表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/41

最終話 スローライフはお預けです

 ミシャーナは夢を見た。


 明るくあたたかな空間の中で、次々に訪れる妖精たちの夢を。


「あなたがフィンのお相手ね。清廉な空気がとても気持ちが良いわ。私からの祝福よ」


 訪れた妖精が祝福を告げると、ミルク色の薄い衣装を身にまとったミシャーナを囲むように、ゆっくりと色とりどりの花が咲き誇り広がって行く。その様子に戸惑いながらもミシャーナは祝福を喜んだ。

 そんな中、背が低く緑のドレスを身にまとったふくよかな女性がミシャーナの前に歩み出た。


「ロアークを救ってくれてありがとう」


 ロアークの母だと告げた大地の妖精は、ミシャーナにお礼の言葉を伝えに来たと言う。そして、特別な祝福を授けてくれた。

 フィンの腹違いの弟であるロアークは、闇妖精の手に堕ちてしまい洗脳されて悪事に加担させられていた。誰よりも早くその問題に気付いたミシャーナは、フィンとともに闇妖精と闘いロアークを取り戻したが、既に自我が壊れかけていたロアークは死を望んでいた。

 フィンが苦渋の決断でロアークの意思を尊重し消滅させようとしたとき、ミシャーナは文献を読み漁り、危険を犯してまでもその俊足を生かして呪いを解く素材をかき集め、ロアークを救ったのだ。大地の妖精はそのことを喜んでいるのだ。

 沢山の妖精が様々な理由でミシャーナを祝福し、おかげで最後の妖精がやってくる頃には、目に見えないほど遠くまで花畑が広がっていた。


 ミシャーナの元に現れた最後の妖精は、フィンの母親で夜の妖精のセレーナだった。


「ミシャーナさん。フィン(あの子)のことを救ってくださって感謝します」


「私が、フィンを救った……?」


 まったく身に覚えのないお礼に、ミシャーナは驚いて目を丸くした。するとセレーナは深く頷くと、ミシャーナの手をやさしく握りしめた。


「あの子は、小さな頃から各地を放浪していました。ただ当てもなく大事なものを探しているかのように。大切な何かが分からず、それ故に感情も表情も乏しかったのです。あなたに出会うまでは」


「それは、もしかして小さな頃の話ですか?」


 ミシャーナは、フィンと出会った別荘のある森を思い出した。そう言われてみれば、初めての出会いはあまり良いものではなかった覚えがある。

 ミシャーナが母にプレゼントするために花輪を作っていると、フィンがいきなり現れてせっかく作った花輪を風でバラバラにしてしまったのだ。

 泣きながら飛ばされた花を俊足でかき集めたミシャーナを見たフィンは、毎日自分の目の前に現れるようになった。そうして次第に仲良くなりはじめた頃、フィンが魔物に襲われたのだ。無我夢中でフィンを助け、その後に子ども同士のたわいない約束をした。


「私、フィンみたいな綺麗な男の子を初めて見たわ。大人になったら結婚したい」

「うん! 僕もミサのこと大好き! 大人になって《《お互い忘れなかったら》》結婚しよう?」


 その約束が果たされるとは、当時のミシャーナは思ってもいなかった。知らず知らず誓約となり、お互いが思い出すまでにずいぶんと月日を要してしまった。

 今では想い人と結ばれ、こうして沢山の人たちや妖精から祝福を受けている。


 人生とは不思議なものだとミシャーナは思った。

 あの男(セドリック)との婚約破棄がなければ、こうやって幸せをかみしめる時間は手に入れられただろうか。その前に、フィンもミシャーナもお互いを忘れたままだったかもしれない。


「お義母様、私とても幸せです。フィンと出会えてよかったです」


 ミシャーナがそう言うと、セレーナは嬉しそうに笑い、祝福を与えて消えて行った。

 辺りの景色がぼんやりと滲み始めると、どこかで妖精王の声が聞こえた。


「我々との(えにし)が深まるよう、永遠(とわ)に続く祝福を――」


――ミ……サ……


 遠くでフィンが呼んでいる。うっすらと目を開けると、フィンがミシャーナの顔を覗き込んでいた。


「フィン」


 いつになっても寝起きにフィンの顔は破壊力が大きい。寝ぼけていた頭がフィンの輪郭をはっきりと捉える。優しいキスが頬に落とされ、くすぐったくてミシャーナは笑った。


「あっ」


 ミシャーナは自身の腹に手を当てゆっくりとさすった。その上にフィンが優しく手を重ねる。


「また動いた?」


 フィンがそう訊ねると、ミシャーナはゆっくり頷いた。


「ええ、とても元気だわ」


 優しく腹をさするミシャーナの顔を見つめ、フィンは目を細める。

 はじめて愛しいと思えた人と結ばれ、ほどなくして宝物を授かった。妖精王の父がかけた強い制約に打ち勝ち、種族を越えて愛を育むことができたのは正に奇跡である。


 ミシャーナはフィンの視線に目を合わせ、幸せな時間を嚙みしめた。


「子どもは十カ月もお腹の中に居るんだよね? お母さんから離れたくない気持ちは分からなくもないけど、早く会いたいな」


「ふふ、もう少しよ」


「生まれたら忙しくなるね」


 子どもが生まれれば、きっと毎日が慌ただしい日々となるだろう。だが、幸せな忙しさである。

 想像していたスローライフはもう少し先になりそうだ。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

全41話、いかがでしたでしょうか。

文字数に拘りながら書いたので、全編制作にはかなり神経を注ぎました。

ぴったり90,000文字完結です。


もしよろしければ、この話を書くにあたって元になった現代短編「ズル」も読んでいただけたら嬉しいです。

https://ncode.syosetu.com/n0294iq/


ミシャーナとフィンに沢山の祝福がありますように!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
完結おめでとうございます! ミシャーナとフィンがラブラブで幸せになったラストに、私も幸せのお裾分けをいただきました。 セドリックのことは大変だったけど、それを乗り越えてフィンと結ばれたミシャーナは、子…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