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第28話 領主奪還(side:フィン&テレサ)

 フィンとテレサは妖精の遺跡に入るとそのまま風に乗り、領主が幽閉されている地下へと向かう。

 地下に近付くにつれて空気が冷え、テレサは身震いをした。

 フィンから領主の居場所を告げられた時は興奮して体が熱を持っていたが、今さらながらもう一枚羽織るべきだったと後悔した。


「テレサさん、寒いようなら風の層を厚くしようか」


 フィンの気遣いで、二人を避けるように風の流れが変わった。寒さが和らぎ、風の妖精の力を目の当たりにしたテレサは感心した。


「こんなに素晴らしい力があるのに、それでも解除できない術式というのは、どんなものなのかしら?」


 勇ましく家を出てきたは良いが、急に不安に襲われた。

 自身の能力と言えば、使役精霊を用いて大地を豊穣させたり、情報収集する程度しか持ち合わせていない。

 領主を救い出せなかったらどうしよう、そんな思考でいっぱいになる。


「おそらく」


 フィンは行き先を見据えたまま、少し緊張しながら話す。


「この場所の入口も牢屋も、大地の妖精であるテレサさんを寄せ付けない為の術式ばかりだった。必ず協力者が必要な術式なのを見ると、十中八九あの術式を描いたのは妖精の力を持つ者だろうね」


「えっ……」


 テレサはフィンの推測に混乱した。

 百年以上生きて来たテレサだったが、今まで純血の妖精を見るのは、祖母以外にフィンがはじめてだ。ここまで大きな“封印の力”を持つ者が、身近に居るとは思えない。


「一体、誰が……?」


 テレサが呟くと同時に、フィンが暗い洞窟の奥を指さした。


「もうすぐ着くよ」


 二人は風の道から逸れ、ゆっくりと大地に降り立つ。緊張からよろめいたテレサをフィンが支え、落ち着くのを待って洞窟の奥を目指す。


「ほら、ここ」


 唐突にフィンが示した場所に何があるのか、テレサにはほとんど見ることが出来なかった。目を細めると柵のようなものが見える。


「よく見えないわ」


「そう?」


 フィンは、テレサが見えていないことは気に留めることもなく、膝をついて足元を探ると「あった」と溜まった土埃つちぼこりを手で払う。テレサが目を凝らすと、魔法陣のようなものが見えた。

 やがて土埃によって隠されていた力のうねりが、魔法陣から青と緑の螺旋になって立ち昇った。


「こんな凄い力を感知出来なかったなんて……」


 驚くテレサにフィンが首を横に振る。


「この土によって封印が隠されていたんだから仕方ないよ。テレサさんのせいじゃない」


 フィンは立ち上がると、魔法陣を隠していた土を手に取ってテレサに渡した。土からは強い魔法の残滓ざんしが感じられる。


「こんな力……私には使えないわ。だから私は()()()()()()いたのね」


「誰がこんな結界を張ったか分からないけど、僕とテレサさんの力で突破できる。さあ、手をこちらに」


 テレサがフィンの手を取ると、力を吸い取られるような感覚が襲った。目が眩んだが、ここで気を失っては領主を助け出すことができない。テレサは使役精霊から力を貰いながら耐えた。


「……もう少し」


 フィンが苦しそうな声を出す。圧倒的な力を持つ妖精の王子ですら力を惜しむことなく注いでいる。自分も耐えなければと、テレサは力を振り絞る。

 やがて何かが軋む音が聞こえ始めた。


『ガキン』


 金属がぶつかり合ったような嫌な音とともに、辺りが光に包まれた。

 力を使い果たし、立っているのもやっとのテレサの目の前には、探し続けた領主の姿があった。

 ただ、領主は力なく床に倒れ伏している。上下する肩の運動から呼吸しているのが見て取れ、かろうじて生きていることが分かった。


「ああ、フレッド!」


 テレサは領主の名前を呼んで駆け寄ろうとしたが、足に力が入らない。

 足がもつれたところをフィンに支えられて転倒は免れたが、少しでも近づこうと上半身をよじり懸命に手を動かした。

 フィンはテレサを軽々と抱えると城主のもとへと連れていき、近くにテレサを降ろした。


 近くに寄ると糞尿や食べ物の腐った臭いが充満していた。フィンが風で臭いを外へと流したが、それでも独特の臭いが鼻を突いた。

 テレサは気にすることなく領主に這い寄ると、体に縋り叫んだ。


「フレッド! どうか、どうか目を覚まして……! テレサが来たわ、もう大丈夫だから」


 領主は小さなうめき声をあげたが意識は戻らない。テレサは涙を目に溜めながら必死で名を呼んだ。


「フレッド! フレッド! ねえ、しっかりして!」


――私がもっと早く見つけてあげていれば。こんなに近くにいたのに!


 テレサは自分を責めながらただ領主の名を呼んでいたが、やがて解呪の疲労も手伝って、徐々にその声は小さくなっていった。

 フィンはその様子をしばらく見ていたが、テレサの肩に手を置くと小さく呪文を唱えた。


 城主の体が一瞬光ると、体から発せられていた異臭が肌や服の汚れと共に消えていく。同時にテレサの意識も途絶えた。


「二人ともお疲れさま」


 フィンは優しく二人を抱え、洞窟をあとにする。


 その頃、ミシャーナは侯爵邸の目と鼻の先にある場所で焦っていた。

引き続き不定期更新です。

ざまあカウントダウン10

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