第77話 檻の中の一騎打ち
血だまりに倒れるリオン__。
「リオンさんっ!」
ポニが叫び、バリアを解除し近づこうとする。
「まだだっ!!」
リオンの叫びに、ポニは寸前でバリアの解除を止めた。
「ぐっ、……うぅ…………」
ゆっくりとリオンは起き上がる。
「驚いた! 両断したと思ったのに。生きているとは思わなかったぞ」
倒し切れなかったことに落胆したわけではない。ただしぶとい奴、その程度の認識。そんな珍しいもの、おかしなものを前にしたときのような反応だった。
「なんとか斬られる直前に……体中の力を抜いて、少しだけずらしたんだ…………。ほんとに真っ二つになるところだったぜ」
リオンは傷を押さえながら、鞄から最後のポーションを取り出して傷口にかける。
「器用な奴だ」
ベルゼルは笑う。
リオンは幼少期に騎士団で訓練をしていたときのことを思い出していた。騎士団でいうところの副団長との摸擬戦。当時は副団長相手に手も足もでなかった。副団長はA級冒険者でも上位に位置する実力の持ち主だ。それに対して、このベルゼルは騎士団長と肩を並べる実力者。
「やっぱ副団長よりも強いんだろうな……」
リオンはB級の実力と言われていた。本来なら遠く及ばない実力差だ。
手に汗が滲む。
はじめての冒険で得た経験。
毎日のように襲い掛かってくる魔物たち。
ラットのアイテムによる強化。
仲間と共に訓練を重ねた日々。
それらを思い出していた___。
武器を構え、ベルゼルを迎え撃つ意思を見せる。
ヒュンッ___
ベルゼルは再び攻撃を仕掛けてくる。
その小柄な身体と羽による飛行能力で縦横無尽に飛び回り、リオンを翻弄する。
腕。脚。脇腹。頬。次々とダメージを負っていく。
辛うじて致命傷こそ避けるが、さきほどの多くの出血。
意識を保っているのが不思議なほどだった。
リオンはベルゼルの速度になんとか食らいつくが、防戦一方という状況は変わらない。
ベルゼルに確実に追い詰められていった__。
*
リオンを追い詰めていく中で、ベルゼルは少し煩わしさを感じ始めていた。
(なんだこいつ。いくら何でもしつこいな。もう五回は殺していてもおかしくないのに、ギリギリのところで耐えてくる……)
何度斬り込んでも、受けられ、軌道を逸らされ、決定打にならず、同じことを繰り返させられている。勘がいいのか。いざ〝とどめ〟にいったとしても、必ずその気配を察され、先回りされて潰された。
「いい加減に死ね。耐えるだけ無駄だ……」
キンッ___
ベルゼル目掛けて斬撃が飛んでくる。
攻撃がきたから、なんとなく防御し……
「!?」
目を見開く。
(今、攻撃されたのかっ!?)
リオンは攻撃する余裕などなかった。反撃する隙とて、なかったはずだ。
(いや、集中力に欠けていた)
すぐに考えを改め、気を引き締め直す。ベルゼルは確かに煩わしさを感じ、焦れていた。
その一瞬をたまたま突かれただけだ。
さらに、攻撃を加える。
ヒュンッ__
今度は攻撃に合わせ、カウンターを仕掛けてきた。
難なく躱せた。だが……。
(今度は油断などしていなかった。なにが起こっている!?)
ベルゼルは眉間に力を入れ、改めてリオンを見た。
(なんだ? さっきと様子が……)
リオンの様子は明らかに違っていた。
四方を飛び交うベルゼルとレイピア。先ほどまでは、それらを目で追うために頭を左右に振り、意識も散漫になっていた。
しかし、今は顔を前に向け、視覚よりも気配を感じ、目線だけが最小限に追っている。呼吸は整い、必要な動きのみで対処する。その立ち振る舞いから、とてもB級とは思えないほどの集中力、気の鋭さを感じとった。
ゾクッ
ベルゼルは、背筋に冷たい何かが這うのを感じた__。
*
リオンは最初こそ、その速度に翻弄されていたが、少しずつ思考が回り、冷静になってきていた。
血が抜けたからか?
