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第90話 何のために学ぶのか

 翌日。魔法学園にて、ミルとポニは朝の講義から出席していた。三人は昼食を一緒に摂るために、待ち合わせをしていたが、ミルが一向に現れない。


 アリエスとポニは様子を見に魔導機械の講義が行われていた教室へと向かった。教室に到着すると、何やら騒がしい。前方に人だかりができていた。


 それを横目にミルを探すが見当たらない。


「ねぇ、あなた、今日からこの講義を受けている見学生の子を知らないかしら?」


 適当な生徒を見つけ、アリエスはミルの行方を訊いた。


「あれよ」


 指差したその先、それは人だかりを示していた。

 目を合わせるアリエスとポニ。


 ゴクリ__


「いいわ……。私がいってくる」


 そう言って、意を決したアリエスが人だかりへと突入していった。



 なんとかミルを教室から連れ出し、三人は食堂へと向かった。


 昼時の食堂は、相変わらず多くの生徒で賑わっている。談笑する声、食器の触れ合う音、漂う香ばしい匂い。活気に満ちた空間だった。


 講義後の騒ぎで時間を取られたせいか、すでに席はほとんど埋まっている。食事を受け取った三人は、人混みの間を縫うように進んでいった。


「席……ある?」


 ミルがぽつりと呟く。


「ん? ああ、大丈夫よ」


 そう言って、アリエスは慣れた様子で辺りを見回した。


「あ、いたわ! あそこ」


 視線の先、一人のエルフの少女が座っていた。

 橙色の瞳、長い黒髪を両サイドで束ねた、快活そうな少女だ。


「アリエス、遅いじゃない! 何してたのよっ」

「ごめんごめん。ちょっとこの子を引っ張り出してたら遅くなっちゃって」

「この子?」


 怪訝そうに首を傾げる少女の前へ、三人が腰を下ろす。


「この二人が昨日話してた子たちね」


 少女は二人に向き直った。


「はじめまして。わたしはリタよ。よろしくね!」


 八重歯をみせ、満面の笑みで二人を歓迎する。


「ミル……」

「ポニと言います」


 二人も順番に名乗った。


「それで何があったのよ? ちゃんと説明してくれるんでしょうね!」


 先のアリエスの〝引っ張り出す〟という言葉。何があったのが、リタは気になる様子だ。


「二人が今日から見学生として授業に参加することは伝えてたわよね」

「そうね」


 アリエスは先んじて、新たに仲良くなった二人のことをリタに伝えていた。


「実はこの子。〝魔導機械人形ギアノイド〟なのよ」

「魔導機械人形!? ってあの!?」

「そうそう。その魔導機械人形本人が、魔導機械アーティファクトの授業に出たもんだから……」

「あ〜」

「注目されるとは思ってたけど、まさかあれほどとはね……」


 リタも察したようだ。


「講義のあと、囲まれちゃったみたいで。そこからはもう質問攻めだったみたいよ」

「すごい人だかりでしたよね〜」


 ポニも率直な感想を述べた。


「私たちが行ったときにはもう教室中の……いやあれは他のクラスからも集まってたわね……。ミルの姿が見えなくなってたわ」


 アリエスは遠い目をした。


「それで、なんとか引っ張り出してたら遅くなったってわけ……」

「大変だったわね……」


 魔法学園の生徒たちは、良くも悪くも探究心の塊だ。

 興味を持てば一直線。遠慮という概念が薄い。


「つまり、遅れた原因はあなたってことね〜?」


 リタはミルへと身を乗り出しながら、ニヤリと笑みを浮かべた。


「お詫びに一口っ!!」


 そう言うなり、リタはミルの皿からスープをひと匙すくい、そのまま口へ運んだ。


「んっ、おいし……」


 言いかけたところで、ぴたりと空気が止まる。

 ミルが、動きを止めていた。


「…………」


 先ほどまでは軽快にスープを運んでいた手は止まり、無表情にも関わらず、心なしか悲壮感めいたそんな感情をミルから受けた。


「え!? なに、どうしたの?」


 無言で見つめられ、リタがたじろぐ。

 ミルは空になったスプーン一杯分を、じっと見ていた。


「ミルちゃん、ミルク……、大好きですから…………」


 ポニが苦笑しながら、説明した。


「リタ……」

「えっ、わたし!?」


 名前を呼ばれ、リタの肩が跳ねた。

 ミルはじっとリタを見る。

 その無表情が、逆に圧を生んでいた。


「わ、わかったわよ! わたしのとっておきあげるから!」


 リタは楽しみにとっておいたデザートのミルクプリンを差し出した。

 ミルの視線が、プリンへ向く。


「……ありがとう」


 受け取った瞬間、止まっていた手が再び動き始めた。

 何事もなかったかのように、淡々と食事を再開する。


「…………」


 その様子を、リタは呆然と見守っていた。

 そして、アリエスは傍で込み上げてくる笑いを堪えていた。



 それぞれの食事がひと段落したあと、アリエスが話題を提供する。


「リタはね。こう見えて特級魔法を使えるんだよ」

「アリエス……、こう見えてってどういうこと?」


 ニシシ……と笑い、リタの言葉を誤魔化す。


「私はさ。初級の攻撃魔法すら、まともに使えないから。正直言って羨ましいんだよね〜」


 飲み物のコップに挿さるストローを弄りながら、愚痴を零す。


「何言ってんの! その代わり、あなたは付与魔法エンチャントがとび抜けて得意じゃない!」


 バシッバシッ!


