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EP.5 - 18

 御家再興の要であるキースが罪人として扱われているという驚くべき光景に、ユーシィは酷く狼狽した。


 肉親を失い、その手を血で染め、あらゆる苦労を厭わず積み上げてきたものが崩れ落ちようとしている。

 そんな状況で、平静を装っていられるだろうか。


「…………」


 そうは言っても腹は減る。

 ユーシィのお腹は一際大きな鳴き声を上げた。


「おばさんのおなか、さっきからうっさいな~」


「………………」


 コアンが何と言ったか、ユーシィには分からなかったが何が言いたいかは分かった。

 が、敢えて反応しなかった。それどころではないからだ。

 空腹が気にならない程に胸の鼓動が高鳴る。

 心的苦痛のせいで、すっからかんな筈の胃から何かが逆流してきそうであった。


 キースが何の罪に問われているのか。

 その点に関しては分からないが、ユーシィはこの件にもミノーグ家が一枚噛んでいると踏んだ。

 確証は無いが、もしそうだとするならばミノーグ家の悪事をここで告発する事が出来ればキースも無罪放免となるのではないだろうか。


 確証は無い、しかしやるしかない。

 改めて決意をしたユーシィが手元に目線を落とすと、コアンの絵本はいつの間にか彼女の顔を映していた。


 その顔は少し、強張っているようだった。


 これではいけない、自信を持たねば。

 ユーシィはそう思い、首を二度程横に振り、唇を締めると一度頷いた。


 絵本に映ったユーシィの顔も同じ様に動作する。


 鏡とは違う映り方をしている自分の姿が少し気になったユーシィ。

 視線が真っ直ぐ自分を見ているのではなく若干ズレているのだ。

 鏡の様にただ反射しているのではなく、誰かが見ている景色を覗き見ているような奇妙な感覚が湧いたが、恐ろしさはなかった。


 荒んだ心を歌声で癒してくれた絵本。

 その事実が絵本に対する不思議な信頼感をユーシィの心に生じさせた。


 キースもこの絵本に救われたと語った。

 精神論のような話ではなく、文字通り死の淵から彼は救われたのだという。


 そして今はきっと、自分の為に何かしてくれようとしている。

 コアンの所有物である絵本は、彼女の世話をしてきた者の助けになるような事する、そういう性質を持っているのではないだろうか。

 意思を持っていると思しき不思議な絵本を持った狐の少女コアン。

 彼女はキースの言う通り、神の使いなのかもしれない。

 神は、日々祈りを捧げる敬虔なる信徒に救いの手を差し伸べるという。

 それと似たようなものなのかもしれないというのがユーシィの考えだ。


 一時は使いの者を殺そうとしていた自分をお救い下さるとは、狐の神はなんとも慈悲深いなと思いながら、ユーシィは右手を高々と挙げた。


 会場にいる者達はキースの来訪に面食らっていて、発言をしようという考えが頭から完全に抜けている。

 即ち現在挙手をし発言権を求めている者はユーシィただ一人となる。


「ユーシィ=マークェイ、ユシオン」


 案の定、ユーシィは発言を許可された。


 驚いている他の者と違い、議長は平静を保ち会議を継続させようとしている。

 それはつまり、キースがこのような登場の仕方をする事を彼が事前に知っていたという事になる。


 場を取り仕切る立場にあるのだから知っていて当然ではある。

 そのような重要な役割を担っているのだからきっと高位の神官か何かなのだろう。

 であるならばミノーグ家の息がかかっている可能性は低いと考えられる。


 大丈夫だ、問題ない。


 ユーシィは自らを奮い立たせ、座っていた席を離れて会場の中央へと向かう。

 途中、何となくキースの方に目をやった彼女は、不思議なものを見た。


「…………?」


 目隠しをされていて表情は分かり辛かったが、キースは確かに笑っていた。

 口元が緩み、口角が上がっていたのだ。


 あの男はいったい何を考えているのだろうか。


 折角不安を振り払い、意を決して証言の場に立とうというところで新たな不安が生じてしまい、ユーシィはほんの少し苛立った。

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