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第56話 冒険者になろう

 ラットたちは無数の武器が立ち並ぶ部屋へとやってきていた。防犯のためか、窓は小さく鉄格子が嵌められている。出入口の扉も分厚い。


「ここはどこなんだ?」


 リオンが真っ先に疑問を口にした。

 移動すると言われ、案内されるがままついてきたのはいいが、予想外の場所だったからだ。


「このフルーテンを守る護衛団の武器庫よ」


 説明されるが疑問は解消されない。


「武器なら俺たち全員、自前のを持ってるぜ」


 そう。ラットたちは全員がそれぞれ得意な武器を持っているからだ。

 しかし、リオンの言葉に反応するようにエレは移動する。そして、ある人物のところまでいくと……。


「この子のよ」


 そういいながら、エレはポニの後ろに回り込み、両肩に手を置いた。


「……え?」


 驚いたのはポニだった。


「私、武器なんて……」


 ポニは一般人。それも戦いとはまったくの縁のない宿屋の娘だ。まさか自分が使う武器を探しにきたなんて、想像すらしなかった。


「そうだぜ。戦闘は俺たちでやるからよ。無理に戦わせることないって」


 リオンがエレに伝えるが。


「あ、いや、そうことではないよ」


 ラットがそれを否定した。


「あくまでも自衛のための備えだよ。基本的には僕の鞄の中にいてもらうことになるとは思う」


 ラットは最後にこの件の核心を伝えた。


「だけど、想定外の事態は考えないと」


 つまりは護身用ということだった。非戦闘員として行動するのは問題ない。だが、旅は長い。危険な森の中。船での移動もある。注意すべきは魔物だけではない。万が一に備え、身を守る術があるに越したことはないということだった。


「とは言ったって……」


 リオンはチラッとポニを見るが……。


(身を守れる気がまったくしないぞ)


 しかし、リオンの心配をよそに話が進んでいく。


「基本は魔具ルーリックを使うとして、身を守るとなると、盾でしょうか?」

「ラットくん、ナイフくらいは持っててもいいと思うわよ」


 当のポニは置き去りにされながら、話がどんどん進んでいった。ある程度話が進んだところで、ラットが思い至る。


「そういえば、魔法の適性はどうなんでしょう?」

「適正があったとしても、初級魔法を使うのだって時間がかかるわよ。私が教えたとしても現時点で魔法を使うイメージがなければ……」


 エレはポニを見た。


「ありませんっ」


 ポニは慌てるように、首を振りながら答える。


「素質があったとしても、まず使用するイメージをつくるところからだから、一ヶ月以上はかかると思う」


「ですよね……。やはり取り急ぎ身を守るだけなら武器を持つのが一番でしょうか……」


 方針を悩んでいるところで、エレがある事に気がつく。


「あれ〜? みんなどうしたの〜?」


 精霊たちが集まってきていた。

 ここは武器倉庫。窓は小さく薄暗い。扉も厳重であるため、空気が澄んでいるとも言い難い。こういう雰囲気が好きな精霊もいるが、集まってくるというような場所ではない。


 精霊がエレの元にいき、何かを伝えているようだ。ラットたちには精霊の言葉はわからないが、エレが相槌を打っている。


「みんな、あの子が気になるの?」


 どうやら精霊たちはポニを気にしているようだ。


「驚いちゃった。精霊たちがこんなに人族ヒューマを気にするなんて。私もはじめてよ」


 精霊たちは魔力に意志が宿ったような存在だ。魔力の適性が高くて、種族としても近い存在であるエルフや妖精に懐きやすい傾向にある。反対に人族ヒューマは様々な種族の中でも最低レベルの魔力適性であるため、懐かれたとしても相当に気の合う精霊だけだ。


