第88話 ようこそ魔法学園へ
魔道機械人形について。
そして、ナレッジ博士の想いについて。
その友人であるリヴェルナ博士から告げられた。
その内容に、室内はしんと静まり返る。
「うっ、ううぅ………………」
静まり返った空間に、その声だけが響いていた。
「あなた、大丈夫……?」
泣き声の主はポニだった。
一人、泣きじゃくる彼女をに、アリエスが声をかける。
「いえ、……ミルちゃんと……ミルちゃんのお父さんの想いが……あまりにも……あたたかくて……少し、涙が出てきてしまいました……」
「それは〝少し〟とは言わないわよ。〝号泣〟よ、それは……」
あまりの泣きっぷりに、アリエスは思わずそれを指摘する。
「でもでも……ああぁぁ………」
想いが溢れてしまったのか、ポニはさらに泣き出した。
ポフ____
泣きじゃくるポニを、ミルがそっと抱きしめる。
「ありがとう……」
「え……?」
誰もが予想していなかったミルの行動に、ポニだけではない。その場にいた全員が言葉を失った。
「わたし、感情がまだよくわからなくて……。でも、きっとあなたの反応が正しい……。代わりに泣いてくれて……嬉しかった…… 」
しばらくの間、ポニはミルに抱きしめられながら泣き続けていた。
*
ポニがようやく落ち着いた頃、博士がふと思い出したように口を開いた。
「そういえば、ここへは何をしに来たんだい? 何か目的があったんじゃないのかな?」
以前のミルを知る博士との再会は、あくまで偶然だった。
「学びにきた……」
ミルの短い言葉をきっかけに、アリエスが事情を説明する。
ミルが学園生活を通して感情を学び、人として成長するために、この魔法学園へ来たことを。
「なるほど、それで魔法学園に……」
博士は納得したように頷いた。
「わかった。かまわないよ。亡き友人の娘さんのためだ。私も全力で協力しようじゃないか」
博士は優しく微笑む。
その後、博士の手配によって、ミルたちは正式に講義を受けられることになった。
「それで、ミルさんは魔導機械について学ぶとして……そっちの彼女は、どんな講義を受けたいんだね?」
博士の視線がポニへ向く。
「そういえば、ポニについては宿屋の娘で、料理が得意ってことくらいしか知らないわね。何か学びたいことはあるの? 」
アリエスに尋ねられ、ポニは自分なりに一生懸命説明を始めた。
しかし、その説明はあまりにも〝ポニらしい〟ふわふわした内容で、理解するのがなかなか難しい。
(ラットに訊いておけばよかったわ……)
アリエスは内心でそう思った。
「やっと理解できたわ! つまり、ポニは使役士なのね!」
長い説明の末、アリエスはようやく結論へ辿り着く。
どうやらポニは、〝リルくん〟と呼ぶ〝わんちゃん〟をすでに使役しているらしい。
さらには、常にポニの周囲を飛び回っている小鳥の〝チリリ〟もいる。
その様子から、ポニはかなりの動物好きだということがわかった。
そして、ポニ自身も、使役士としての知識だけでなく、魔物についても学びたいと希望する。
動物好きなら、魔物に興味を持つこと自体はそれほど不自然ではない……。
ただ、普段の様子を見ていると____
(魔物をかわいい動物くらいに思ってたりしないかな……)
そんな不安も少し浮かんでしまう。
ただ、ポニについて意外だったことが一つある。
彼女は、人間族では珍しい精霊魔法の使い手だった。
しかも、中級精霊と契約している。
人間族で中級精霊と契約できる者なんて、ほんの一握りしかいない。
それらを考慮し、ポニには、精霊魔法や使役士関連の講義に加え、召喚魔法などの授業も勧めた。使役士であれば、いざというときに契約した動物や魔物を呼び出すことのできる召喚魔法の知識もあった方が役立つからだ。
そして、最終的に……
ミルは、魔導科学、魔導機械、それに用いられる魔法文字を。
ポニは、精霊魔法、召喚魔法、魔物学、使役士関連の実技を。
それぞれ受けることが決まった。
二人には学生服が渡され、学園内ではそれを着用するよう説明を受け、ミルに至っては、授業以外の時間に、アリエスや博士の研究を手伝うことになった。
「講義は、明日から受けられるけど、建物の場所がわからないと困るでしょ? これから案内してあげるわ!」
アリエスは提案する。
「……それだと目立つし、先に着替えちゃって」
そう言われ、二人は着替えた。
魔法学園の制服は、一般的な騎士学校のような堅苦しさはなく、どこか魔術師らしい雰囲気を纏っていた。
黒を基調としたローブ風の上着。
