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第35話 説得

「到着したぞ」


 シリルの声で、ミシャーナは眩しくて閉じた目を開けた。そこは、以前通されたことのある応接室とは違い、落ち着いた茶と緑を基調とした大きなバルコニーの付いた部屋だった。壁の一面に整然と並べられた本、多くの書類が詰まれた頑丈そうな机、高級な応接セットが置かれている。


「ここは……?」


「わたしの執務室だ」


 シリルは着ていた上着を脱いで無造作にソファの背に掛けると、椅子に座るようジェスチャーし、自らもソファに座った。

 ミシャーナは促されるままシリルの前の席に座り、少し落ち着かない様子で肩をすくめた。


「執務室にご案内いただけるとは。今後の打ち合わせですが、なにか策でも?」


「ああ」


 シリルは長い足を組み替え、その膝に両手を置いた。一呼吸何かを思案したあと、こう切り出した。


「基本は貴女の方針で行きたいと思っているが、それには協力者が必要だろう。あの男に少しでもおかしいと思われてはいけない」


「と、申しますと?」


「結論から言う。エリザに本当の話をする。それで協力しなければ本当に愚かな妹だと切り捨てる。だが、疑う余地を残すようならそこに付け込んで協力させる。金品をいくら請求しているか知らんが、侯爵家の力を舐めてもらっては困る」


 シリルがパチンと指を鳴らすと、どこからか側近が現れた。エリザを連れてくるよう命令された側近は、ほどなく本人を連れて現れた。


「お兄様、なんですの? 私に御用なんてありもしないくせに呼びつけるなんて。わたくしは忙しいのです」


 急いだ様子のエリザは、ミシャーナを見て大声を上げた。


「あー! あなた、あの時の平民ではありませんこと? 覚えていますわよ、セドリック様と親しげにしていましたわね? 何者ですの?」


 一気に質問を投げかけ、エリザは興奮した様子で息を切らした。


「うるさい。だからあまりお前とは関わり合いになりたくないのだ。客人の前で礼節も守れないのか。まあいい、こちらに来て座れ」


 シリルは自分の横の空いた場所をエリザに指し示す。さすがのエリザも兄は怖いらしく、小さく「はい」と返事をして急ぎ足でシリルの隣に座った。

 使用人を下げ、執務室には三人だけが残る。エリザは気まずそうにミシャーナを見ながら、使用人が置いて行ったティーカップに口を付けた。


「エリザ、この方はあの男――セドリックの元婚約者だそうだ」


「は?」


 エリザは驚きのあまり、添えていたソーサーを落としそうになる。しかし、何とか堪えたのは流石侯爵令嬢と言うところだろうか。


「せ、セドリック様の元婚約者ですって? この地味な女が?」


 エリザはカップとソーサーを机に置くと、ミシャーナを上から下まで何度も眺めた。

 しかし、目の前にいる女はどう見ても平凡で、貴族らしいオーラもなければ華も無い。


「嘘よ、お兄様。だってセドリック様の元婚約者は伯爵令嬢だもの。こんな小汚い平民なわけないわ! お兄様は騙されているのよ」


 ミシャーナを罵倒し、エリザはシリルの腕に縋りついた。しかし、氷のようなシリルの視線を受けて押し黙ってしまった。


「お前に人を晒す資格はない! どのような人物より彼女ほど信頼できる人はいないだろう。お前の発言は流石に看過できん。謝罪しなさい」


 エリザは実の兄から放たれる怒気に圧倒されて体を小さくし、震える声で「ごめんなさい」と謝罪した。


 ミシャーナは、エリザに今までの経緯を簡単に説明した。

 エリザは何度も聞かされていた内容と違うと反論しようとしたが、その度にシリルに制止され、話し終える頃には肩を小刻みに震わせていた。


「う、嘘……セドリック様……わたくしを騙すつもりだったの? 一緒になろうって、お金だってトゥランゼル嬢への手切れ金だって、わたくしはそう聞いたの」


「残念ですが、間違いなく嘘でしょう。確かに、セドリックは爵位を欲していました。だからエリザ様に近付いたのかと……けれどお腹の子をどうにかするなんて、流石の彼にも出来ないと思います。本質的には優しい人なので」


 全員が押し黙る中、執務室にはエリザのしゃくり上げる声が響いた。シリルが提案をはじめる。


「エリザ、あの男のどこがいいのだ。顔だけの男だろう? 既にお前とミサさん、二人の女性を傷つけている。あの男は諦めろ」


「嫌、嫌……」


 泣きじゃくるエリザに、ミシャーナが問いかける。


「エリザさん。信じられないのも分かります。では、本当の彼の気持ちを知るためにも、私たちに協力してくださいませんか?」


 ミシャーナの提案はこうだ。

 計画にエリザが協力すれば、セドリックが本当にエリザを想う気持ちがあるかどうかを測れる。無心した金が本当に手切れ金なら今のまま付き合いを続ければいいし、そうでなければ彼は捕まるだけで、エリザは何の落ち度もないただの被害者だ。どちらに転んでも世間体は悪くならない。


「私が必ず守ります」


 ミシャーナの説得に、ようやくエリザは首を縦に振った。

 こうして、セドリック捕縛劇が幕を開けた。

エリザも本当はええ子なんや……

シリル兄さんが優秀過ぎただけなんやで。

ざまあカウントダウン3

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