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第1話 張り紙だらけのアイテム屋

 人々は知っている。


〝女神の加護を持つ勇者パーティ〟


 魔王を倒し、世界に平和をもたらした六人の存在を、知っている。


 人々は知らない。


〝加護を持たない同行者〟


 勇者たちすら認めた最弱の七人目を、誰も知らない。





「今、何つったあ!?」


 陽の射さない真昼の食事処で、剣士は対峙する青年の胸倉を掴んだ。


 椅子から立ち上がった拍子に軽鎧がテーブルにぶつかり、落ちた食べかけのパンの皿が割れる。耳障りな音が響いたが、今は目の前の青年に吐き捨てられた言葉の方が腹立たしい。


「だ、だから、いい加減この最果ての村から出ていってくれって言ってるんだよ! 酒場で暴れる、武器は値切る、飲み食い代すら払わない! お前ら冒険者の横暴には、村人ら全員、迷惑してるんだ!」


 青年――剣士たち冒険者パーティが三日前から滞在する風の国、最果ての村の村長は、剣士の暴力に怯みながらも負けじと噛みついてくる。


 突然死した前村長の後を継ぎ、新たな村長となったという同年代の男。この村に初めて来た時は敬語でぺこぺこしていたくせに、たった数日でずいぶんな変わりようだ。


「ちょっと酔って騒いだだけだろうが! 武器だって、このオレが使ってやろうってんだから、タダ同然で差し出すのが当然だろ!? 金は払わねぇっつってんじゃねぇ。ツケにしといてくれっつってんだ!」


「それが迷惑なんだよ!」

「うるせぇ!!」


 村長を突き飛ばす。剣士の腕力にはさすがに敵わなかったらしい。村長はあっさり転んだ。


「村長!」

「大丈夫ですか!?」


 成り行きをはらはら見守っていた客や給仕が、尻もちをつく村長に一斉に駆け寄る。生ぬるい輪を、剣士は天から見下した。


「よぉ新人村長。ぐちぐち言うんじゃねぇよ。記念すべきパーティ初のクエストに、このショボい村のゴブリン討伐を選んでやったんだぞ? ありがたく思ったらどうだ? なあ、お前ら!」


 テーブルの仲間たちに声をかける。


「そ、そうそう、リーダーの言う通り!」


 と贅沢な身なりの槍使いの青年。


「ま、まま、間違いないよ!」


 と素朴を絵に描いたような弓使いの青年。


「リーダー、ばんざーいっ!」

「一生ついていきまーすっ!」


「いい加減にしなさいよ!!」


 ガタンと、突然、反旗を翻された。テーブルを両手で叩いて立ち上がったのは――気品のある魔法使いの女。


「えっ?」

「ちょっ……!」


 槍使いと弓使いの慌てた声を無視し、魔法使いは足早に歩いた。待ち構える剣士、を抜き去り、村長のもとへ。


「お怪我はありませんか? 村長さん」

「え、あ、はい」


 たおやかな両手に顔を包み込まれ、村長が頬を染める。ビキ。ふざけた光景に、剣士は青筋を立てた。


「おい、何赤くなってやがる?」

「やめて。もう十分でしょ」


「お前は優しいなあ。けど、気にしてやるこたねぇ。教えただろ? オレら冒険者は、クエストを受けてやってるんだ。許されるんだよ、こんくらいの好き勝手は」

「ふ、ふざけるな!」


 村長が口を挟んだ。


「クエストには報酬をきちんと出してる! 好き勝手される謂れはない!」

「介抱されたからか? やけに元気がいーなあ?」


 踏み出す。


「ちょっと、やめてって言っ――」

「どいてな」


 立ち塞がった魔法使いを押しのける。止めようとしてきた村人たちを視線で黙らせ、村長の胸倉を再度掴んだ。


「うぐっ……!」

「ただのクエストじゃねぇ。命をかけたクエストなんだぞ? 安すぎるんだよ、報酬が」


「く、クエストクエスト言いながら、ちっとも討伐に乗り出さないじゃないか! お前はクエストを理由に、やりたい放題したいだけだ……!」


「討伐してやるよ? オレはC級でも、既に魔物を何体も倒してる経験者だ。ああそうさ、ゴブリンだろうが何だろうが、命がけで倒してやる。オレの気が済むまで、やりたい放題やってから、な!」


「うぁあっ!」


 村長をもう一度突き飛ばす。


「ってわけで、ここの代金も頼むぜ。――ツケでな」


 手を振って立ち去る。


「っ、村から出てけぇええ!!」


 駆けてきた足音に、剣士は口角を上げて振り返った。


「ははっ、やるかっ、青二才!」


 死に物狂いで殴りかかってくる村長を見て、自らも拳を抜く。

 瞬間。

 巨体が割って入り、両者の拳を左右の手のひらで受け止めた。


「そこまでだ」


 傷を刻んだ、百戦錬磨の凛々しい相貌。土に根を張る巨木のような、どっしりとした声。


「あ、あんたは……いや、あなたは!」


 見間違えるはずがない。


「――先輩!!」


 最高ランクのS級に次ぐ、A級冒険者。S級は英雄のみに与えられる称号であるため、A級は事実上、冒険者の頂点に君臨する。

 

 その中で、剣士が最も憧れる男。まさか、こんな辺境の村で出会えるなんて。


 剣士はC級だ。だが最低ランクであるD級の訓練生だった頃は、トップの成績を誇っていた。大きなウワサになっていたから、A級の彼が耳にしていてもおかしくない。期待の新鋭冒険者たる自分に、先輩冒険者として、きっと、ジンとくる言葉をかけてくれるはずだ。


