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1500万円で異世界を買い叩く 〜ブラック企業で貯めた金で【銀行】を作り、【産業革命】を起こして魔法世界を経済支配する〜  作者: 高山 虎
第五章 産業革命編

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大陸諸国の反応 ~四年間の沈黙と、手遅れの目覚め~

大陸中央部に覇を唱える大国、シノーバ王国。

その王城の奥深くにある円卓の間は、重苦しい沈黙と、深い悔恨の空気に包まれていた。


「……さて。先日、ついに鉄道の全線開通が宣言された西方オルドリンド王国の件だ」


口火を切ったのは、シノーバ国王ギルベルト四世であった。

彼は眉間に深い皺を寄せ、卓上に広げられた詳細な報告書と、貴重な魔法によって焼き付けられた「念写写真」を見つめている。


そこには、王国内の主要都市を網の目のように結ぶ鉄路と、その上を疾走する黒い鉄塊、そして夜空を焦がすほどの光を放つ王都の繁栄が映し出されていた。


「宰相、状況を説明せよ。我々が静観していたこの四年の間に、あそこまで変貌したというのは事実か?」


指名された老宰相ヴォルトンは、苦渋に満ちた表情で立ち上がった。


「はっ。信じがたいことではありますが、これらは全て事実でございます。我々が『単なる地方の道路整備』や『採算の取れぬ道楽』と侮っていた事業は、国家の血管を作り変える大改革でございました」


ヴォルトンは杖で地図を指し示した。


「彼らが『鉄道』と呼ぶ鉄の道。着工からおよそ四年。その間、我々はただの土木工事だと高をくくっておりましたが、完成した今、その真価が露見しました。蒸気機関という新たな動力を使い、馬車のおよそ十倍の速度で、数百トンの物資と人員を輸送可能。……単純計算で、オルドリンド軍は国境のどこへでも、我が軍の十分の一の時間で展開できることになります」


「四年……たった四年でか?」


軍務大臣が呻くように声を上げた。


「通常、街道の整備だけでも十年はかかる。それを、未知の技術で、しかも国内全土に張り巡らせるなど正気の沙汰ではない! その間、なぜ我々は気づけなかった!?」


ヴォルトンは自らの失敗を認めた。


「我々の失態です。情報局は商人の奇妙な道楽趣味と鉄の価格下落を抑えるために無理やりにでも消費しているのだろうと判断しておりました。また、南方戦線を重要視していたためそちらの情報が優先されておりました。さらに『街灯』による二十四時間活動可能な都市機能……。我々が他国の小競り合いに目を向けている間に、彼の国の立場は着々と盤石なものとなっていたのです」


会議室に、戦慄が走った。

もしこれが数ヶ月の出来事であれば、魔法による一時的な奇跡と疑うこともできたかもしれない。だが、四年という歳月をかけて積み上げられた事実は、それが一過性のものではなく、強固な土台の上に築かれた「新しい文明」であることを意味していた。


「……認めざるを得ませんな」


ヴォルトンは重々しく告げた。


「この四年間、開発を妨害することも、技術を盗むこともできず、指をくわえて見ていた時点で、我々の負けだ。今から軍を動かしたところで、あの完成された鉄壁の物流網と経済圏を崩すことは不可能でしょう」


「では、どうしろと言うのだ!」


若い貴族が机を叩いた。


「あきらめろと? このままでは、今後十年のうちに大陸の経済覇権は全てオルドリンドに握られるぞ! 奴らがその強大な国力で侵略を開始したら、我々に勝ち目はない!」


「落ち着かれよ」


国王ギルベルトが静かに制した。


「宰相も、勝てぬとは言ったが、滅びるとは言っておらん。そうだな?」


「御意」


ヴォルトンはニヤリと、古狸のような笑みを浮かべた。


「正面から戦えば負けます。しかし……この『四年間の奇跡』を主導した存在をご存知でしょうか? オルドリンド国王ではありません。裏で糸を引いているのは、『サージョ・グループ』という一商会なのです」


