第55話 譲れないもの
エレとの再会を果たしたラットたちはエレに連れられて、病室へときていた。ロックとポニをベットに寝かせて、ロックの治療をした後、エレに事の成り行きを説明する。
「そう、ロックくんが魅了に……それにヒーロくんも………」
ロックの魅了と怪我、それにヒーロの指名手配、それを一度に聞かされたエレは戸惑いを隠せないようだ。
「神の力に匹敵するのなんて大精霊様の力くらいかと思ってたわ。いえ、魔王の力ならそれに並ぶのかしら?」
エレも引っかかるようだ。人が抗えないような厄災に対抗するための力だ。魔王もその一つと考えられている。その力が魔王の力よりも劣っているなんてことがあるのだろうか……と。
「状況は芳しくないですが、エレが無事でよかったです。マナベルが一向に繋がらなかったので、心配してました」
王都を出てからヒーロとは繋がるようになった。だけど、それ以外のパーティメンバーには一向に繋がらなかったのだ。ロックの件もある。ラットはエレにも何かあったのかと、危惧していた。
「王様から貰ったあれよね。実は失くしちゃったのよ」
「なくっ!?」
さらっと出た情報にラットだけが動揺した。貴重なアーティファクトの損失に。
「多分、子どもたちだとは思うんだけど。あるとき、ふと見たらなくなってたのよね〜。元々私って宗派が違うでしょ。だから一度も連絡がこなくて。子どもたちのおもちゃになってたのよ」
肩を落とし、落ち込むラットを見て、エレがハッとする。心配させまいと、慌てて補足した。
「大丈夫よ、ラットくん。ちゃんと探すつもりだったの。すぐに必要になるものじゃないから、ちょっと後回しになってただけなの。だからね。そんなに落ち込まないで……ね?」
どうやら紛失したまま放って置かれたわけではないようだ。たまたま見当たらないタイミングだったんだ……と認識を改めて、少しだけ安心する。
「よかったら、僕が探しましょうか? なくしたのはいつ頃でしょう?」
探し物を探すなら早い方がいい。処分されたり、たまたま見つけた人がまた別の場所に持っていってしまうかもしれないからだ。紛失して2、3日くらいなら手掛かりが残っていたり、なくなったときの状況を知る人が見つかるかもしれない。エレが忙しいならと、ラットが名乗りを上げた。
(あれ? でも待てよ……。確か繋がらなくなったのって……)
「3、4ヶ月くらい前かしら……」
そうだった。王都を出て、すぐにかけても繋がらなかった。あれから一ヶ月以上は経っている。ここ数日の話であるわけがなかった。
それにエレは妖精族だ。妖精族のちょっとは人族でいうと割と先だ。なくしてから3、4ヶ月……。これはもう見つからないかもしれない。そう思い、ラットは再び落胆した。
「ラット、しっかり……」
ミルの心配する声が心に染みた__。
*
ラットの様子を見て、またやらかしたと悟ったエレは慌てた。そして、思い出したかのように両手のひらをあわせて、話題を切り替える。
「そ、そういえば、森で現れた大蛇はきっと大精霊様よ。空間の大精霊……〝ラオム様〟」
落ち込んでいたラットはその言葉に反応して、表情を変えた。
「……やっぱりそうだったんですね……。あの威圧感。それに国を横断するほどの力。可能性があるとすればそうではないかと。ではあの森が……」
「そう、歪空の森ムジークね」
「迂闊でした。まさかそんな神聖な森を戦いの場に選んでしまうなんて……」
ラオムやムジークについては、風の国に住むものとして、話には聞いていた。ラインブリースの近くにあることも。どこにロックが潜んでいるかわからなかったため、警戒していたが、それでももう少しだけ情報を集めるべきだった。
「しょうがないわよ。外から見た感じはただの森だから。あとでここにいる大精霊様を通して、祈りを捧げておくわ」
「ありがとうございます」
さすが大精霊の神子の言葉だ。この件について、これ以上がないほどに頼り甲斐がある。
「それにしてもなんというか、たまたま目的地の一つであるここにこれたのは運がよかったです」
「あ〜、それはもしかしたら、たまたまじゃないかも」
エレが微笑む。
「ムジークと一緒で、この世界樹にも大精霊様がいるでしょ? 森を荒らした罰として、ここが選ばれたのかもしれないわ。やったことが軽かったから、別の精霊様の監視下で比較的に安全なこの場所が選ばれたのかも」
「え!? それじゃ重かったらどうなっていたんだ?」
エレの言葉に真っ先に反応を示したのはリオンだった。自分に起こりえた可能性の一つに不安を隠せないでいる。
__ニヤリ
リオンの挙動を見て、エレが少し悪い顔をした。
「例えば、遥か上空に転移させて、そこから落下。地面に叩きつけられペシャンコとか」
「ひっ」
「火山の火口に転移させて、炎で焼かれる……とか!」
「大精霊様、こえ〜〜〜」
それを聞いて、リオンは震え上がった。
