第100話 闇を束ねし漆黒の巨剣
トゥーロは、最初こそ両手の剣と腕へ大量の魔力を流していた。
嵐槍を捌くために。
剣と嵐槍がぶつかり合う。
一瞬でも気を抜けば、剣を簡単に弾いてしまいそうなその回転数。
それを捌いていく。
後ろにはリタがいる躱すことができない。
切り結ぶ間。
その傍らでトゥーロはさらに魔力を練っていた。
そして、魔法を発動する直前。
あえて、魔力を込めるのをやめた。
隙をつくり、体に覆っていたありったけの魔力を
魔法に籠めるために。
ガキン____
腕と共に剣が弾かれる。
それを予測していなかったのか、
一瞬反応が遅れた。
その瞬間を、待っていたのだ。
腕ごと吹き飛ばされることすら計算の内。
かわされない距離まで、無理矢理踏み込み、
あらかじめ練り上げていた魔力を解放する。
「……捕まえた」
次の瞬間……。
<頑強な凍てつく檻で捕縛しろ__アストラ・アイスプリズン>
ミルの周囲を、超高密度の氷が一気に包む。
分厚い氷塊が球体となり、ミルの全身を拘束した。
氷の中に閉じ込められ、身動きがとれないミル。
だが、
ギギギィィイィ____ガギィッ
ミルが嵐槍が発動していたことで、完全には捕縛しきれなかった。
徐々にだが閉じ込めている氷に亀裂が広がっていく。
トゥーロは魔力を流して、それを修復し、破られないようにする。
「リタ!! 今のうちだ!!」
トゥーロが叫ぶ。
リタは防御魔法を解除して、魔力を籠めて、
その魔法の準備に入る。
次第に空が曇りだす。
「まずい……!」
ラットがそれをさせまいと、
持ち替えた空気銃でリタを撃つ。
その魔法だけは阻止しようと、
がむしゃらに、爆薬なども織り交ぜてリタを狙った。
それだけではない。
鞄からスクロールを取り出し、魔法による攻撃もおこなう。
しかし、
<守れ__アイスウォール>
ミルを拘束したままに、トゥーロは幾重にも氷壁を張り、
それを妨げた。
轟音。
爆発。
砕ける氷。
しかし、氷壁を崩したとしてもすぐに新たな氷壁がつくられる。
一方、ミルも氷の中でもがいていた。
ギギギィィイィ____ガギィッギィ
嵐槍で内側から削り、脱出を試みる。
だが。
トゥーロはさらに魔力を流し込む。
氷が再生し、厚みを増していく。
トゥーロは既に限界近くまで魔力を使っていた。
それでも。
ラットを止めるために。
ミルを閉じ込め続けるために。
がむしゃらに魔力を絞り出す。
トゥーロもなりふり構っていられなかった。
それほどまでにミルの嵐槍を厄介に感じていた。
ここで倒しきらなければならない。
さらに、空が曇り、とうとうその時がきた。
空を漆黒の常闇で包みこめ__。
沈みし黒を収束し、滅びの剣となれ____。
その一刃で、眼前の敵を斬り伏せろ!!
