第42話 女好きの狙撃手
「は?」
ぽかんとしたリオンに、ラットは訊き返す。
「火の国出身である吸血鬼のロックが、なんで勇者パーティに入っていたと思う?」
「言われてみれば確かに……」
「戦争が長引けば、火の国と風の国、双方で一般人の女性は多く巻き込まれるよね」
一般人だけではない。
「騎士団、冒険者にだって女性はたくさんいる。巻き込まれ、傷つき、悲しみが生まれる。ロックはそれが嫌なんだよ。女性なら敵でも助けるくらいなんだ」
「…………女好き、ってことか?」
「大好き、だね」
「いや待てよ。確かに、戦った時、言ってたな。野郎とは仲良くしたくないとか何とか」
先の戦闘で片鱗に触れていたようだ。
「女性の涙を見たくないからこそ、戦争の早期終結を望んだ。例えそれが、自国の王を倒すことになったとしても」
「火の国出身なんだろ? そんな平和主義者なのか?」
「ロックが生まれ育った、酒と女とギャンブルの街イールリヒトは火の国でも異質みたいで。割とそういう尖った考えの奴はいるって、前に教えてくれたよ」
「女……」
リオンがゴクリと唾を飲んだ。
「大人のお姉さんの街……か」
ラットは咄嗟にリオンを掴み、机の横まで引っ張った。
(リオン、ミルがいるよ)
(悪い、危うくさっきのノリで話しちまった)
小声で話す。
じっと見てくるミルに二人で苦笑いをしながら、戻る。
「無闇に女性を傷付けたがらないから、女性との戦闘は極力避ける。女性――つまり、ミルがいるから、襲ってこないんじゃないかなって」
「けど、前は襲ってきたじゃん」
「だから、僕も言うかどうか迷ってたんだよね」
ラットは当時を思い出しながら、考えを口に出す。
「でも、こうは考えられない? ロックの目的はあくまで僕だったよね。僕を狙撃で倒して、それで終わり。リオンとミルと戦う気なんてさらさらなかった」
「いや、思い切り撃ってきただろ」
「どうして?」
「三人で、戦ったから……」
「そうだね。ロックの予想は違ってた。二人の実力を見誤ったんだ」
「そうか。向こうは俺とミルの実力は知らないもんな」
ラットは頷く。
「戦わざるを得なかったんだ、ロックは」
ミルに視線を遣る。
「特にミルのスピードは予想外だったと思うよ。僕だって初めて見たときは驚いたからね。もしかしたら多少の戦闘は考慮していたかもしれないけど、あそこまで拮抗するとは思っていなかったんじゃないかな」
リオン。そしてミル。二人の予想外の強さに、ロックはこう思ったはずだ。厄介だ、と。
「油断できないとわかれば、もう無視できない。仕掛ければ、必ず、戦うことになる。リオンとも。ミルともね」
「……うん、辻褄は合ってるな」
「けど、ロックとしては、女性とはなるべく戦いたくない。なんて言ったって、女性が大好きだからね。――だからこそ、ミルがずっと一緒にいる今、手を出してこない。出したくないんだ」
冗談のような話だが、本当だ。
「なるほどな」
茶化すことなく、リオンも深刻な顔で納得した。
「でもさ、それってつまり、ミルが離れたら襲ってくるってことだろ? やべぇじゃん!」
もっともである。
「作戦を伝える前に、ロックの戦闘スタイルについて認識を合わせておこうか」
「はい、狙撃手!!」
リオンが真っ先に挙手する。
ラットは頷いた。
「うん、もっとも得意とするのは遠距離からの攻撃。でも、近距離でも体術を絡めた射撃はかなり強い。心の隙をつくようなタイミングで放たれる射撃と、補助的に使用する血魔法も注意が必要だね」
「はい、正直なところ戦いにくいです!」
「わたしも当てられた……」
「二人は嫌と言うほどわかってるよね」
気まずそうにしながら、ラットは続ける。
「忘れたらいけないのは、影に潜る能力」
「あ〜」
「逃走もできて、奇襲もできる。これがロックの戦闘スタイルに合っていて、かなり厄介なんだよね」
「だなあ……」
遠距離に加え、即席の安全地帯。リオンからしたら、相当もどかしい戦闘だったのだろう。挙手の元気すらなくし、明らかに顔を歪めている。
朗報といこう。
「実は、影は何でもいい訳じゃなくて、ある程度濃くないとダメなんだよ。あと、繋がっていないと移動できない」
「ほう!」
リオンに覇気が戻った。
「潜んでいる影に強い光を当てれば、影からあぶり出すことも可能だよ」
「それで光玉だったのか」
その通りだ。
「かなり変則的な戦い方なんだけど、まったく対策のしようがないって訳でもないでしょ?この三人なら勝算は十分あるよ」
「襲ってくるのはミルがいない時じゃんか」
「逆に、ミルが離れたら絶対襲ってくるって言うなら……」
ラットはテーブルの中央へ二人を集め、小声で伝えた。
「わかった」
「うん……」
作戦会議が終わり、最初に気が抜けたのはリオンだった。
「は~、一日だけの滞在か~。正直、ここの料理は名残惜しいぜ~。ミルもあんなにミルク気に入ってたし、名残惜しいよな?」
「ミルクは確保……」
「あ~、保存用のアーティファクトがあるんだっけか。王都を出た頃それに入れてたっけな。便利だよなあ」
「そうなんだよ! こんなにすごいアーティファクトが、広まってないなんて……! ああ、町や村にもっと滞在できれば、その素晴らしさを布教できるのにっ……!」
「造ってくれた鍛治場も、まじすげーよ。ああいうのって、ミルが一人で考えてるのか?」
「ラットも協力してくれる……」
「いやいや、僕は素材の提供や聞きかじった魔法の知識とかを伝えただけで、ほとんどはミルじゃないか」
「夜な夜な作業してる訳か。二人きりで」
「リッ、リオンだって、遅くまで鍛冶をして……!」
名残り惜しさから、その場をなかなか離れられなかった。
*
その夜、ラットは自室にて、耳飾りに手をかける__。
返ってくる声。
「ラット?」
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一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。
四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。
改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。
なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、
現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。
あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。
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引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!
改訂版
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