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ヒガンバナ after story!

クリスマスに書いてあった後日談を、アップします。だいぶ季節外れで、ごめんなさい。

「じんぐるべ~る、じんぐるべ~るすずがなる~」

 心花は、回転台を左手で動かしながら、鼻歌交じりで真っ白な生クリームをひよこ色のスポンジの上に伸ばしていく。雪原のように、綺麗に一面を純白に染め上げると農園の人に、大き目のものを厳選してもらった真っ赤な苺をうっとりと見つめる。スタッカートを刻みながら、スライスして、ダリアのように並べていく。最後の苺を掴もうとした指先が何もないまな板の上に落ちる。

「あれ? たしか、あともう一個あったと思うんだけど? いちご~、いちご~。どこににげ~た~の」

 心花は、こてんと、愛らしく小首をかしげる。まな板の上に視線を走らせるものの、赤い液体だけが残るだけで、果実の姿が見当たらない。どこかに逃げ出しちゃったのかと、流し台と床に視線を走らせる。

「うーん、心花ちゃんは、私の子とは思えないほどに健気よね。この新鮮な苺、リコちゃんのためだけにわざわざ取り寄せたんでしょう。本当にこういうところは、正臣さんそっくり」

 死角となる背後から投げかけられた言葉に、心花は呆れたように振り返る。案の定、紫薇の指に果実の汁がてらりと照明の光を受けて光っていた。

「お母さん! つまみ食いは禁止ですよ。冷蔵庫の中に入っている苺なら一つくらいつまんでもいいけど……その代り、母さんの分の苺は一つ減らしちゃうからね」

「えー。心花ちゃん、お母さんには冷たい―。もう少しくらい、お母さんにもやさしくしてよー」

「お母さんもお父さんも優しくすればするほどつけあがるじゃないですか! もう、そんなんだから、リコちゃんが研究室に入りびたりで、なかなかお家に帰ってきてくれなくなるんですよ」

 わざとらしく唇を尖らせて、顔を背けると、ボールの中に残った生クリームを絞り袋の中に詰め込む。花口金から、じゅわっと顔を出した生クリームをケーキの上に押し付ける。しゅんと落ち込んだ気配を感じて、肩を落として振りむく。

「え、あ、これもダメなの? でも、これもう使わないと思ったし余り者なら味見しても怒られないかなって。あははは」

 パレットナイフにこびりついた生クリームを紫薇が急いで舐めとる。それからすました顔で、流しの盥の中にナイフを押し込む。

「もう、お母さんってば」

 より一層尖らせた唇にくちゅっと苺が押し付けられる。

 驚いて、心花はぎっと込める力を強めた。

 ぶじゅう。

「ん、ぶじゅう? ああああああ、どうしよう、リコちゃん。生クリームがぁ」

 うっかり絞り袋を握っている方の手に力を込めたせいで、盛大にクリームが噴き出してしまった。ぼたぼたと床にクリームの残骸が、落下する。パニックになったせいで余計に、 飛び散る。ふと、背中から右手にかけたぬくもりを感じて、急停止する。

「心花ちゃん、大丈夫」

 抱きすくめられ、やわらかい双丘が、背中に押し付けられる。耳元で感じると吐息にこわばった力が抜けていく。汚れた床をいつの間にか現れたホームメイドロボがきれいに清掃していく。

「お母さん」

「なぁに。心花ちゃん」

 紫薇は、優しく微笑みながら心花の手をケーキの上へと誘導していく。そして、苺のダリアの上にゆっくりと特大のハートを描く。紫薇とこんなふうに密着するのはいつぶりだろう。オーブンから鳥の焼けるいい匂いが鼻孔をくすぐる。

「お、いい匂いがしてきた。こっちのデコレーションは終わったよ。リーちゃんももうすぐ仕事から帰ってくるよ」

 暖簾を押しのけて台所に正臣が顔を出す。ケーキの上に不器用に書かれたハートに正臣がぷっと吹き出す。

「笑って、ごめん。紫薇が、台所に立っている姿が新鮮で。僕の可愛い奥さんと娘が、仲よくケーキを作っているからね。つい」

 正臣は笑ったお詫びとして、冷蔵庫に残っている苺に切り込みを入れ、そこに生クリームを押し込む。チョコペンで、目を書き込んで最後にもう一度生クリームで飾る。そうしてできた四つの苺サンタクロースを仲よく並べる。

「ああぁ。やっぱり料理は、あなたにはかなわないわね。何よこれ、食べるの勿体ないくらいかわいいじゃない。こっちの大きいのにはおひげが生えて、隣にあるのはおめめが、くりっくりね」

「その隣にある苺は、なんか猫の目みたいでリコちゃんっぽい。こっちは、眠そうな目でお母さんみたい」

 顔を見合わせて、くすりと親子仲よく笑い合う。

「ただいまぁ。何でこんなに狭いところで集まっているの?」

 ひょいっと暖簾をかき分けてリコリス半身だけ、乗り出す。正臣がみんなでケーキのデコレーションをしているのだと笑うと、リコリスは『angela』とロゴの入った袋を一度イスに置く。ごそごそと仲をあさり、プラスチックの入れ物の中から、お土産に持たされたもみの木の砂糖菓子を取り出す。

「どうせなら、家族全員の合作にしましょう」

 リコリスは、色艶やかな砂糖菓子をちょこんとケーキの上に飾り付け、満足げに一つ頷く。

「わぁお。綺麗じゃない。そうだ、写真を撮りましょう!」

「え」

「まぁ、いいんじゃない」

「僕はカメラを持ってくるよ」

 正臣の飾り付けたツリーの下で、声をそろえてカウントダウンする。

「「「「さん、にぃ、いち」」」」

 ―――パシャッ。



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