「いたっいたいっ!」


 リタはアリエスの背中を叩いた。


「それだってすごい才能じゃない! 自信を持ちなさいよ!!」


 アリエスは背中を摩りながら、それを聞いていた。


「みんなさん、すごいんですね〜」


 ポニは尊敬の眼差しを向けていた。


「あなたもここにいるってことは多少なりとも魔法に関わりがあるのよね?」


 リタが質問をした。


「この子はね。使役士テイマーなのよ!」

「まだなったばかりだから、ここにはそのお勉強です♪」


 伝わらないだろうと察したアリエスが先んじて、説明した。


「どんな魔物と契約したの?」


 アリエスが興味深そうに尋ねる。


「わんちゃん♪」


 ポニは嬉しそうに答えた。


「あ、動物なのね」

「ちょっと大きいから町の外で待ってくれてるんです」


 その言葉に、アリエスの表情が引きつる。


「外って……大丈夫なの? 魔物に襲われるわよ」

「大丈夫って言ってましたよ」

「誰が?」


 〝大丈夫〟……。

 それは誰が何を根拠にして言ったのか。


「リルくん!」

「リル……くん?」

「その〝わんちゃん〟の名前みたいよ……」


 アリエスが補足する。

 つまりはその〝わんちゃん〟自身が、〝大丈夫〟とポニに伝えたということだ。


「あなた……動物の言葉がわかるの?」

「はい、少しですが!」


 胸を張るポニ。


「…………」


 動物の言葉がわかる。にわかには信じがたい。だからといって、アリエスとリタはこの満面の笑みを否定することなどできなかった。


「ふ〜ん、そうなのね……」


 リタは引きつった笑みを浮かべながら、なんとか言葉を返した。


「……一緒に頑張りましょ…………」

「はいっ♪」


 どうやらリタの中で、ひとまず〝学ぶ者同士〟という形で整理をつけたようだった。


「リタさんは、どうして魔法学園に?」


 ポニは不思議そうに尋ねた。


「優秀なのでしたら、学ぶ必要なんてなさそうに思うのですが……」

「そういえば、私も聞いたことなかったわね。特級魔法っていったら、もう一つの方向性を極めたようなものじゃない」


 アリエスも興味深そうに視線を向けた。


「あなたも私と一緒で卒業生よね?」


 その問いに、リタは静かに目を閉じる。


「……わたしには、魔法のライバルがいるのよ」


 ぽつりと零した。


「でも、いつも負かされてて……」


 その瞬間、リタの眉がぴくりと動く。


「ほんといつもいつも……涼しい顔して…………」


 だんだん感情が込み上げてきたのか、拳を震わせる。


「ああ、もう!!! 腹立つ~~~~、いけすかないったらないわっ!!!!!!!」


 怒りがピークに達した……。


「戦った後、煽ってくるときのあの憎たらしい顔っ!! 絶対いつか泣かしてやるううううぅぅぅぅぅううう!!!!」


 食堂中にリタの絶叫が響き渡る。


「リタ、少し落ち着きましょう……」


 アリエスが苦笑しながら宥めた。

 リタは荒く息を吐き、気持ちを落ち着ける。


「しかも、あいつ……、いつの間にか有名人になっちゃってたのよ………… 」


 どこか悔しそうに唇を尖らせた。


「ライバルとして負けてられないでしょ!!」


 拳を握る。


「追いつくために、新しい方向性を探したくて……もう一度、ここで学び直すことにしたのよ」


 リタは燃えていた。絶対に負かしてやると。


「なるほどね……」


 アリエスは、納得したように頷いた。

 リタとは対照的に、熱くなれるものがあることを心底羨ましく思った。


「それに……」

「それに?」

「……いえ、なんでもないわ」


 リタは何かを言いかけたが、言葉を止めた。


「アリエスはどうなのよ?」


 今度はリタが、アリエスへ視線を向けた。


「あなたも学び直しに来た理由があるんでしょ?」


 アリエスは少しだけ黙り込み、静かに息を吐く。


「……昔から仲のいい友達がいるのよ」


 その声音は、どこか優しかった。


「でも、その子……重い病気を抱えててね」


 空気が静まる。


「薬で延命する方法自体は、昔から確立されてたわ。だけど、その薬がものすごく高価だったのよ……」


 アリエスは視線を落とした。