 それが一人の人族ヒューマのために、徐々に集まってきて、ただ暗かった倉庫が、魔力の淡い光で照らされ幻想的になっている。エレが驚くのも無理はない。


「動物たちに懐かれやすいのは聞いていたけど、まさか精霊たちにも……とはね……。ねぇ、ポニちゃん、精霊魔法……やってみない?」


 エレがポニの顔を覗き込む。ポニはそう言われるが、困惑していた。精霊魔法どころか、一般的な魔法すらよくわかっていないのだから、しょうがない。


「一般的な魔法より習得が困難に思うのですが、短期間で習得できるものなんですか?」


 ラットの疑問も当然だ。人族ヒューマで精霊魔法使いなんて、殆ど聞いたことがない。つまり、習得が困難であるという認識だった。


「ん〜、難しいといえばそうね。精霊魔法って精霊との相性なのよ。だから、相性が悪ければどんなに練習してもできるようにならないわ」

「そういうことですか。つまり、相性がよければ……」

「習得しやすいってこと!」


 ラットは先んじて納得したようだが。


「ポニさん、ついてきてないぜ……」


 肝心のポニはまったく理解しておらず、目が点になり、固まっていた。


「ごめんね、ポニちゃん。ちゃんと説明するわね」


 エレは改めてポニに向き直る。


「一般的な魔法っていうのは、ランスだったら槍が飛び出すようなイメージをしたり、ボールだったら玉を飛ばすイメージをしたり、使いたい魔法によってしっかりと魔法を発動するためのイメージを造る必要があるの。ここからさらに、魔力の操作をしたりとか、いろんな練習をして、初めて使えるようになるのよ」


<打ち砕け――アクアボール>


「こんな感じね」


 エレは実際に魔法を発動して、説明をする。


「対して精霊魔法というのは、一般的な魔法でやる工程の大半を精霊がやってくれるのよ。ポニちゃんでいうと、お客様から注文を受けたら、お料理をつくって提供するでしょ。お客様からしてみれば、お料理の練習をしたりする必要がないから手軽にできるって感じね」


 ポニは理解できたようで、表情が明るくなった。手を合わせて、目に見えて喜んでいる。


「だけど、手軽にできる分、他に必要なものがある。それが信頼関係よ。ポニちゃんだってお客様がお代を払ってくれるっていう信頼関係がなければ、困っちゃうでしょ?」

「要は他人に任せるか、自分でやるかの違いか。料理ならそうだけど、俺は自分の好きなことは自分で突き詰めたいぜ」


 武器を掲げ、リオンはドヤ顔で言い放った。しかし……。


「あらリオンくん。精霊たちは魔力のプロよ。魔力がなんたるかをどの種族よりも理解しているわ。魔法を使うなら精霊たち以上にうまく扱えるものはいないのよ〜」


 エレはドヤ顔にドヤ顔で返した。思わぬ反撃にリオンは圧倒される。


「つまり、利点は魔法を代わりに使ってくれるってだけじゃないの。より早く、より高威力で、魔法を行使できるのよ!」


 エレは腕を組み、自慢げにポーズを決めた。


「ただし、デメリットも存在するわね。精霊との意思疎通が不十分だと、〝思ったのと違う〟みたいなのが起こりやすいのが精霊魔法よ。ちょっとした調整ができないのよ」


 ポニだけじゃない。詳しい精霊魔法の説明に全員が〝なるほど〟という表情を浮かべた。


「デメリットもあるにはあるんだけど、私は神子ってこともあって、精霊たちとは仲良しだから。私自身、一般魔法も使えるけど、私が精霊魔法を使うのはそういう理由からよ」


 考えているポニを後押しするように、エレが言葉を続けた。


「私が精霊魔法を薦めたのはお手軽なのが理由じゃないわ。最も必要な信頼関係ができていると思ったからよ」


 ラットにも理解できた。これだけの精霊たちが人族ヒューマに興味を持っているなんて、ラットだって聞いたことがない。その素質を感じざるを得なかった。


 加えていうなら、ポニはD級冒険者にすら満たない素人だ。精霊の力を借り、精霊魔法を行使できるなら、当初の目的である身を守ることは容易に達成できる。十分すぎるほどだ。