<__イ・ネビュラ・シャドウソード>
見上げたそこには、黒く巨大な魔法陣。
上空に広がる黒紫の光。
空気が震える。
詠唱とともに、空の色が変わり始めた。
漆黒が空一帯へ広がり、陽光を呑み込んでいく。
まるで空を蝕んでいくかのように__。
その黒さから。
風は止み。
音が遠のいていく。
そんな感覚を覚える。
不安を増長させる__。
夜とも違う。
月明かりすら存在しない、底知れぬ常闇が一帯を包んだ。
明るさが引き剥がされた世界となる____。
そして__
その闇が、ゆっくりと引き寄せられ。
集まり。
圧縮され。
黒が一点へ収束していく。
やがて。
空そのものを切り取ったような巨大な剣が姿を現した。
黒き巨剣から溢れ出す魔力だけで、恐怖を呼び起される。
その切っ先が、ゆっくりと標的へ向けられた。
まるで。
夜そのものが、敵を貫こうとしているかのように____。
「放て!!!」
特級魔法。
リタの掛け声と共に、巨大な黒き魔力剣が、空から放たれた。
それに合わせて、トゥーロは距離をとる。
トゥーロが離れたことで、氷牢へ注がれていた魔力が途切れ、
ミルは嵐槍により氷牢を破壊した。
迫る巨剣を迎え撃つために、
ミルはもう一方の手にも嵐槍を展開し、
出力を最大まで引き上げる。
ギュオオォォォォォ____
そして、
黒き巨剣と衝突した____
ギャアアアァァァァァッ____
嵐槍が巨剣を削る。
暴風と漆黒が激しくぶつかり合い、火花のように魔力が弾け飛ぶ。
それでも巨剣は止まらない。
嵐槍は削りながらも、少しずつ押し負けていく。
そして、ついに、嵐槍が弾け飛んだ。
瞬間、ミルへと直撃した____。
ミルを構成していたであろうパーツがはじけ飛ぶ。
吹き飛ぶミル。
地面を激しく滑りながら、石畳を砕いていく。
衝撃で土砂と破片が巻き上がり、周囲へ亀裂が走った____。
*
次第に巻き上がった砂埃が引いてくる。
そのとき、砂煙の中から、ゆっくりと影が立ち上がった。
「……っ」
トゥーロが目を見開く。
ミルは辛うじて立っていた。
バチバチッ____
音を立ててショートしている。
鉄鋼はひび割れ。
なにより脇腹には抉られたような後を残していた。
人であれば致命傷となる傷。
いくら魔導機械人形とはいえ、限界が近いだろう。
だが、倒れていない。
「……魔法と鉄鋼で、威力を逸らしたのか」
トゥーロが低く呟く。
「まさか、リタの特級魔法を受けて立ち上がるとは……」
トゥーロは再び氷剣を発動して追撃へ移ろうとした。
その瞬間だった。
ドオオオォォォォ________
周囲一帯へ爆音が響く。
それと共に発生した大量の煙。
その煙は先ほどの煙と比較にならないほどの量だった。
離れた場所にいたリタでさえも覆われている。
視界が完全に閉ざされた。
「また煙幕か!」
トゥーロが叫ぶ。
「リタ!!」
だが、返事がない。
「リタ……? ……なにが起こってる?」
トゥーロが警戒する。
声が聞こえなくなったリタの元へ移動しようとした瞬間。
ぐちゃっ____
足が地面へ張り付いた。
「っ!?」
粘着物。
「これで足を奪ったつもりか?」
トゥーロは即座に判断する。
前と同じだ。
攻撃が来るなら、カウンターを合わせればいい。
すでにミルの最高速度は把握している。
影を捉えた瞬間、斬ればいい。
剣を構える。
目の前に影が飛び込んでくる。
だが、トゥーロは反射的に斬りかからず、回避を選ぶ。
それはミルではなかった。
ふわりと舞う布。
ラットの上着だ。
「やはりな。一度この手は使っている。だからこそ、タイミングを狂わそうとした」
トゥーロが笑う。
「お前ならそうすると思っていた」
タイミングを崩し、虚を突く行動。
〝予見〟していた。
「そんなもの、読めていれば――」
横から迫る影。
「やはり来たな! これで僕の勝ち……っ!? 」
ドッ____
確かにミルは突っ込んできた。
しかし、先に振りぬかれたのは、剣ではなく拳だった。
ォォォンッ____!!!
「がっ……!?」
ドッドッ____
地面を転がる。
「なにが……」
タイミングは合っていたはずだ。
なのになぜ?
そう思った瞬間、
目の前に映るもう一つの影。
吹き飛ぶ先にラットが立っていた。
「くっ!?」
ラットガンを構えている姿をみて、トゥーロは即座に身を捻った。
避け切れない。
防御魔法も間に合わない。
なら、魔力で耐える。
全身へ魔力を纏う。
「これだけの魔力で覆えば、さっきの爆弾程度じゃ――」
パシャッ____
放たれた玉が命中する。
だが、爆発しない。
代わりに、中から液体が飛び散った。
「……なんだ?」
そのままラットの横を通り過ぎ、地面へと叩きつけられ止まった。
本来ならまだ戦えるはずだ。
だが……。
シュ____
「っ……!」
トゥーロの身体から力が抜ける。
立ち上がれない____。
【改訂版のご案内】
一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。
四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。
改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。
なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、
現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。
あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。
最後に、もしよろしければ何かしら反応などもいただけたら励みになります。
引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!
改訂版
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