1
突き抜けるような青空が広がる、五月のある日。少年は屋上で大の字になって寝ころんでいた。
(平和だ)
穏やかな風が新緑の香りを届けてくれる。ぽかぽかとした日差しは、まさに昼寝日和である。目を閉じると、眠気が一気に押し寄せてくる。その誘惑にあらがうことなく、少年も夢の世界へと歩み出そうとしたときだった。彼の隣に置いてあった刀が、挨拶をするように震えた。
「こんなところで何をしてるのかな、武尊」
その声に、武尊はビクリと体を震わせる。優しそうな声色の裏には、近いものしか分からない怒りの感情が隠れている。
武尊はパチリと目を開けて、相棒の恭介の姿をみた。ヤンキーかと疑われそうなくらいの明るい恭介の髪が光を浴びて輝いている。
(きれいだ)
言葉に出せば、恭介の怒りをさらに上昇させるだろうその言葉を、武尊は飲み込んで起き上がった。
「葵さんがあきれていたよ。電話をしても、LINEをしても返答がないって。で、僕が玉依の気配を探って、ここまで来たんだけど本人はのんびりとお昼寝中じゃないか。葵さんに見つかったら、また、叱られるところだよ」
「だってさ。こんなに天気がいいんだ。ついつい横になりたくもなるさ」
武尊の言葉に恭介は大きくため息をついた。
「で、どうなの? アイツら、出て来そうなの?」
「葵さんの情報によれば、そろそろじゃないかなって」
「そうか」
空を仰ぐ武尊につられて、恭介も見上げる。すると青い絵の具で塗りたぐった中に、黒とも灰色ともつかない、しみのようなものが見えてきた。
「来るよ」
恭介の声が緊張する。
だんだんと大きくなっていくしみを、少し遅れて武尊もようやく確認した。
黒い鳥だ。
百羽か、それ以上いるだろうか。それらは、渦を巻くように集まり、やがて校庭の上で大きな一つの鳥の形になった。
「おいおい、ちょっとデカすぎ」
「小型機ぐらいあるね」
「どうするよ」
武尊は不敵な笑みを浮かべる。
「行くしかないでしょ」
呆れたように恭介が答えた。
怪魔は雄叫びを上げる。その音で、風がおこり渦を巻く。
そして、それが合図だったように、恭介は屋上の手すりから空へと飛び出した。
「先に行ってるよ!」
恭介はズボンのポケットから紅い紐を取り出すと、大きく腕を振る。その動きと同調し、まるで生きているように長く長く伸び、怪魔の首へと真っ直ぐに向かう。
「了解!」
その姿を追って、武尊は階段を駆け下りた。
格別、霊力の強い恭介は、その力を駆使して人間離れをした動きをすることもできる。だから、三階建ての校舎の屋上から飛び降りることもできるのだが、ほとんど霊力を持たない武尊は、そんな人間離れしたことはできない。
「ちっくしょぅ、かっこいいなっ!」
息を切らしながら校庭へ出ると、恭介は力を込めた紐を使い、怪魔を押さえつけていた。
武尊は鞘から細身の直刀を抜くと、大きく振り被り、その勢いのまま、振り下ろした。
しかし、怪魔の表皮が剣を弾く。
「やるなっ」
武尊は嬉しそうに微笑んだ。
怪魔は大きく叫び、力いっぱい体を動かした。その勢いに、恭介が振り飛ばされそうになる。
「真面目にやってよ!」
「わりい、わりい」
武尊は体勢を整えると、剣を構え直す。
「頼んだぞ、姫」
(任せなさいっ!)
武尊の言葉に、神剣玉依の輝きが増し、柄まで熱くなる。
武尊は駆け出すと、渾身の力で怪魔へ剣を叩き込んだ。
怪魔は大地を揺るがすような断末魔を響かせると、体を大きくのけぞらせ、霧のように消えていった。
「武尊、遊びすぎ」
よたよたと恭介が歩いてくると、武尊の肩にもたれかかる。
「わりい、わりい」
二人は顔を合わせて笑顔を浮かべる。
爽やかな風が、少し汗ばんだ肌に心地よい。
「仕事も終わったことだし、葵にうまいもん食わせてもらおうぜ」
初投稿です。
最後まで最後までかけれたらと思いますので、よろしくお願いします。
2026年6月10日 一部書き直しました。
本作品は個人創作です。
一部の表現や設定の整理にAI(ChatGPT)を補助的に使用しています。
「さち」名義で「pixiv」「小説家になろう」「カクヨム」にて同時掲載しています。
無断転載・無断使用・AI学習への利用は禁止しています。




