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【短編】令嬢たちの華麗なる断罪 ~婚約破棄は、こちらから~  作者: 櫻井みこと


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それぞれのエンディング アリーナの決意5

 しばらく近況などを報告し合ったあと、メリッサがふと表情を改めて、仲間たちにこう言った。

「もうすぐ正式に発表することになると思うけど、わたし、婚約したの」

 そう告げたあと、彼女はとても嬉しそうに顔を綻ばせた。

 その表情から察するに、今度はメリッサも望んでいる婚約なのだろう。到着したとき、あとで報告したいことがあると言っていたのは、このことのようだ。

 皆、突然の報告に驚きながらも、それぞれ祝いの言葉を述べる。

「突然で驚いたわ。どなたと?」

 驚愕を隠そうともせずにそう言ったのは、カルロッタだった。貴族社会のことにはとても詳しい彼女でさえ、今まで知らなかったようだ。

「相手は貴族じゃないの。もともと婚約者だったセストも、そうだったし」

だから知らなくても無理はないと、メリッサは笑った。

町で育った彼女にもその父親にも、貴族の婿を迎えるという気持ちは最初からなかったようだ。

「だから今度婚約したのも、魔導具の職人よ」

「魔道具の職人って、もしかして……」

 ルチアの言葉に、メリッサは嬉しそうに頷く。

「そう。わたしが最近通っている、あの店の店主よ。彼は最高の魔導具職人だわ。あの人なら、わたしの夢を叶えてくれるかもしれない」

「メリッサの夢?」

「ええ。わたしの夢は、便利なだけではなく、安価で手に入りやすい魔導具を普及させることなの。今の魔導具は比較的高価な品で、一般市民では裕福な人たちしか購入することはできないわ」

 たしかに魔導具はとても便利なものだが、高価である。

「でも、一般家庭で便利な魔導具を簡単に使うことができるようになれば、生活は向上する。国民の生活が向上すれば、国力も上がるわ。そうすればレムス王国にはもちろん。どこの国にも負けない強い国になれる」

そう言ったメリッサは、アリーナを見て微笑んだ。

「ようやくわたしにも、アリーナ様のお役に立てる目標が見つかったわ」

「……メリッサ」

 アリーナは思わず彼女の手を取った。

 たしかにメリッサは昔から、魔導具が好きだった。

 でもそれを人生の目標として掲げたのは、アリーナの役に立ちたいと思ってくれたからだ。

 それを嬉しく思うのと同時に、自分のせいで彼女の人生を変えてしまったのでないかという罪悪感もあった。

「ごめんね。メリッサも、ルチアもカルロッタも私に出逢わなかったら、もっと違う人生になっていたかもしれないのに」

「そうですね」

 三人は顔を見合わせて、くすりと笑った。

「きっと、悪い方向に」

「悪い?」

「はい。だってアリーナ様に出逢わなくても、わたしたちの婚約者が変わることはないでしょうし」

 メリッサは笑ってそう言った。

「そうですね。ひとりでは、立ち向かう勇気が持てなくて、ただ耐えるだけだったかもしれません」

 当時のことを思い出したのか、カルロッタは憂い顔でそう言った。

「私は今と同じように婚約破棄を目指したとは思いますが、これほどは上手くいくとは思えません」

 ルチアの溜息は、婚約者だった男を思い出してのものだ。たしかに、あれほど愚かな男が相手では、アリーナだってかなり苦労したかもしれない。

「わたしたちは今のほうがしあわせです。それに、わたしたちはアリーナ様が大好きだから、お役に立ちたいんです。だから、気にしないでください」

メリッサの言葉にカルロッタもルチアも笑顔で頷いていて、思わず涙が零れそうになる。

 今までどんな状況になろうと、泣きたいと思ったことなど一度もなかったのに。

「……ありがとう。私も、みんなが大好きよ。これからもずっと、こうやってたまにはお茶会をしましょうね」

 仲間たちはみな、笑顔で頷いてくれた。

 それぞれの婚約者たちには本当に悩まされたが、こうして大切な仲間と出逢わせてくれた。

 これからもアリーナは、様々な敵と戦っていくのだろう。

 それでも、今のアリーナには心強い仲間と、頼りになる婚約者がいる。

 だからきっとどんな相手にも、もちろんエドガルドにも負けることはない。

「これからも頑張るわ。きっと魔導具を一般市民にも普及させて、それから女性がもっと色々と活躍できるように、国を変えていきたい」

「アリーナ様ならきっとできます」

「もちろん、わたくしたちも頑張りますから」

「きっとこの国は、これからもっと大きくなりますね」

アリーナは晴れ晴れとした表情で、涙を拭った。

「ええ。必ずそうしてみせるわ」

 

 

 仲間達との大切なお茶会は、のちに王妃陛下のお茶会と呼ばれるようになった。

 参加するのは、いつも王妃の大切な友人である三人の女性だけ。

 三人はそれぞれの立場から王妃を支えていて、その友情はいつまでも続いたという。


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