袖や裾には銀糸で魔法陣を模した刺繍が施され、胸元には学園の紋章が刻まれている。
内側は動きやすさを重視した軽装になっており、魔法の行使を妨げないよう細部まで工夫されていた。
小柄なミルが着ると、ローブが少し大きく見え、小動物のような愛らしさを纏っている。
その一方で、胸元は制服の上からでも存在感があり、無機質な表情との対比が妙に目を引いた。
対してポニは、平均的な体格もあって全体的によく馴染んでいる。
どこか素朴で親しみやすい、絵に描いたような魔法学園の生徒という印象だった。
「うん、なかなか似合ってるじゃない!」
アリエスは満足そうに頷く。
「アリエスちゃんも着替えたんですね!!」
彼女自身も学生服へ着替えていた。
長年着慣れているのか、その姿は学園の生徒というより、熟練の魔法使いのようにも見える。
「案内が終わる頃には講義の時間になるからね。そのまま出るつもりよ」
「講義、受けてるの……?」
「そういえば、元学生って聞いたような……?」
二人に聞かれ、アリエスは軽く笑った。
「私も今は正式な生徒ってわけじゃないわよ。でも、この魔法学園って、魔法研究機関の新しい発見や研究成果に合わせて、授業内容もどんどん更新されてるの」
アリエスは机の上に置かれた講義案内へ目を向ける。
「だから卒業したあとも、最新の知識を学ぶために講義を受けに来る魔法使いは結構いるのよ」
「アリエスちゃんも……?」
「ええ。私は一年半くらい前まで、ここで普通に学んでたわね」
どこか懐かしそうに、研究室に積まれた魔導書や資料へ視線を向ける。
「卒業してからは風の国へ戻ったんだけど……」
そこで、少し苦笑する。
「その頃には、勇者パーティがどうのこうのって、国中で大騒ぎになってたっけ」
「……巻き込まれてた?」
「ん……、どうかしら」
アリエスは少し考えるように視線を上げた。
「風の国が戦争に巻き込まれてるって話自体は聞いてたわ。でも、私の故郷って水の国との国境近くの町なのよ」
「じゃあ、巻き込まれてはいなかったんですね」
「そういうこと。だから正直、最初はあんまり実感なかったのよね」
アリエスの言葉を聞きながら、博士がふと思い出したように口を開く。
「そういえば、勇者パーティの魔法使い……。〝ラピ〟は、この学園の卒業生なんだよ」
「ラピさんが……?」
ポニが目を丸くする。
「ああ。在学中は問題もよく起こしていてねぇ」
博士は懐かしそうに笑った。
「初級魔法しか扱えなかったにも関わらず、上級魔法や特級魔法の使い手たちに平然と張り合っていたんだ」
「えっ、それって……」
今度はアリエスが言葉を詰まらせた。
「無茶だと思うだろう?」
博士は肩をすくめる。
「この学園は実力主義だからね。当時はかなり反発も受けていたよ。だが、あの子は結果で全部ひっくり返してしまった」
努力と工夫で、魔法使いとして才能ある者たちと肩を並べてみせた。
「だから当時は、かなり話題になっていたね」
そして今では____
「魔王討伐に貢献した英雄の一人として、生徒たちの憧れの存在になっているよ」
「ラピさん、すごい人だったんですね……」
ポニが感心したように呟く中、アリエスが手を叩いた。
「さて、そろそろ行きましょうか。案内する場所、たくさんあるしね」
「困ったことがあったら、いつでも研究室へ来なさい」
博士に見送られながら、三人は研究室をあとにした____。
【改訂版のご案内】
一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。
四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。
改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。
なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、
現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。
あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。
最後に、もしよろしければ何かしら反応などもいただけたら励みになります。
引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!
改訂版
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