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EP.5 - 32

 俺の視界には、茶髪の少女を抱き締めながら号泣するユーシィが映っている。


 客間に誰かが訪れ、その姿を見るや否や悲鳴を上げたユーシィ。

 何事かと思っていると、彼女は部屋を訪れた茶髪の少女に駆け寄り抱きついた。


 彼女は茶髪の少女を"リニー"と呼んだ。


 俺はその名前に聞き覚えがあった。

 森でユーシィが呟いた独り言にその名前があり、言葉の内容からそれが妹のものであるという事までは理解していた。


 様々な状況を加味した結果、ユーシィの姉と妹は殺されていて、既にこの世には居ないと憶測していたのだが、どうやら妹の方は行方不明になっていただけだったようだ。

 リニーを見た時のリアクションから察するに、もしかしたらユーシィも妹は死んでしまったと諦めていたのかもしれない。


(いやぁ~、良かったなぁ……)


 感動の再会シーンだが、"再会"という言葉の響きに胸|(そんなものは無い)を打たれ、俺の気分は少々沈んでいた。


(こっちに来てからもう一年か……俺も真歩ちゃんに会いたいなぁ……)


 元の世界居る想い人が一年経ってどのような生活をしているのかと考えると、胸|(無い)が締め付けられる想いだ。


(流石に新しいスマホ買ってるだろうな……)


 時の流れは残酷だ。

 もし仮に俺が真歩ちゃんの彼氏で、彼女を庇って命を落としたのだとしたら、数年は独り身のままで居てくれる可能性も無くはない。

 つまり元のポジションに誰かがつくまでにかかる時間に余裕が生まれるという理屈だが、残念な事に死ぬ前の俺は今と同じ"スマホ"、単なる道具である。


(さっさと買い替えるよなぁ~、当たり前だよなぁ……)


 もしも声が出せていたら、恐らくは震え声になっていたであろう。

 無き声の変わりにスマホのボディが少し震えた。


(……いや、諦めちゃいかん! 寧ろスマホなら定期的に買い替える事になるじゃないか! 全然希望はある!)


 絶望的な状況かと思われたが買い替えのサイクルという盲点があった。

 そこに気付いたおかげで俺は弱気を振り払い、異世界のスマホとして天命を全うしようという強い意志を持つことが出来た。


「ヌアアアアアアアアア! ユーシィ! エスタンク!」


 突然大声を上げたのはリニーだ。

 ユーシィのハグが強烈だったのか、苦しそうに背中をタップしている。


(何か、どっかで見た光景だな)


 ユーシィに締め付けられているリニーの姿が、スマホのカーアクションゲームで楽しそうに遊んでいる狐娘とダブる。


(ユーシィが何だかんだお嬢の世話をしてくれていたのは、妹の事があったからなのかもな……)


 コアンが家出した時も、森で行方不明になった時も、いの一番に探し当ててくれたユーシィの胸中を思うと、彼女には幸せになって欲しいという想いが湧いてきた。


 彼女の行動には色々と疑わしい箇所が散見されるが、今見ている光景が偽りのものであるとは到底感じられない。


「リニー、ヘキサンツォークスエイゾ」


 リニーの声を聞いて我に返ったのか、ユーシィは抱き締めていた両腕を離すと落ち着いた口調でそう言った。


(ん? ……ああ、『姉と呼びなさい』か)


 ユーシィはスマホに保存されていた漫画に登場したその台詞を復唱し、覚えようとしていた。

 俺はそれが何の為なのかと色々憶測していた。

 だが、もしかすると何かの為というよりは、妹という存在を求める彼女の想いがそうさせていたのかもしれない。


 俺は改めて、ユーシィには幸せになって欲しいなと思った。

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