「ごめんね〜。さすがに怖がらせ過ぎちゃったかしら。悪意を持って何かしなければ、そんなこちにはならないから、そんなに怖がらないで」
驚かしすぎたことに気づいて、エレは安心させようとつけ加えた。
リオンをなだめたエレはポニを見る。
「この子、ラインブリースのヒーロたちお気に入りの店の子よね……」
エレは悩んだような表情を見せる。
「送ってあげたいんだけど、今バタバタしていて、しばらく人員が避けないのよ」
「あ、それについては……」
ラットが話し出そうとしたとき、
「う……、うーん…………」
ポニの目が覚めた。
「ここ………どこ?」
まだ意識がはっきりとしないのかゆっくりと状態を起こす。転移の影響か少しふらついているようだった。ラットが振り返る。
「大丈夫ですか?」
ポニが頷く。
「すみません。ポニさんを巻き込んでしまいました……」
ラットは事の成り行きを説明した。勇者の指名手配に始まり、ロックの魅了の件を。ポニが巻き込まれた戦いに至った経緯を__。
「そうだったんですね……。ロックさんが元に戻られたのでしたらよかったです」
ポニはラットたちを責めなかった。戦いに巻き込まれ、自身は遥か遠い見知らぬ地まで飛ばされてしまったのに。本来ならラットたちを責め立ててもおかしくない。それどころかロックの心配まで。本当に優しい子だ。
しかし、ポニは浮かない表情をしている。
「体調がすぐれませんか?」
「いえ、両親が・・・心配しているかと思いまして」
ラットは考える。
「ミル、リオン、予定を変更しよう。一度ラインブリースへ向かってポニさんを送り届けてもいいかな?」
「構わないぜ」
「……うん」
二人は即答する。しかし……。
「それはダメです」
当の本人であるポニが反対した。
「今までのように神様のお力で移動することができないのですよね。世界をお救いいただいた皆さんが大変なときに、私一人のためにそこまでしていただくなんていけません」
冒険の経験はないだろうが、国を跨ぐほどの旅。その過酷さはなんとなくでもわかるようだ。
「これは僕たちが巻き込んでしまったのが原因なのでお気になさらず」
「いえ。あのとき、私が不用意に近づいてしまったのが悪いんです。以前にも同じようなことがあって大怪我をして、両親にはキツく言われていたのに……。私の方こそ、気にしないでください」
二人の言葉に少しずつ熱が入っていく。
「もし私を送り届けるまでの間に、シールさんに何かあったら、私は耐えられません」
「大丈夫ですよ。シールだってそう簡単にやられたりはしません。それにここにシールがいれば、そうするように言いますよ」
「他にも問題があるのですよね? 早く皆さんが力を合わせる必要があるかと思います」
ミルのときとは違う。巻き込んでしまったことへの罪悪感だけじゃない。ポニ自身の気持ちが置き去りになっているのを感じ取って、ラットも折れなかった。
ポニも同様に譲らない。折れない二人を見て、エレが三つ目の選択肢を提案した。
「じゃあ、ブルンネンへ行ってみてはどうかしら?」
「ブルン……ネン?」
「ラットくんも知ってる通りここから地の国へ行くときに経由する街よ。あそこには世界最大の魔法学校があるでしょ。各国から学びに来てる人がたくさんいるから定期便が出てるのよ」
「定期便……」
「それに乗れば安全に風の国までいけるし、風の国へ行ってしまえば、馬車を乗り継いでいけるでしょ」
エレの提案を聞く二人。しばらく考えた末に二人はそれで合意した。
「それじゃ一旦場所を変えましょうか。ここじゃロックくんも眠ってるしね」
移動しながら、ラットとリオンは話していた。
「まさか、ポニさんがあそこまで意見を曲げないなんて思わなかったな。何でも聞き入れてくれる優しい子ってイメージだったぜ」
「僕もだよ。意外な一面を見ました」
優しさの奥に、何か譲れない芯のようなものが、垣間見えたように感じた。
【改訂版のご案内】
一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。
四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。
改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。
なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、
現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。
あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。
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