第一節;華宮(ハナノミヤ)
鎌倉より続く、寝殿造りの屋敷。
コの字型を描くように建てられたその大きな屋敷に彼女は居る。
その中央には色とりどりの花。
江戸の世は火事が多く、火事と喧嘩は江戸の花などと呼ばれているが、そこにあるのは正しく観賞用の生花だ。
ツツジ科のエリカやキキョウ、キンセンカ等の花が咲いている。
それらが凛と咲いている様は、手入れの行き届いた証。
間違いなく、名家のものと言って過言でない。
花の甘い香りが屋敷を満たし、そよぐ風がその香りを優しく撫でている。
月光が花たちを照らす中、
その様子を眺めるように縁側に座っている女人がいた。
年頃の少女と呼ぶには少し若いように見える彼女が、
花々の手入れの主である。
慈しみ、水をやり、時には他の成長のために、自らその花を手折る。
手折る手は細く白く、十二単からは透き通った肌が垣間見え、
引き摺るほど長く艶やかな黒髪は、月光りを浴びて優しく光る。
その様から見てとれる、高貴さを醸し出すも何処か儚い少女。
今年で齢14になる、華宮である。
彼女は自身の妹の事をそっと思いつつ、これからの体制を考える。
京の限られた場所でしか身動きの取れない彼女は、極稀に女人から外のようすを聞き入れる。
どうやら、幕府がまた何かを企てているようである。
―…世も変わりつつある…
そんな事を考える華宮。
彼女にはもうひとつ重要な話があった。
此処までの花ばなを育てることのできる彼女だが、彼女は目が見えない。
自身の双子の妹と共に生まれたときから華宮は、目が見えないのである。
家は、それを良しとせず、華宮をこの屋敷へと閉じ込めた。
また、目が見えないはずの華宮がなぜか花々を選別し、育てる姿を家の者は気味悪がった。
だが、華宮はそれでも良いと考えていた。
目が見えないせいで、あまり動くこともできない、
けれど寿命も永くは無いことを確信していたからだ。
良くても20…悪くて今年。
そう考えて生き続けていた。
人の世は短命なのである。
なのに、動くこともできない自分が、長生きできるはずがない。
家が、もし華宮を使うとすれば、
緊急事態のときか、政治的目的。
生まれてから屋敷を出たことのない華宮は、兄や姉の顔も分からない。
会ったことがないからだ。
ただ一人、妹の和宮以外には…
今の華宮の世界は女人と和宮、育てた花で、構成されている。
見えることのない世界。それを夢に描いて…