表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/160

EP.5 - 17

「おーい、きーす! なにやってんだおまえー!」


(そんな大声出すと怒られるぞ……)


 俺の視界には怪訝そうな顔をして遠くを眺めているユーシィの顔しか映っていないので確認できないが、どうやらこの場にキースが現れたらしく、その姿を見たコアンは大声でキースを呼んだようだ。


「コアン=マークェイ、シェイク!」


(ほらやっぱり怒られ…………マークェイ?)


 議長担当のおっさんは確かに「コアン=マークェイ」と言った。

 状況から考えて別の誰かを呼んだという事は無いだろう、間違いなく狐娘のコアンをそう呼んだのだ。


「コアン、シーーー!」


「あーもーうっさいなー、わかったわかった」


 再びエルミーに諭されるコアン。


(うっさいのはお嬢の方なんだけどな……しかし、妙なことになったな)


『マークェイ』はユーシィのファミリーネームだ。


 孤児であったと思われるコアン。

 彼女の本名は未だ不明で、現在呼ばれている『コアン』という名前すら便宜上付けられた仮のものだ。

 それに加えて本日ついに他人のファミリーネームが付けられる事になってしまった。


(お嬢……ユーシィの家の子になるのかな)


 どんな意図があってこの場でコアンに『マークェイ』という姓が付けられたのかは不明だが、もし仮にマークェイ家がコアンを養子として貰う意思があるのだとすれば、正直願ったり叶ったりだ。

 キースのところには成り行きで居候していたに過ぎない。

 正式に家族として迎えてくれる人が現れたのであれば大変喜ばしいことだ。


 勿論、問題が無いわけではない。

 本当に養子縁組がなされているのであれば、間違いなくコアンの意思を無視してのことであろう点がそのひとつだ。


(ああ、そっか! それでユーシィはあの漫画を一生懸命読んでたんだな……)


 数日前からユーシィが必死に読んでいた悪役令嬢ものの漫画。

 特に重点的に読んでいたシーンは主人公である悪役令嬢がヒロインを養子に迎える前後のエピソードだった。

 恐らくユーシィはその話がどういうシチュエーションなのかを理解していて、コアンを説得する為に必要な日本語が含まれていると考え、それがどれであるかを探していたと思われる。


(俺が言葉を話せれば説得してやれるのになぁ……)


 コアンとユーシィは、決して仲良しとは言えない。

 しかし胃袋をがっちり掴まれているコアンは、なんだかんだユーシィに懐いていた。

 先日もユーシィの家で出された料理を美味しそうに食べていたコアン。

 そんな彼女に「あれが毎日食べられるぞ」と言ってやるだけで間違いなく説得は成功する、断言できる。


(殺意の波動を向けられた時はどうなることかと思ったけど……大丈夫そうだな)


 ユーシィは明らかにコアンに殺意を向けていた時期があった。

 そして対立していたであろうエスティを実際に殺害した。

 得体の知れぬ憎悪を持つ彼女が、コアンにどんな危害を加えるのかと危惧していた事もあったが、どうやら円満解決しそうだ。


「……かえせっ!」


「アッ!」

(うおっ!?)


 あれこれ考えていた俺を、コアンが突然ユーシィの手から奪った。


「あいつたぶん、ぬすみぐいしてつかまったんだぞ」


 コアンはそう言うと、スマホを構えてカメラを起動させた。

 スマホの画面、そして俺の視界には見覚えのあるローブに身を包んだ大勢の者に囲まれたキースの姿が映りこんだ。


(えっ……いやまさかそんな事……でも、確かに拘束されてる感じだな……)


 キースは黒い布で目隠しをされ、両手は背中で縛り上げられているようだった。


「どんくさいやつだなー、あとできのこにもみせてやろう」


(暢気に録画なんかしてる場合じゃない気がするんだけどなぁ……キース、大丈夫かな)


 キースを囲んでいる者たちはクロスボウで武装している。

 丸腰の男一人に随分と大袈裟な感じだが、一体何の罪で拘束されているのだろうか。


(まさか、殺人罪か?)


 現在行なわれている会議では、コアンとエルミーの誘拐事件について話されていることは間違いない。

 そして事件の際、キースは多くの賊をその手で葬った。


(やっぱ聖職者たるもの人を殺めるのは御法度だったのか……でも、あの状況じゃ仕方がないだろうに……正当防衛だって事を証明してやらないとだな)


 仮に、キースが殺人の罪に問われているのだとするならば、彼の行動の正当性を証明する必要がある。


 現状、恐らくそれは可能だ。

 誘拐の被害にあったコアンとエルミー、そして襲われて重症を負ったユーシィの証言、それと俺の内部に記録されているエスティと賊の密会映像を証拠とすれば、反社会勢力と共謀したエスティの計画によってピンチに陥ったユーシィを、体を張って助けようとしたという大義名分が出来上がる。


(いやあ~まいったね、またスマホが活躍しちゃうよ)


 着々と徳は積まれている。

 元の世界に帰る為の条件が整う日もそう遠くないと感じられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