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第5話 勇者パーティのアイテム係

 笑って、死んだ。


「――リーダー!!」


 仲間たちの絶叫が聞こえる。


 …………聞こえる?


 瞼を開ける。

 立ちこめる黒煙の割れ目から、晴れ間が見えた。


 無事だ。


 熱い。黒煙に加え、この熱気。火炎が放たれたことは間違いない。しかし、肉体には傷一つない。


 生きている。


「な、なんで……」


 ふと隣を見ると、焼け焦げた地面に、黒焦げになって横たわっている。どこかで見たような、オブジェが。


「あれは……」


「次が来ます!」


 凛とした声。

 裏づけるような殺気を前方に感じ、右へ反射的に跳んだ。


 転がる剣士の背後で、衝撃が轟く。


 振り返ると、鉤爪が地面を抉っている。冷や汗が背中を伝う。あと少し遅れていたら、真っ二つになっていた。


 直前に聞いた、あの声のおかげだ。


 一体誰の――


「前を見て。集中して」


 また、聞こえる。


「全力で戦ってください。大丈夫、僕が皆さんを支えます」


 剣士の横を、疾風が吹き抜けた。


「グギャアアアアアアッ!」


 弓使いの矢が、魔物の右目を奪った。闇雲に振り下ろされる鉤爪の相手は、疾駆した槍使い。槍の連撃で、魔物の猛攻を必死に食い止める。


<貫け――ファイアランス!>


 死角からの炎の槍。魔物がバランスを大きく崩した。


 起き上がれない。


「今の内よ、リーダー!」


 魔法使いの叫びを聞き、剣を掴む。

 考えている余裕はない。

 立ち上がって突進する。


 トドメを――


「グオォオオオオオオオオオーー!!」


 がばりと、目の前で大口が開く。

 喉奥でちらつく火種。


(しまっ……!)


 今度こそ焼き殺される。そう脳裏に過ぎった瞬間、


「――ゴブゥ!?」


 大口に飛び込んだ何かが、火種を封じた。


 木片。いや、それだけではない。いくつもの木片や瓦礫の塊が、魔物の口を塞いでいる。


 取るに足らない塊を、しかし魔物は噛み砕けない。塊に付着する粘液に、口腔をがんじがらめにされて。


 一体何が起きたのか、思考が止まりかける。


「今です! 弱点の腹部を!!」


 その声により、我に返る。


 駆け出す剣士の背中が、ぱしゃりと濡れた。

 筋力が途端に増強されるのを感じた。


 ……わかった。


 仲間たちが、剣士が、

 虫のように殺されず、

 今の今まで、戦ってこられた理由。


(この魔物、よく見りゃ、関節の所々に粘着液が纏わり着いてやがる。ははっ、どうりで動きが鈍い訳だ)


 腹部を狙う。


(――コボルトホイホイを、こんな風に使うなんてよ!)


 剣を一直線に構えて。


(あいつ、すげぇ!!)


 魔物の弱点を、渾身の力で、貫いた。



 青空に、歓声が響き渡った。


「やった、やったあ!」

「魔物に勝ったぞーーーーーー!!」


 絶命した魔物を見て、天高く叫ぶ弓使いと槍使い。勝ち誇る二人を置き、魔法使いが笑顔で走ってくる。


「おー、怪我ねぇ、かっ!?」

「やるじゃない!」


 不意打ちで飛びつかれ、格好悪く押し倒された。


「見直したわ! 元訓練生トップは嘘じゃないわね!」


 消耗した身体を手加減なしに抱きしめられる。息苦しさに喘ぐ。つくづく様にならない。


「う、うれしー……が、オレだけの、力じゃねぇよ」


 幸福と不幸の中で、何とか言う。そう。剣士と、仲間たちだけでは、この勝利はありえない。


「ええ」


 魔法使いが上体を起こして笑う。彼女もわかっているようだ。


「五人目のおかげよ」


 村人たちが集まってくる。


「すごいぞ、あいつら!」

「倒しちまった!」


 あっという間に取り囲まれる。右を見ても左を見ても降り注ぐ。怒号ではない、称賛の眼差しが。


 輝かしい包囲網を、しかし自ら破り、剣士は進む。

 黒焦げのオブジェを拾い上げ、叫んだ。


「出てこいよ、店主!! いるんだろ!?」


「ここにいますよ」

「おわっ!?」


 想定外。真横からの声につい叫んでしまう。


「そこにいたのか……まあ、なんだ、ありがとな」


「気づいていましたか」

「ああ、こいつでな」


 焼け焦げたオブジェを見せる。


「能力を上げたのも、魔物の動きを鈍らせたのも、炎を逸らして守ったのも、全部お前なんだろ。姿は見えなかったが助けられている……そう感じたぜ」


 感謝と、もう一つ。


「悪かった」


 頭を下げる。


「インチキだの、守銭奴だの、ひでーこと言って」


「コボルトホイホイの可能性をわかってもらえて、嬉しいです。それに当然のことをしたまでですよ」


 剣士たちの悪行を、店主は爽やかに許してくれた。


 やり取りを、だが村人たちは理解できなかったらしい。ざわめきが其処彼処から上がる。


「な、何? どういうこと?」

「あの少年? が助けたとか何とか……」


「あ、あの少年……!」

「うお、じいさん! いつから!?」


「と、とんでもないアイテム捌きじゃった……あんな動き、ワシが若い頃でもできん……!」


「アイテム捌き? 動き?」

「じいさん、元々かなり名の知れた冒険者だったよな。それができんって……」


「おい、お前見えたか!?」

「いやまったく!?」

「わかんねぇ、だけど魔物に何かがくっついてるのは見えたぜ」


「炎にやられかけた時、どう逸らしたんだ?」

「直前で何かに気を取られたみたいな……あの黒焦げのやつ!?」


「じゃ、じゃあ、最後、口に突っ込んだのは?」

「瓦礫……壊された木片の塊だったぜ」

「あの纏わりついてたのってコボルトホイホイだよな?」

「まさか作ったのか? コボルトホイホイで? あの一瞬で!?」


「本当だったんだよ!」

「七人目!?」

「そうだよ!」


 ざわめきがまとまり、村人たちの眼差しが店主に移る。彼らもまた、ようやく、理解した。


「勇者パーティの七人目だっ!!」


 ある者は叫び、ある者は飛び跳ね、ある者は隣の者と抱きしめ合い。全力で、生還を味わう。


 湧き上がる村人たちの傍で、村長も笑っている。


「ありがとう……ありがとう……!」


 笑いながら、泣いている。


「村の、英雄だ……!!」


 歓喜の嵐に包まれながら、向かい合う。


 勇者パーティの七人目であり、

 剣士たち冒険者パーティの、五人目と。


「お前、名前は?」


 手を差し出して聞く。


「ラットです。ラット・クリアノート」


 店主――ラット・クリアノートと、握手を交わす。


「勇者パーティで、アイテム係をしていました」


 舞い降りた陽光が、ラットの笑顔を眩く照らした。




 ――勇者パーティの、誰も知らない七人目。


 小さく薄っぺらい身体に、生っちろい肌。威厳なし。貫禄なし。とことんなし。存在感すらなし。


 けれど、強い。


「今宵はアイテムの魅力を語り明かしましょう!!」


 そして、重度のアイテム好き。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


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と少しでも思っていただけたら、

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しばらく連続投稿予定です。

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