「商会……だと?」


一同が顔を見合わせる。


「一介の商人が、四年もかけて国家を改造したというのか?」


「左様。首領の名はサトシ・サージョ。……ここからが重要です。彼らは国家機関ではなく、あくまで『利益』を追求する商人なのです」


ヴォルトンは、卓上の一枚の報告書を指差した。

そこには、サージョ商会の連絡員が酒場で漏らしたとされる言葉が記されていた。


『我々は国境に縛られない。最も良い条件を出すパートナーを選ぶだけだ』


「つまり……」


軍務大臣が顎をさする。


「奴らは、オルドリンドという国に忠誠を誓っているわけではない、と? この四年の事業も、あくまで商売としてやったに過ぎないと?」


「その可能性が高い」


ヴォルトンは力強く頷いた。


「商人は、利益さえあれば誰とでも手を組む。ならば、我々にも勝機はあります。オルドリンドが独占しているその技術と富を、我が国にも引き込めばよい」


会議の流れが変わった。

絶望的な技術格差への敗北から、希望の持てる引き抜き工作へと。


「我々の国に引き込み、国力を上げればよいのです」


ヴォルトンは熱弁を振るう。

「サージョ商会に対し、オルドリンド以上の特権、爵位、領地、あらゆる餌をぶら下げるのです。彼らが四年かけて築いたノウハウを、金で買うのです。勝てなくとも、『負けない』状態に持ち込むことは可能です」


「なるほど……『均衡』か」


国王ギルベルトは深く頷いた。


「全面戦争は避けつつ、サトシという男を懐柔し、我が陣営に取り込む。……悪くない手だ。いや、それしか道はあるまい。四年遅れた分を取り戻すには、その張本人を使うのが一番の近道だ」


「では、直ちにサトシ・サージョについての詳細な調査を」


「好みの女、趣味、金銭感覚、すべてを洗え!」


「まずは特使を送り、非公式に接触を図るのだ!」


会議は熱を帯び始めた。

彼らはもはや、オルドリンドという国家を見てはいなかった。その背後にいる「サトシ」という個人の欲望をどう満たし、どう自国へ誘導するか。その一点に、大国の知恵と資源が注がれようとしていた。



シノーバ王国だけではなかった。

大陸中に点在する、同じ神殿を信仰する主要な国々において、全く同じ光景が繰り広げられていた。


『四年もの間、我々は眠っていた』


『オルドリンドの発展はもはや止められない』


『だが、裏にいるのはサトシという商人だ』


『商人は利益で動く。ならば、懐柔できるはずだ』


彼らは皆、自分たちこそが賢明な判断を下したと思い込んでいた。

「戦争」という最もコストのかかる選択肢を捨て、「経済交渉」という土俵に乗ることを、自らの意思で選んだと信じていた。


だが、彼らは知らない。

その情報自体が、サトシの指示を受けたカイル配下の連絡員たちによって、鉄道網の完成に合わせた絶妙なタイミングで流されたものであることを。


「サトシは金と権力で動く」という人物像すらも、彼らを誘導するための虚像であることを。


大陸中の首脳陣は、細部こそ違えど、おおよそ同じ結論に至っていた。


「サトシ・サージョを丁重に扱え。決して敵対するな。彼を味方につけろ」


それは、サトシが描いたシナリオ通りの反応だった。

各国がサージョ商会を奪い合おうとすればするほど、サージョの価値は跳ね上がり、どの国もサトシに手を出せなくなる。戦争の抑止力となり、安全な商圏が大陸全土に約束される。


四年の歳月を経て、サトシの蒔いた種は、大陸全土を巻き込む巨大な花を咲かせようとしていた。


王たちは、円卓で地図を広げ、知恵を絞っていた。だが、そのテーブルそのものが、すでにサトシの手のひらの上に乗せられていることに気づく者は、まだ誰もいなかった。

最後までお読みいただきありがとうございます。


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