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第1話 そして、スパイは死地へ行く

 入社初日の今日は、緊張しながら新社屋へ向かった。

 念願だった、あの会社への転職が決まったのだ。


 その名も「ディメンショナル・コード」


 次元をまたにかける派遣スパイ企業。

 まあ、要するに"ハケン業務"ってやつだ。

 それが例え軍事国家だろうと、……異世界だろうと、だ。


 黒にピンクのラインのジャケットにパンツスタイル、髪は肩までのセミロングでピンクのポイントメッシュは私のコダワリ。

 見た目は悪くないけど一見普通の女子。でも、中身はちょっと違う。


 私は遠距離特化の元アサシン。

 隠密と暗殺に特化した、どこに出しても恥ずかしくない"生きたスキル持ち"だ。


**********


 受付を済ませると、すぐに電子パネルを渡された。

 そこには、私の初任務が表示されていた。


 【神崇星(Sinthéon)属性:聖域結界/武装等級:C】

 《解説》古より神々の加護を受けるとされる聖域国家。中心都市部は極めて平和で治安も良好。


 ふむ……なかなか、悪くない。初派遣でこの難易度ならラッキーな部類だろう。


 でも気を抜いたらダメだ。ここは異世界派遣スパイ会社。

 この会社は社員をスパイとして異世界に潜り込ませ、その国、世界の機密情報を本社に送信させる。

 情報は裏で軍事国家に売られ、国崩しや世界征服に利用される。


 出兵という投資で利益を得る。戦争も、もはや投資と変わらない時代になった。


「さて、どんな世界が待ってるか……」


 そんな呟きと同時に、背後から聞き覚えのある声がした。


「あら、ミライじゃん。あんたもここだったっけぇ?」


 振り返ると、そこには見るだけで胃が痛くなる顔があった。

 いや、顔は可愛い。問題は中身だ。

 かつてアサシン養成所で同じ釜の飯を食った、嫌な姉妹ナミとフェイ。

 何かと私のものを奪うのが趣味らしく、ずっと、ずっと目障りだった。


(またかよ……ざーとらしい。私がここに決めたの、絶対知ってたくせに)


 しかも案の定、にじり寄ってきた。


「ちょっと見してあげる~。あたしの派遣先~♪」


 【地球星(Terrestra)属性:文化均衡圏/武装等級:D】

 《解説》我々に最も近い人類型種族が支配する星。科学・芸術・政治バランスが取れた成熟世界。


(うわ、普通にいいじゃん……)


 人間界、それも武装等級:Dなら完全に安全圏だ。


「で?あんたの派遣先どこよ?見せて~」


 嫌な予感しかしない。

 警戒しつつ後ろへ引いた瞬間、ミラがするりと私の端末を奪い取った。


「へえ~、武装等級:Cっていいじゃん。神崇星だって?変えてもらおっと!」


「は!?ちょっ……!」


 言うが早いか、フェイへとパス。

 二人して、こちらを嘲笑いながら逃げていく。


「あはは、じゃあね~ん☆」


「ふざけんな!!」


 必死で追いすがるも、二人がかりでまかれて時すでに遅し。

 システムは即時同期され、私は無理やり彼女たちの派遣先と入れ替えられてしまった。


 慌てて自分の端末を確認する。


 【Badlandバドランド属性:灼熱地獄圏/武装等級:S(特級危険指定)】

 《解説》火山活動が活発な超高温地帯。潜入任務は極めて困難と判断され、殉職覚悟が求められる。


「……はあぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」


 Badlandバドランド灼熱地獄圏……文字通り、絶望のふち。

 案の定、武装等級:Sの特級危険指定。

 この組み合わせ、どこからどう見ても死地。

 これってもう、スパイじゃなくて戦争要員じゃん!?

 やばい。これはガチで命がけの派遣だ。


「のんびりスパイ生活って思ったのに……なんのために転職したのよ」


 どっとため息をついた瞬間、無機質なアナウンスが流れる。


《出向待機者はロビーに集合してください》


 はぁ…気が重い。でももう同期されてしまったし、私はプロの元アサシン。任務初日からギャーギャー騒ぎたくはない。


「もう…やるっきゃないわ」


 自分に言い聞かせるように、拳をぎゅっと握った。頭を抱えながら、それでもロビーに向かって歩く。


 そして、私は次元ゲートから絶望の世界、Badlandバドランドへと送り出された。

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