「友達のお兄さんが、ずっと必死に働いて薬代を稼いでた」


 その光景を思い出すように、ゆっくりと言葉を発する。


「私も手伝うって言ったんだけどね……。断られちゃったわ」


 苦笑するが、その顔はどこか寂しそうだった。


「……アリエスちゃん」

「私、昔から付与魔法が結構得意だったのよ」


 どこか懐かしそうに笑う。


「色々調べては試してね。その友達と遊びで魔法を作ったりしてたの」


 その笑みが、少しだけ柔らかくなる。


「あるとき思ったのよ。少しでも楽にしてあげられないかなって」


 そして、小さく息を吐いた。


「それで、自分で病気に効きそうな付与魔法を作ったのよ」

「自分で……?」

「そこから色々あって、この魔法学園で学ぶことになったの」


 より高度な付与魔法を得るために。

 友達の病気を治す方法を探すために。


「学園で学んだ知識を使っても、病気そのものを治すことはできなかったわ」

「そんな……」


 アリエスがポニを静止する。


「それでも友達の病気を緩和させることには成功したの」


 アリエスは静かに微笑む。


「それでね。少し前、事情を知ってた博士から連絡が来たのよ……」


 そこで、アリエスの表情が変わった。


「例の病気の治療方法が見つかったって」

「えっ……!」


 ポニが声を上げる。


「きっかけは、全然関係ない研究だったみたい」

「博士がたまたま、その研究発表を見てたの。でも、その内容を見た瞬間……〝これは使える〟ってなったらしいわ」


 そこから病気の研究が一気に進んだ。


「その発見を足掛かりに研究が進んで……とうとう完成したって」


 アリエスは、どこか安心したように笑った。


「それで私は、ここへ来たのよ。その方法を、学ぶためにね!」


 しん、と場が静まりかえる。

 そして次の瞬間……。


「うっ、うぅぅぅぅぅ………………っ」


 隣から盛大な泣き声が響いた。

 見ると、リタがぼろぼろと涙を流していた。


「よかったじゃなああぁぁぁぁ…………い」

「さっきから静かだと思ったら、なんであなたが泣いてるのよ……」

「だってぇぇぇぇ……っ」


 感情移入しすぎたのか、完全に号泣だった。

 鼻をすすりながら、涙を拭う。


「……よくなるといいわね。その子」


 涙を拭きながらそう言うリタに、アリエスは少し目を細めた。


「……ええ」


 涙声でそう言ったリタに、アリエスは静かに頷いた。


 そのときだ……


 ズウウゥゥゥゥゥ………………………………ン


 食堂が揺れた。


「なにこの揺れ……」


 急な揺れに食堂がどよめき立つ。


「あれ……」


 ミルが最初にそれを発見した。



 この食堂は建物の五階に存在する……。



 本来のそれは大きくても建物の二階分程度の大きさだ。


 だが、窓の外に現れた。

 建物の外から食堂を覗き込むそれは〝ゴーレム〟だった______


【改訂版のご案内】


一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。

四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。


改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。


なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、

現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。


あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。


最後に、もしよろしければ何かしら反応などもいただけたら励みになります。

引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!


改訂版

https://ncode.syosetu.com/n5295md/

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