 目をきらきらと輝かせた剣士は、


「――ぐえっ!?」


 ゴツい拳を頭にもらい、潰れた。


「このバカたれ! 一般人に拳を抜く奴があるか! それでも冒険者か!?」


「こいつから先に殴りかかってきたんすよぉ!?」

「その前にお前が煽ったんだろうが! 食い逃げして!!」

「ツケっすよツケ! 誰も食い逃げなんて――」

「黙らんか!」

「ぐぇえっ!」


 殴られた痛みが襲来し、口から汚い悲鳴が出た。


「クエストを受けて遠路はるばる来てみれば、まさかこんな頭の痛いことになってるとはな。後輩が失礼したな、村長。受け取ってくれ」


 金属音が聞こえたかと思えば、先輩がずっしりとした布袋を村長へと放り投げている。慌てて受け取った村長の両手の上で、重々しい硬貨の音が響き渡った。


「こいつのツケ、それで足りるか?」

「じゅ、じゅうぶんです!」

「ならよかった。余った分は迷惑料にしてくれ」


「な、なんで払うんすか!? こっちは命をかけさせられるんすよ!? タダ飯くらい、食わせてくれたって――んぎっ!?」


 胸倉を鷲掴みにされ、威勢が吹き飛んだ。


「確かに、俺たちは命をかける。その分、報酬はきちんともらう。だが、それ以上はもらわない。お前のように報酬を際限なく要求することはありえん」


 抜き身のような瞳が剣士を刺す。


「訓練生時代にちやほやされて、調子に乗ったか? 冒険者の本質は危険に立ち向かい、道を切り拓くことだ。断じて、奪うことじゃない。今のお前は、ただの山賊だ」


 眼光の威力に屈し、何も言い返せない。口が動いたのは、無造作に放り捨てられた時だった。


「うげぇっ!」


 床に激突する。先程の村長と違うのは、誰も駆け寄ってきてくれない点だ。


 どうにか起き上がった時には、先輩は既に店にいない。突き刺さる、ちくちくとした視線。冷え込んだ空気に、剣士は舌を打った。


「出てきゃいいんだろ、出てきゃ! ゴブリンなんざ瞬殺して、とっとと出てってやらぁ!」


「待ったリーダー! まだアイテムが揃ってない!」


 槍使いの一言に、足を引き止められた。


「アイテムぅ?」

「ポーション切らしちゃってるんでしょ? 買わなくちゃ」


 生命線なしでの戦闘は自殺行為だ。


「おい、アイテム屋は!?」

「こ、ここを出て左にまっすぐ行ったところに一軒! その先の……あ、いや、何でも」


「けっ、邪魔したな!」


 村人から聞き出した情報をもとに、アイテム屋へと逃げるように向かった。



 が。


「売れねぇだと!?」


 腕を組む強面のアイテム屋の主人に、剣士は吼えた。値切りたい衝動を堪え、正規の値段での購入を申し出てやったのに。売れないとは、どういう了見だ。


「不在の自警団の代わりにA級が後ろ盾になってくれるってわかったからな。へこへこするのは終了って訳だ。山賊に売ってやる商品はねぇ。帰んな!」


「アイテムなしで戦えってのか!?」

「自業自得だ。おら、出かけるから、もう店じまいなんだよ。出てけ出てけ!」


「待てよ、せめて人数分のポーションだけでも――」

「全滅しやがれ!」


 かくして、曇り空の下へ追い出された。無情に。


 足元の石ころを蹴り飛ばす。先輩が目を光らせているとあっては、ぶんどる訳にもいかない。


「ほかにアイテム屋は!?」

「ここしかない感じだったよ」

「じゃあ何か? 本当に全滅しろってのかよ!?」


「どうすんだよリーダー!」

「このままじゃ、やばいよ!」

「全部アンタのせいよ! アンタが訳わかんないこと言って好き勝手するから……! 村のみんなに謝りなさいよ!」

「何とかする! 何とかするから喚くな!」


 あてどなく歩き出す。持て余した1000ファーマコインを宙に弾きながら。


 どうする? どうしたらいい?

 思い切って戦う?

 だが、怪我したら?

 体力が尽きたら?

 魔力が切れたら?

 全滅する。

 アイテム。

 アイテムさえあれば!


「ねぇ聞いた!? 近くの森で出た大きな魔物だけど、」

「A級が来てくれたんでしょ? も〜、一安心よ。これで村が襲われる心配はないわ」


「地の国では、勇者パーティの一人が大怪我を……」

「有力な騎士や冒険者達も襲われてるって……」

「注意喚起が出てるらしいな……」


 すれ違う村人たちの声がうるさい。集中力を奪われ、頭を思わず掻きむしった瞬間だった。


 手元が狂い、1000ファーマが飛んだ。


 逃げ出した1000ファーマは、事もあろうに林へと跳ねた。本日二度目の舌打ちをして突進する。ただでさえ災難続きなのに、この上、金まで失ってたまるか!


「っの、待ちやがれ!」


 薄暗い中、飛んでいった1000ファーマを仲間と共に夢中になって追う。


 木々を払い捨て、1000ファーマをやっとの思いで捕まえる。硬貨に刻まれた天の神・ファーマメントが剣士に微笑む。ほっとして顔を上げた時、出くわした。


 緑に囲まれた、蔦のはびこる一軒家。

 壁に窓にベタベタと貼られた大量の張り紙。


〝品質保証〟

〝勇者推薦!〟

〝レアアイテム、あります〟


「……アイテム!?」


 張り紙の山の中から、見つけた。



『アイテム屋』



 と書かれた、傾いた看板を。


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