第20話 勇者はどんな人?
ミルと店主の話が終わるまで存分にリオンと語り合ったラットは、名残惜しみながら鍛冶屋を後にした。宿をとり、一息ついた頃、辺りはすっかり暗くなっていた。月に見守られながら、二人は大通りから外れ、裏通りを歩いていく。
「勇者はどんな人?」
「この世界の人じゃないんだ」
勇界から召喚されて、彼は、この世界――精霊界に来た。
一年前の大戦は知ってるよね?
そう、勇者パーティによって魔王が討伐され終結した魔族との戦争だよ。
その戦争に巻き込まれ、僕は両親を亡くした。その直後、スピリエラ……彼流に言うならニホンかな。そのニホンから女神様によって召喚された彼と出会ったんだ。
当時のことは今でも鮮明に思い出せるよ。
王都に雇われて物資の補給をしていた父さんと母さんは、その補給を断とうと行動する魔物に殺されて、悲しみに暮れる間もなく、僕も襲われて……。
殺されかけたその時、彼が現れたんだ。
ケンドウという流派で魔物を追い払って、僕を絶望から救ってくれた彼は、勇者そのものだった。
旅の過程で魔法を使用した戦い方を習得して、さらに加護を得た頃には、誰からも称えられるようになっていた。
いつも笑顔で。
楽しいことが大好きで。
人を楽しませることはもっと大好きで。
とにかく人が好きなんだよ。
だから笑わせたがるし、見捨てられない――。
出会ってからしばらくは二人で旅をしてたんだけど、魔物に襲われている人を助けるのなんて当たり前。気が付けばおばあさんを背負ってたり、泣いてる子どもをあやしたりしててね。
僕が伸び悩んでいた時も、そうだった。
僕は先に行く彼に追い付くために、それまで色んな努力をしてきた。寝る間も惜しんで本を読み漁って、早起きして鍛錬して、剣を振り、魔法を学ぼうともした。実践を重ねて、思い付く限りのことは全部やった。
でも、彼は、何歩も先に行った。
僕がどんなに走っても、走っても、背中に触れることすら叶わない。
彼との差は開いていくばかりだった。
彼に追いつくどころか、途中でパーティに加入した剣を握ったことすらなかった者は易々と僕を追い抜き、実績を上げていった。
圧倒的に才能がない――。
現実を見せつけられる内、彼の背中が見えなくなって……道を見失い、立ち止まりそうになった。
そんなとき、言われたよ。当時行動を共にしていた冒険者たちから。
お荷物だ。
足手まといだから、パーティから出て行けって。
でも、彼だけは――僕を庇ってくれた。
ラットはまだ諦めていない。
俺はラットを信じている。
今、ラットを追い出すと言うなら俺も抜ける。
そんな風にまで、言ってくれて。
僕は僕の可能性を信じてくれた彼に応えたかった。どうしたら追いつけるか考えて、考えて、考え抜いて……。
あることをきっかけに、思い付いたんだ。
僕の全部を利用してやるって。
商人の息子で、オタクだったからこそ培えたアイテムの知識。生まれつきの存在感のなさ。調書だけじゃない、趣味の知識や短所も含め、全部を利用して、彼に追いつくんだって。
そうして、僕は、彼の隣に並び立った。
ぐんぐん進む彼、立ちはだかる強敵たち。入れ替わり立ち替わり、大勢いた仲間たちが次々と挫折していく中、僕を含めた六人だけが、彼の傍に最後までいられた。それが――英雄と呼ばれている勇者パーティだよ。
勇者はどんな人? って訊いたよね、ミル。
恩人、だよ。
僕の命を助けてくれて、僕の今を作ってくれた人。
みんなの太陽で、僕の――
「……相棒」
わかってくれた彼女へ、笑う。
「唯一無二の、ね」
――そうして、辿り着く。
『ラブアンドピース 〜勇者が誘う安らぎの空間〜』
勇者の店の前に。
ミルはしばらくの間、無言でその看板を見つめていた――。
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