 ラットが考えていると、ポニの目つきが変わる。先ほどまでの、流されていた様子はいつの間にかなくなっていた。


「私……やってみたいです。精霊魔法……。ラットさんたちと旅をするためには必要なんですよね?」


 一歩前に出て、気持ちを込める。


「まだ自分が戦えるイメージはないけど、私にやれることは精一杯やりたいです!」


 ポニは宣言した__。



「いいわ、さっそく準備に取りかかりましょう」


 ポニの覚悟にエレは微笑んだ。


「みんな、この子と契約したい子は集まって〜」


 エレの呼びかけに、精霊たちが集まってくる。小さな灯火のような下級の精霊たち。〝フロッケ〟と呼ばれている存在だ。


「う〜ん、やっぱりどの精霊とも相性は良さそうなんだけど……。その中でもポニちゃんは風の国が出身なだけあって、風の精霊が一番相性がよさそうね」


 エレが精霊たちとの相性を見て回る。


「ん?」


 遅れて別の精霊がやってきた。フロッケたちと異なり、仔馬のような、馬のぬいぐるみのような形を模している精霊だ。ちょっと照れくさそうにモジモジしている。


下級精霊フロッケだけじゃなくて、〝アーテム〟にも懐かれるなんて凄いじゃない!」


 〝アーテム〟は下級精霊フロッケの上位の存在。いわゆる中級の精霊だ。下級精霊は属性に関係なく統一して〝フロッケ〟と呼ばれるのに対して、中級精霊は各属性ごとに呼び方が異なる。〝アーテム〟は風属性の中級精霊だ。中級ともなると、周りの生き物に影響されて、それに似た形となってくる。だけど、この精霊アーテムは、まだ形が未熟なところを見るに、中級に成り立てといったところだろうか。


「相性も申し分ないわね。ポニちゃん、この子でどうかしら?」

「はい! よろしくね。アーくん♪」


 即座に愛称もつけたようだ。中級精霊アーテム、改め、アーくんも嬉しそうにしている。


「精霊が決まったら、次は媒介ね。ポニちゃん、感覚で大丈夫よ。ここにある武器の中から好きなのを選んでみて」


 ポニは広い倉庫の中の奥へと消えていった。しばらくして、嬉しそうにしながら駆け足で戻ってくる。


「これにしますっ!」


 ポニは探し当てたそれを自信満々に掲げた__。

 一同はそれを見て、一瞬思考が停止する。


「……箒………」

「箒ですね……」

「箒だな」


 そう。武器を探しにいったはずのポニが手にしていたのは、一般的に武器と呼べる代物ではない箒だった。


「それどこにあったんだ?」

「奥の壁に立て掛けてあったの!」


 ラットは目を細めて、ポニが来た方を見る。そこには雑巾やバケツなどと一緒に、幾つかの箒も置かれていた。


「それって片付け忘れただけじゃ……」

「掃除用具………」


「いいわよ」

「いいのかよっ!」


 リオンはエレの言葉に対して、つい反応してしまったようだ。神子であるエレに対して、失礼な言葉を発したことに気まずそうだ。エレは含みを持たせ、不敵に笑う。


「要は武器としての用途ではなく、ポニと精霊を繋げる橋渡しみたいなものだから。冒険者だったら武器が身近だからそれに宿すけど、ポニさんならそっちの方がいいのかもね」


 そう言いながら、ポニが持ってきた箒をまじまじと観察した。


「それに目のつけどころがいいわね。この箒の柄の部分、世界樹よ」

「箒で!?」

「……贅沢」


 素材の中でも、最上位に位置する貴重な素材。それが世界樹だ。だからこそ、箒のような消耗品に使われている事にラットだけでなく、ミルでさえも驚きを隠せなかった。


「神器をつくったときの余りね。杖を作るには少し細すぎて使えなかったのよ。捨てるには勿体無いでしょ?」


 流石、世界樹だ。余った部分まで、無駄なく有効活用されている。

 それに幾つか置かれていた掃除用具の中から、世界樹の箒を選び出すとは。普段から動物たちと鍛え上げてきたその目利きには元商人のラットも脱帽だった。


「流石にこのままじゃ使えないけど、ちょっと加工すれば、そこらの武器以上に精霊魔法を行使できそうね!」


 ポニは褒められて、ご満悦だ。


「それじゃあ、媒介も決まったことだし……」


 パンッ__

 エレは両手を合わせ宣言した。


『契約をはじめましょうか!!』


【改訂版のご案内】


一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。

四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。


改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。


なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、

現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。


あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。


最後に、もしよろしければ何かしら反応などもいただけたら励みになります。

引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!


改訂版

https://ncode.syosetu.com/n5295md/

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