No. 2 Blood Lake
「あなた、本当に何者なの。秘匿兵装まで持っていて。あんな所に行きたいなんて」
「なんかも言ってるじゃん。あたしはアリスって。さすがにしつこいよ」
後ろに倒れた人物に目をやる。それは正確には人のようなものであった。人造人間兵プレイング。ワンダーランドを中心として支配する企業、MaxiMilian Mirage Inc.その商品の一つであり、この装備品などからおそらくこの個体は都市警備隊のはず。
「躊躇なく撃ったわね」
「見つかると面倒だし、ささっと片付けるのが吉ってもんじゃん」
「後から増えて追ってく老世になるけど」
「知ってるー。だからほら」
再び彼女に力強く手を引かれる。
「一緒に行こうよ、アリス」
「いや、私はガードに見つけてもらえば助かるかも」
「えぇ、んなわけないじゃん。ここのやつらは基本的に中央に近づいた奴らはぶっ殺しに来るから駄目だと思うよ」
結局話も聞いてもらえず、そのまま引っ張られていく。彼女はバンダースナッチを使用しているだけあり、力は異常なほど強い。
「あなた、他に何か持ってるの」
「何を」
「はぐらかさないで、バンダースナッチとジャバウォック以外に」
「あと一つしかないから安心してぇ」
この二つとくれば、残りの候補は二つ。ジャブジャブとスナーク。
「変形式外骨格ジャブジャブ?」
「あったりー」
「それ全部、秘密も秘密。外部には絶対漏れないようになっているはずなのに」
「そりゃあたしが内部の人間だし」
数瞬、思考する。アリスはいただろうか。自分と同じ名前の人物が関係者に。それにそうであるなら彼女がガードと敵対する必要はないのでは。
「私は知らないわよ。あなたなんか」
「そうだろうね。何せあたし自身も秘匿存在だったし」
「じゃあ、家に帰りたいだけなの」
「なわけ」
「じゃあどうして」
「復讐だよ。私をコケにしてくれた現CEOさんにね」
そうして話をしつつ歩いていると、金網の下のあたりに背の小さい人なら何とか通れるくらいの穴が開いていた。
「……ここ通れそ?」
少しかがんでみるが、
「無理」
「えぇめんどくさいな。ネズミに頼りたくなぁい。それに」
彼女はすっごく面倒くさそうな顔をした次の瞬間、真顔になり、再び銃を放つ。
「撃つ前に一言頂戴!」
「よけられたら嫌じゃん」
後方を見ると先ほどと同じ装備のガードが死んでいた。そのさらに後ろには何体もこちらに向けて走ってきているのがわかる。
「「「危険人物発見。無断侵入者発見。対処します」」」
射程距離にはいったことを確認するや否や、こちらに向けて問答無用の発砲を行う。
「本当に撃ってきた!」
「なー。そら逃げるよ」
今日はずっと彼女に手を引かれ続ける位置になるかもしれない。
がっちりとつかまれた手に連れられて薄暗い道を進んでいく。ガードに見つかる度に道を変え、さらに変え、さらにさらに変えて。
「これってさ」
「追い込まれちゃったよ。ねぇウサギちゃんジャンプとかして逃げられないの」
「無・理!私、あなたみたいに強化してないもん」
「はぁ、つっかえねぇ」
後ろにはぞろぞろとガードが集まってくる。
「仕方ねぇ、全部ぶち抜けば結果オーライってやつでしょ」
「本当にやるの?」
「それ以外ある?」
「私、ジャバウォックの検証データが一部心配な数値してたの知ってるからさ」
「んだよ、その対策のジャブジャブとバンダースナッチだろ。何事も実践、実地検査これ大事」
仕方ないと言っておきながら彼女は乗り気だ。初めて見るがトリガーハッピーというやつなのかもしれない。
「バンダースナッチヨシ、ジャブジャブ展開ヨシ」
彼女は背中から幾本もの細長いものが伸び、腕を補強、体を地面に固定する。そうして量の手を合わせ前ぽへと突き出す。
「ジャバウォック準備」
手のひらは悍ましい化け物のアギトとなり、その喉奥から対物ライフルのような重心が伸びてくる。
「ヨシ」
こちらに向かってガードは未だに走ってきている。道が狭いため一直線に並んだ彼らはいい的だろう。
「耳塞いどきな。ウサギちゃん」
指示に従い、耳をふさぎ姿勢を低くする。
「死刑執行だ。死ね、糞ガード」
今までにない爆音。発射による音が体にたたきつけられる。見なくてもわかる。見たらもっとよく分かる。ああ、かわいそうに。ガードたちがいたところには、悲しいことに血の池ができていた。どうやら肉片すらも残さずに吹き飛んだようだ。
「ふぅ。これできれいサッパリってやつ」
「耳が痛い……」
「なっはっは。大丈夫?」
「大丈夫じゃない」
また、彼女の手により引き起こされる。何度もやられて慣れてきたかもしれない。それよりも少し気になることがある。
「ウサギちゃんって私のこと?」
「そうだけど」
「なんで!?」
「ウサギの耳飾りしてるし、ちょっと小動物っぽいから」
「でも、アリスって呼べばいいじゃない。それにあなたの方が私よりも小さないじゃない」
「そだね、でもいいの?ウサギちゃんはグループの一員でしょ。名前と顔が一致してる状態で私居るところ見つかったらただじゃすまないよ」
「それって」
「私ね現CEOに目ぇつけられてるから。指名手配ってやつ」
表立って聞いたことはない、しかしうわさ程度なら聞いている。グループに仇為す者、不都合なものを消すために警備の中で指名手配が行われていると。
「それに二人ともアリスじゃ不便でしょ」
謎ばかりが深まっていく。彼女が何者なのかとか、なぜグループはそんなことをしているかとか。
「そろそろ、ウサギちゃんについても教えてよ。さっきからあたしのことばかり、不公平ってやつじゃん」
そう言われ、彼女の腕に抱き寄せられる。
「え?ちょっとなに」
「いやぁ、ちょっとこっちの方が聞きやすいし、移動しやすいから、さっ」
と、今まで装甲にしていた皮膚が引き延ばされこちらを包み込んでいく。生暖かいそれが全身を包む。鼓動が耳に入り込む。体内に取り込まれたようだ。
「舌かまないようにね」
「本当に何を、ぶっ」
周囲が横になったかと思ったとたん、激しく揺れだす。
「このまま、包囲抜けていくから、それまで我慢ね」
外からは轟音が響いてくる。どうやらジャバウォックを放っているようだ。……ジャバウォック、おそらく彼女がこれを持っていることが彼女に対する指名手配の原因の一つなのだろう。私の作り出した商品の中で危険で価値があると判断された三つのもの、その全てを彼女が持っているのは、未だに疑問が絶えない。
悪くない展開かもしれない。これで私は自由なのだ。漸く私は時間に追われないで済む。彼女には最期まで付き合ってもらいたい。