頭が冴えてきたな……。
それにしても、ミルみたいに速い奴がこんなにいるなんてな。
……いや、ミルほどではないか。
実際に護衛隊はその速度に翻弄されているし。
ベルゼルだって、小回りを効かせて対応していたからな。
こんな小さな相手じゃ、攻撃を当てるのも一苦労だ。
そういえば、あの蜂型の魔物。〝キラービー〟っていったっけ?
あっちの方が厄介だったな。
小さいし、いっぱいいるし、ついでに毒もあるし……。
ラットの毒消しがなければ、死んでたし……な。
やりづらさでいったら、ロックの方がきつかったな。
距離を詰めても、離れていくし、弾幕も……。
ラットがいなけりゃ、何もできなかった。
それらに比べたら……。
なんか、いけそうな気がしてきたな。
王都を出てからの数々の経験が、リオンに心の余裕を与えていった。
(そうだ。こういうときは視るよりも感じることに集中した方がよかったな。視線の移動は最小限でいい。余分な情報は切り捨てる……)
キンッ___
レイピアではなく、ベルゼルの動きや目線を捉えて……。
運動能力の低いラットは自分よりも上の相手と相対することがほとんどだ。動きについていくために、相手の動きや全体の流れを予測していると言っていた。
ラットのように予測してみる。
ヒュッ___
リオンは攻撃の瞬間を見極めた。
さっきと同じ動き。
ここで速度が少しだけ落ちる。
リオンは予測し、自身の攻撃を挟み込む。
キンッ___
(受けられた……)
なら、ここで攻撃に合わせてみるか。
ヒュンッ__
(今度は躱されたか……)
次第に攻撃の数が増えていく。
キキンッヒュッキギンッ____________
リオンとベルゼルの力が、拮抗し始めていた。
*
ズッ__
互いに攻撃を受け、血が飛び散る。
ありえなかった痛みに、ベルゼルは顔を歪めた。
(ふざけるなよ。一方的にこちらが蹂躙するだけだったはずだ。なぜ手傷を負わされている)
両者の力は拮抗している。しかし、精神面では顕著に差が開き始めていた。当初の圧倒的な優位。それが崩れた。
対して、リオンにとってベルゼルは格上の相手。油断など一切ない。自分の力を出し切ることに集中している。
その差が、次第に戦況にも現れ出す。
ザッ__
リオンの踏み込みと同時に、舞う血飛沫。
ベルゼルの認識を改めさせるに十分な光景だった。
(格下と侮ると負ける!)
ベルゼルは距離をとり、魔力を込める。
<貫け__アクアランス>
ドドドドドッ__
地面から勢いよく突き出る水の槍で動きを制限し、回り込み斬る。
キンッ
リオンはギリギリのところで受ける。
斬り結んでわかったが、リオンは典型的な近接戦闘型だ。圧倒的に上をいく妖精の速度。それによる距離の変化には対処できず、魔法の発動を防げない。
魔法で崩し、距離を詰め、刺す。シンプルだが、これが最も効果的だ。
<切り裂け__エアカッター>
ヒュルッ__シュパパッ____
大気を切り裂く風の刃が、リオンの前に立ち塞がる。
だがその刃さえも躱され、受け切られた。
その間に回り込むベルゼル。
レイピアを構え、刺す。
が……。
「くるとわかってれば……」
リオンの視線や動きにより誘導されたレイピアは、リオンの頬を掠めるに留まった。
「いけるっ!」
そして、誘導したことで既に攻撃に転じていたリオンが、刃を放つ。
<流し__>
ザシュッ___
ベルゼルから血飛沫が噴き上がる。
【改訂版のご案内】
一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。
四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。
改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。
なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、
現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。
あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。
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引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!
改訂版
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