EP.5 - 25
モエナとリニーが辿り着いた時、大部屋では既に海賊達が料理に舌鼓を打っていた。
その様子を、リニーは喜びと安堵と達成感の入り混じった複雑な感情と共に見ていた。
リニーが調理を手伝い初めてから、この船の食卓は様変わりした。
大雑把な味付けが当たり前であった、決して良いとは言えない食卓事情に革命を起こした彼女は、船に同乗する海賊達から"厨房の英雄"と呼ばれ、持て囃されていた。
料理が好きで得意だからと皆に伝え、調理場に居座り航海の間中来る日も来る日も料理に精を出していたリニーだが、実は料理が得意でも、好きでもなかった。
料理の得意な姉のユーシィに対抗心を燃やし、何度か挑戦をしてみたものの満足のいく結果にならず、度重なる失敗はやがてリニーの心を実家の厨房から遠ざけた。
なので彼女の料理の知識はそれ程多くない。
それでも、海賊達の御機嫌を取る為に少ない知識を総動員して料理に励んだ。
何せ相手は肉親を一人、事も無げに殺し且つ自分を奴隷商人に売ろうとした者達の仲間なのだ、いつ気が変わり酷い目に合わされるか解ったものではない。
そういった考えがリニーを突き動かした、彼女は生きようと必死だったのだ。
そんな様子を温かい目で見守るモエナには、リニーの心配とは裏腹に、彼女を害する気など一ミリも無かった。
モエナはこの船の乗組員に対し、リニーに手を出したら海に捨てるという意思を伝えていた。
既にリニーの安全は保証されていたのだった。
「…………モエナ?」
テーブルについたものの、一向に料理に手をつけず自分の食事する姿をじっと見つめているモエナを不気味に思ったリニーは溜まらず彼女に声をかけた。
モエナはリニーの問いかけに対し特に何か喋るでもなく笑顔で答えると、食事を開始した。
リニーは訝しげな表情をするが、下手な事を言って怒らせるとマズイと思い、特に追求せず食事に集中することにした。
モエナ同様、リニーも空腹であった為に食は進む。
気付けばガツガツと料理を掻き込むリニーの様子をまた、モエナは食事の手を止め笑顔で見守るのだった。
モエナの、リニーに対する態度は、海賊達の間にあらぬ噂が立ってしまう程の異常さがあった。
まるで親が我が子にそうする様に、異常な愛情をリニーに注ぐモエナ。
何故モエナは縁もゆかりも無いリニーを救い、過剰に庇護し、更に故郷まで船を使い送り届けるという行動に出たのか。
その理由は、モエナの稀有な運命にあった。




