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EP.5 - 24

 薄暗い船室。

 小窓から差す日射しは木板の床の一部分を照らしているのみで、室内全体をカバーする迄には至っていない。


 床から照り返す淡い光を受けて、薄暗い室内に映えるものがある。

 それはクリーム色の長髪だった。


 暗がりにぼんやりと浮かび上がる美髪の主は、この船の乗組員を束ねる長だ。

 船で唯一の個室に陣取り、目的地に着くのを今か今かと待ちわびているその者は、端正な顔立ちをした女性である。


 齢は二十半ば程の女盛りであるが、機能性重視の地味な船乗りの服を着込んでいる為、魅力は半減してしまっている。


 彼女が搭乗している船は、貨物船として造られたものだ。

 しかし船は現在、何処かへ積み荷を運んでいる訳ではなく、別の目的で大海原を旅している。


 この船の乗組員は皆、海賊であった。

 元々貨物船だった船は彼等に強奪され、現在は所謂"海賊船"に成り下がっている。


 そしてその海賊を束ねる女頭。

 見た目に似つかわしくない役職を持った彼女の名は、


『モエナ=マトー』


『モエナ祭』の元ネタの、大昔の偉人と同性同名であった。


 一応この船で一番位の高い存在である彼女の部屋のドアを、何者かがノックもせず乱暴に開け放った。


「モエナ、リコアンスキー!」


 モエナに食事の支度が出来たと元気良く声をかけてきたのは、茶髪の少女リンネだ。


 リンネは今、海賊船に乗っているが、海賊ではない。

 奴隷商人に売られそうになっていた所をモエナに助けられ、現在故郷に送迎されている最中なのだ。


 リンネは、今向かっている大陸の、内陸部に存在する大きな街で商いをしているマークェイという家の者だ。

 つまり名前は、


『リンネ=マークェイ』


『リニー』という愛称を持つ、ユーシィの妹である。

 マークェイ家の者達は生存を絶望視していたが、リニーは生きていたのだった。


 ミノーグ家と結託していた海賊に拐われ、奴隷商人に売られそうになったところを、同じ海賊のモエナに助けられるという事態にリニーは当初困惑した。


 何を思ってモエナが自分を救ったのか、リニーには皆目見当がつかなかったが、心変わりされては困るので御機嫌取りの為に、乗組員に出す食事の調理を手伝っているというのが現状だ。


「モエナ、ティンドバック!」


「クー」


 料理が準備された大部屋に向かう為、モエナはリニーに連れられ船室を後にする。


 先を行くリニーの背を、モエナは優しげな目で見つめている。


 彼女が縁もゆかりも無いマークェイ家の者を救ったのは何故か。

 その動機は単純明快であったが、そこに至る道筋は複雑怪奇であった。


 モエナの腹が鳴る。

 食事時なのだから当然だ。


「……トーリトッリニークニックハーラヘッター♪」


 モエナは、リニーを追いながら小声で歌を口ずさんだ。

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