EP.5 - 34
コアンとエルミーの要望が通ったようで、客間に少量の食べ物が届いた。
カーアクションゲームから"けものピラー"にゲームを切り替えてプレイしながら二人が摘んでいるのは、ゴルフボール大のミートボールのようだ。
ミートボールと言えばとろみのあるソースのかかったものを想像するが、彼女達が食べているものはソースの代わりに粉末状の香辛料が塗してある。
味に関しては特に問題ないようで、んまんま言いながらコアンはフォークに刺さったミートボールを美味しそうに食べている。
(お気に召したようで何よりだな。しかし……)
俺の視界の隅、コアンの隣でそわそわと落ち着きの無い謎の女性が非常に気になる。
キース達と交わしている会話の内容から彼女の名前が"モエナ"である事は解ったが、何故日本語を知っているのかまでは流石に解らない。
(う~ん、モエナ…………もえな…………萌菜……いや、萌奈か?)
日本人ならば日本語を知っていて当然だ。
俺は彼女も自分と同じ様に異世界に転生したのではないかと睨んだが……
(……いや、違うな~)
彼女が日本人で日本語を喋ることが出来るのであれば、この世界では非常に希少な、日本語を理解できる人間であるコアンにもっと積極的に話しかけてきてもいい筈。
だがコアンに興味ありそうな素振りは見せているが一向に話しかける様子は無い。
恐らくは日本語ペラペラという訳ではないのだろう。
(謎だ……俺の知らない日本語の歌知ってるし……何者なんだモエナさん……)
モエナは相変わらずコアンの隣でそわそわしている。
話しかけたいが、コアンがゲームに熱中しているせいで遠慮しているのかもしれない。
(お嬢、モエナさんに気付いてやれよ……画面消しちまおうかな)
そう思った矢先、切欠が掴めずにいるモエナの代わりに口火をきった者が現れた。
「リオシェーイン!?」
「おわっ!?」
コアンとモエナの間にひょっこり顔を出して驚きの声をあげたのは、ユーシィの妹のリニーだ。
『リオシェーイン』とは、代名詞の『リオシェ』と疑問詞の『エイン』が繋がった熟語で、日本語で言うなら「なんだそりゃ!?」である。
突然背後で大声をあげられて驚き、振り向いた状態で固まるコアン。
リニーはそんな彼女を無視し、ソファーの背もたれから身を乗り出してスマホの画面を覗き込んだ。
「……ミュゾス?」
(ああ、やっぱり本だと思うのか……)
手帳型スマホケースの見た目のせいかもしれないが、異世界人達が俺を初めて見た時に発する言葉で一番多いのが『本』だ。
「おまえもやるかー?」
スマホに興味津々なリニーの姿を見たコアンは、案外すんなり貸し与えた。
彼女はスマホゲームを、言葉の通じない相手とのコミュニケーションツールと捉えているのかもしれない。
(お嬢もお嬢なりに色々考えてるのかもな……)
ゲームの操作説明をエルミーが行い、けものピラーでの交流戦が始まった。
拙いながらも一生懸命操作するリニーの手元をまじまじと見つめるモエナの姿が俺の視界に映っている。
彼女のその姿を見て、俺は一つの結論に至った。
(あー、モエナさんはスマホの事をお嬢に聞きたくてそわそわしてたんだな)
やはりモエナも、何この本……とか思いながら見ていたのだろうかとぼんやり考えた。
(スマホ知らないんだし、やっぱ日本人じゃないどころか普通に異世界人だな……色々と謎すぎるな彼女)
モエナについての謎は深まるばかりであった。




