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1500万円で異世界を買い叩く 〜ブラック企業で貯めた金で【銀行】を作り、【産業革命】を起こして魔法世界を経済支配する〜  作者: 高山 虎
第五章 産業革命編

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第48話 規格化される才能

ボイラーの試験稼働が成功を収めた翌日。


「エレナ、カイル。蒸気機関車の車両に目処は立った。だが、車両だけあってもただの『蒸気を吐き出す鉄の塊』だ。結局のところ鉄道を鉄道たらしめるのは、地平の果てまで続くレールと、それを支える強固な路盤。そして、それらを維持管理し続ける膨大な人的資源だ」


一国を網羅するほどの鉄路を敷くためには、数千、数万単位の労働力と、地形を整地するための重機に代わる、大量の魔法使いが不可欠だった。


「私兵を募ったところで手に負える規模ではありませんわね。……これは国家レベルの動員力が必要です」


エレナが冷静に指摘する。 サトシは深く頷き、懐から一通の書状を取り出した。


「ああ。だからこそ、預けた貸しは返してもらう。……王家にな」


数日後、サトシは王宮の奥、財務卿の執務室にいた。


「鉄道建設用地の強制買収令、および魔法兵団からの大規模な人員供出……。サトシ殿、正気ですか? この計画では建設用地は多数の貴族所領に跨っている。地方貴族の反発を招けば、内乱の火種になりかねないのですぞ」


財務卿は眉間に深い皺を刻んでいる。 サトシが出した要求を飲むことには後ろ向きのようだった。


しかし、サトシは動じず、冷えた紅茶に口をつけた。


「財務卿。私はあなた方の慈悲を乞いに来たのではありません。……貴方は王室への融資の裏側に気づいているのでしょう?そしてその内情を王には伝えていない。サージョ・バンコの発行する『預かり証書』が、もし明日から王都の市場で流通しなくなれば、貴方の立場はどうなるでしょうね」


サトシの言葉は、財務卿が最も触れられたくない暗部を容赦なく暴き立てた。


「それは……」


「貴国は今、サージョが作り上げた『信用』という薄氷の上で踊っているに過ぎません。我々が証書と金貨の交換を一時停止するだけで王国の経済は心肺停止に陥り、貴方は王を謀った背任罪で首を吊ることになる。……用地と魔法使い。どちらが安上がりなコストか、計算するまでもないでしょう」


財務卿は一瞬、何かを言い返そうと口を微かに開いたが、震える手で眼鏡を拭い敗北を認めるように深く椅子に沈み込んだ。



王家から出された召集令に基づき招集された魔法兵及び在野の魔法使いたちがサトシの演習場に集められた。 その総数は実に二千人を超えていた。


整然と整列する彼らに、サージョの職員が一人一本ずつ輝く合成ルビーの取り付けられた杖を配布する。


「この杖を各自に貸与する。これは魔力の流動を最適化しその規模を大きく拡大させる。そして発現を安定させるための増幅器だ。宮廷魔導師に貸与される宝杖にも勝る代物だと思ってくれていい。ただし、あくまでサージョからの貸与品であることを忘れるな。それぞれに製造番号が刻んであるからな。だれがどの杖を使っているかは完全に把握できている」


配布された杖には、現代日本で量産された高純度の合成宝石が組み込まれていた。 受け取った魔法使いたちは半信半疑で杖を握り、基礎的な励起を行うと一斉に硬直した。


驚嘆の叫びすら上がらなかった。 ただ、場に満ちた魔力の「密度」が劇的に変化した。


魔法使いにしかわからない感覚ではあったが、これまでの彼らが泥水をストローで吸い上げるような苦労をして魔力を練っていたのだとすれば、この杖は澄み切った清流を大口径のポンプで汲み上げるような解放感をもたらしていた。


「これが、自分の力なのか……?」


一人の魔法使いが、震える手で杖を見つめている。 彼は特権階級の魔法使いの中では低位にくすぶっていた男であった。


しかし、今この杖に通った魔力の感覚は、自身に宮廷魔導師にも引けを取らない才能があるかのような錯覚を覚えさせるに充分であった。


サトシたちは、その圧倒的な力を手にした魔法使いたちに、休む間もなく「土木工学」の概念を教え込んだ。


「お前たちが学ぶのは破壊ではない。土を締め固め、岩盤の特定部位にエネルギーを集中させ、最小限の魔力で『破砕』する術式だ」


エレナが教壇に立ち、現代の構造力学と地質学に基づいた計算式を魔法の術理に落とし込んでいく。特に、現代の発破技術――爆圧を特定の方向に集中させる「指向性爆破」の理論を魔法に応用させた。


実際に訓練が始まり、研修が進むにつれ魔法使いたちの間に奇妙な静寂が広がっていく。


かつて彼らににとって魔法とは、天賦の才と修行がもたらす特権階級たる「聖域」のはずだった。 だが、サトシが与えた杖とエレナの術理は、その誇りを無価値なものへと変質させた。


「おい、見てみろ。昨日まで基礎術式しか知らなかった三流が、ベテランの俺と同じ深さまで岩盤を正確に打ち抜いてやがる」


一人の熟練魔導師が、呆然と隣の若者を見つめて呟く。 規格化された杖を持ち黒板に書かれた術式理論に従いさえすれば、個人の才能の差など誤差であると結果が示していた。


サトシは演習場の外からその様子を冷ややかに見下ろしている。 彼が求めているのは英雄ではなく、二十四時間いつでも同じ出力を維持できる安定した動力源であり重機である。


宝石の輝きに魅了され、魔法使いたちは自らの才能が強化されたのだと錯覚をおこしている者すらいる。 だがその実態は、サトシという「設計者」が描く巨大な歯車の一部に過ぎない。


才能という名の不確実性を排除し、魔法を「規格品」へと貶める。 その徹底した合理化こそが未開の荒野を鉄路へと変える唯一の正解であることを、サトシは誰よりも深く理解していた。



数週間の研修期間ののち、立ちはだかる急峻な山肌に魔法使いたちが向き合う。


「五人一組で同期しろ。……放て」


カイルが指揮を執り、実際の工区で実地試験を行っていた。 周囲に響き渡る轟音と立ち上る土煙。


だがそれは乱雑で無意味な破壊の爆発ではない。 山肌は計算書通りに美しく抉られ、破砕対象となった部分だけが自重で崩れ落ちていく。


現代の設計思想、国家から供出させた動員力、それから『合成宝石』という増幅器。 これらが組み合わさった結果、本来なら数十年、数世代にわたって続けられるべき国内鉄道網の整備という難事業が、いまや数年単位のプロジェクトへと変貌を遂げた瞬間であった。


サトシは、遠くで崩落する岩の音を聞きながら確信を深めていた。


かつて多くの王たちが夢想し、その莫大な工期とコストの前に膝を折った「国土の貫通」。 それが、いまやサトシの指先一つ、ペンの一振りで現実の風景へと書き換えられようとしている。


「サトシ様、第一区間の整地、予定より三日早く完了する見込みですわ」


エレナの報告を聞き、サトシは測量図の上に置かれた鉄の定規をなぞった。


「ああ。……次は、この路盤の上に、鉄の路を敷き詰める番だ」


【第48話進捗概況】


政治的掌握: 事実上の国家動員体制を構築


技術: 合成宝石を組み込んだ「規格化杖」の配布による、魔法使いの重機化


進捗: トンネル・路盤工事が現代の重機を上回る速度で進行

最後までお読みいただきありがとうございます。


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