 次に何を育てて何を供給するか。

 次にどう区画を切って求愛条件を崩すか。

 その上で人工音を差し込む。

 最後に、それを誰の労働を前提にせず回すのかを置く。


 特に良いのは、運営条件を方法の中に入れていること。

 イシュの民の労働を前提としない。

 これ、ただの注意書きじゃないんだよね。

 この事業が成立するための実験条件であり、政治条件でもある。


 つまりMethodsの時点で、

 技術だけじゃなく、持続可能性まで方法として扱っている。

 ここはかなりガチです。


 次、R。

 Results。

 結果。


 きれいです。


 ほんとにきれい。


 まず、資源相への転換が再現できた。

 次に、水分固定区画では上空滞留が増し、周期変動区画では長期滞留が減り、人工打音併設区画では営巣移行が顕著に抑制された。

 さらに、種子と油脂が維持部材と補給へ回り、内部循環が閉じ始めた。

 最後に、副次効果として、音響設備が景観の核になった。


 うん。

 いいですね。


 特に、

 装置が土地を支え、その土地が装置を支える、という関係が初めて閉じた。

 ここ、かなり強い。


 結果って、数字や差の列挙に終わりがちなんだけど、

 この論文は、循環が閉じたことを成果として出してる。

 だから、単に採れました、抑えました、じゃなくて、

 系として回り始めました、

 まで行けている。


 ここはとても良いです。


 ただし、瑠璃ちゃん査読として一個だけ言うなら、

 ここ、かなり綺麗にまとまってるぶん、

 どのくらいの期間見たのか、

 どのくらい顕著だったのか、

 比較の粒度がもう少し欲しくはある。


 もちろん、この世界の論文に統計表を求めすぎるのは野暮かもしれない。

 でも、

 増す傾向、

 減少した、

 顕著に抑制された、

 だけだと、読む側がうっとりできる反面、どこまで再現性があるのかは少しだけ曖昧です。


 なので、Resultsは美しい。

 でも、美しいからこそ、もう一段だけ数字か図が欲しい。

 そんな感じ。


 そして、a。

 and。

 ここ、地味に大事。


 IMRaDって、ただ順番に並べるだけじゃなくて、

 IからM、

 MからR、

 RからD、

 その接続が滑らかかどうかが大事なんだよね。


 この論文、そこがかなりうまい。


 緒言で、

 維持技術の外部展開だ、

 と言う。


 方法で、

 複製ではなく再設計だ、

 と言う。


 結果で、

 内部循環が閉じた、

 と言う。


 考察で、

 死の花畑を公共設備として位置付け直した、

 と言う。


 全部つながってる。


 だから読んでいて、

 急に別の話を始めた感じがしない。

 ここ、査読的にはかなり高評価。


 で、最後。

 D。

 Discussion。


 ここが、この論文のいちばん好きなところです。


 死の花は、水を与えれば必ず安全になるのではない。

 安定供給と不安定音響を同時に成立させねばならない。


 はい、好き。


 この論文、成功して終わらないんだよね。

 成功を単純化しない。

 だから考察がちゃんと考察になってる。


 二段階の防除の意味もいい。

 単に追い払うのではなく、求愛成立条件を崩す。

 農地整理であると同時に、繁殖阻害のための音響設計でもある。


 うわあ。

 いい。


 しかも、そのあとがさらにいい。


 死の花は毒草でも霊異の徴でもなく、

 軸受けを生む畑であり、

 油を生む畑であり、

 補給食を支える畑であり、

 工芸素材を生む畑であり、

 同時に、防除音響を構成する畑である。


 ここ、完全に再定義です。


 死の花を、

 象徴

 から

 公共設備

 へ言い換えている。


 論文の考察で、ここまで価値の置き換えをやるの、かなり領主。

 かなり政治。

 でも、それでいい。


 だってこれは、

 何を守るか、

 どこからを使うか、

 境界の外をどう持つか、

 の論文でもあるから。


 最後の付言も、その意味で効いています。

 保護と開発の境界を曖昧にするのではなく、

 境界を引き直した上で、その外側を責任を持って運営する。


 うん。

 論文の顔してるけど、だいぶ政治です。


 でも、そこを隠さないのがいい。

 私はこう考える、

 これは擁護されてよい、

 と、自分の立場でちゃんと引き受けてる。


 学者だけの論文じゃなくて、

 領主の論文なんだな、

 って最後にすごくわかる。


 というわけで、総評です。


 I、強い。

 立場と欠損と境界を先に置いている。


 M、かなり良い。

 技術だけじゃなく、運営条件まで方法に入っている。


 R、美しい。

 循環が閉じたことを成果として出している。

 ただし、もう一段だけ量的な手触りは欲しい。


 D、とても強い。

 死の花を公共設備へ再定義し、

 再開発を技術と政治の両側から擁護している。


 そして全体として、

 土木の顔をした戦後処理であり、

 再開発の顔をした維持論であり、

 領地経営の顔をした論文です。


 うん。

 かなり好き。


 瑠璃ちゃん査読としての結論はこうです。


 論文として、だいぶ強い。

 ただし、チェスカ晩年ガチ、で済ませると足りない。

 これは、一人の頭の良さだけじゃなく、

 暮らし、工房、観察、戦後秩序、その全部を編み直した論文だからです。


 異世界ネットは来てないけど。

 IMRaD形式で通して読むと、この論文は死の花の研究でも荒野開発の報告でもあるけど、いちばん深いところでは、沈むはずだった領地をどう持たせるかの論文だったみたいです。

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