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第23話 バリトー邸の秘密

 ひと通りベジ町の様子を見て回ったミシャーナとフィンは、急いでバリトー邸へと戻った。

 フィンは風の妖精というだけあって、ミシャーナの俊足にも難なく付いて来る。そればかりか、足は痛くないかと常に気遣った。

 底ぬけの優しさに触れて、嬉しいが少し照れくさい。ミシャーナはフィンを好きな気持ちを自覚したばかりで、好意にどう接していいか分からなかった。


 バリトー邸までは照れる間もなく到着した。セバスが扉を開け、屋敷の裏で肥料をこねていたバリトーの元へ案内した。


「おかえり。町はどうだった? 何もかも高かったろ」


 額の汗を布で拭きながらバリトーが近付いて来た。二人は顔を見合わせて頷くと、互いに感じたことを話した。


「はい、野菜も果物も質はほかの町と変わらないのに、値段は倍以上で驚きました」


「税金がすごくかかるって。店主は笑顔だったけど、僕には生きるのが辛そうに見えたよ」


 バリトーは汗を拭くのを止め、二人の顔を交互に見た。そして困ったような笑みを浮かべる。


「そうだろう? 前の領主様の時は良かったんだがなぁ……五年もすりゃあ、世の中も様変さまがわりするさ」


 ミシャーナは五年前の飢饉を思い出した。領民の頑張りもあり、わずか五年で豊かでなくとも民が餓えず笑顔を浮かべるほど回復したのを思い返し、状況が自分と重なった。


「五年あれば、人も変わりますから」


 セドリックとの関係も五年で大きく変わった。チクリ、と胸の奥が痛む。

 ミシャーナの気持ちが伝わったのか、フィンが肩を強く抱き「僕が守る」と感覚共有したことで、胸の奥の痛みは消え去った。代わりにあたたかな気持ちが沸き上がり、不思議と安心できた。

 二人は互いに視線を交わし頷くと、ミシャーナは意を決してバリトーに尋ねる。


「この領の帳簿を見ることができる施設を教えてくださいませんか」


 バリトーは一瞬驚いた顔をしたが、やがて真面目な顔で訊ねた。


「あるっちゃあ、あるが……どうするつもりだ?」


 ミシャーナは、バリトーに町での出来事を詳しく話した。

 ぶつかった男の持つ不自然な帳簿を確認するためにも、以前の町の帳簿が見たいことまで隠さず正直に話した。

 ミシャーナの真剣な思いを感じ取り、バリトーは書斎まで付いてくるよう促した。


 バリトーが案内した書斎は、机を囲むように()()()()()()()()()()が本で埋め尽くされていた。あまりの光景に言葉を失い、天井まで続く本棚を眺めている二人に向かってバリトーは「こっちだ」とさらに奥に続く扉を開いた。


 小さな扉をくぐると、そこには歴史書のたぐいが積み上げられていた。バリトーはその一角を指さしながらミシャーナとフィンに説明をする。


「ここに帳簿の写しがある。ただし、()()()()()()()()は無いがな」


 そして、バリトーは二人を見るとにこりと笑顔を浮かべた。


「オレはお前たちを信用してるんだ。なんせ人間ひとを見る目に厳しいテレサが気に入っちまってるからな」


 バリトーはガハハと笑うと、昼食の準備が出来たら呼ぶと言い、部屋を出て行った。

 どう見ても怪しいはずの二人を、たった数時間で信用できるものだろうか。

 二人はそろって首をかしげたが、考えている時間が勿体ないと急いで書類を確認しはじめた。


「以前の領主様が有能だと良く分かるわ」


 十年遡ってみても税の取り立てに問題がありそうな項目は見当たらず、それどころかベジ町の運営は潤沢だった。五年前の飢饉の時ですら被害に遭うことなく豊富に食料が確保され、周りの町村に無償で食料の提供をしている。


「こんなに素晴らしい領主様がいらっしゃるなんて、五年前の私はまだこの国に来たことが無くて知らなかったわ」


 ミシャーナが遡って資料を見ていくと、補佐官の名前が何十年も同じ人物だということに気が付いた。

 その名前は“テレシア・ガイナ・ド・ダルトワ”。

 軽く五十年は補佐官をしているようだ。その名前を見て、フィンは驚いたようだった。


「ガイナ? 大地の妖精の名前……やっぱり、そうか」


「どういうこと?」


「この家は不自然に妖精が多いだろ? 気にはなったけど、確信がなかったんだ。テレサ……彼女は妖精か、その血を引く者だ」


 ミシャーナは息を飲んだ。妖精と縁を結んだ人間は自分だけだと思っていたからだ。そして一つの疑問を抱く。


「じゃあ、バリトーさんは……」


「人間だろうね」


 バリトーよりも若く見えるテレサ。それなのに五十年も補佐官をしている。

 妖精は年を取るのが遅いのかもしれない。もし自分がフィンと結ばれた時、年老いていくのが自分だけだとしたら……小さな不安がじわりと胸の奥に広がった。


「ミサ?」


 急に話を止めたミシャーナを心配してフィンが声をかける。驚いて体が跳ね上がったが、急いで体裁を整えた。


「なんでもないわ。けれど、テレサさんが妖精だなんて」


 頭をもたげた不安に蓋をし、ミシャーナは目の前の問題に集中する。

 資料と二人の記憶を照らし合わせ、複数の矛盾点により不正が見えた。


 あとは真実を突き止めるだけだ。

ゴールデンウイークなので本日は2話公開したいと思います。

ぜひ最後までお楽しみください!

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