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1500万円で異世界を買い叩く 〜ブラック企業で貯めた金で【銀行】を作り、【産業革命】を起こして魔法世界を経済支配する〜  作者: 高山 虎
第三章 金融革命編

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第36話 算出不能の「固定資産」

港湾都市シーリンの朝は、かつてのバブル崩壊後の静寂が嘘のような喧騒で幕を開ける。


融資目的の偽装船は消え、サージョ・バンコによる救済融資と決済革命により、新大陸航路を行きかう船も着実に増加していた。


港で大型帆船が隙間なく並び、デリックやトレッドホイルクレーンの軋む音と荷役たちの掛け声が潮風に乗って街中まで響く。


「サトシ様、見てください。市場の方まで活気が溢れていますわ」


馬車の窓から外を眺めるエレナが、楽しげに声を弾ませる。


かつては重い金貨袋を抱えて歩いていた商人も、今や誰もが懐に入れている青い盾の紋章が刻まれた紙片――サージョの預かり証を取り出し、軽やかに仕入れを行っているのがわかる。


物理的な重みから解放された富は、毛細血管に流れ込む血液のように街の隅々の商店にまで行き渡っていた。



馬車が向かったのは都市の郊外に新設された広大なサージョグループの訓練場だ。


そこでは、サージョ・バンコの全国ネットワークを支える銀行警備部門の精鋭たちが、一糸乱れぬ動きで教練に励んでいた。


「そこっ!気を抜くな! 賊が情けをかけてくれると思うんじゃないぞ! 」


響き渡る野太い声の主は、警備部門統括官となったカイルだ。 彼はサトシを見つけると部下たちに休息を命じ歩み寄ってきた。


カイルが統括する警備部隊は、サトシの「信用第一」の方針を徹底されている。


一般客には紳士的で穏やかな安心の象徴として接するが、ひとたび金庫を狙う賊や規律を乱す輩が現れれば、騎士団にも劣らぬ練度で容赦なく排除する。


今や警備部門は国内において、軍と並ぶ実力組織となっていた。


「サトシ、視察にきたのか。見てくれ、辺境から集めた荒くれ者たちも、今や立派な『銀行の番人』だ。あんたの指示通り、客の前では剣を隠し、賊の前では迷わず抜く。いまはその使い分けが奴らの誇りになってる」


「いい顔をしているな、カイル。これから銀行網はさらに拡大する。なんでも物理的な暴力で解決する時代は終わったが、平穏を守るための『実力行使を含めた抑止力』はこれまで以上に重要になる。頼むぞ」


「承知しておりますとも旦那様、なんてな。だが安心してくれ、こいつらが構える盾の一枚一枚が、サージョの信用となるだろうさ」


カイルに見送られ、サトシは再び馬車に揺られて本店の執務室へと戻った。



執務室の机には、サージョ・バンコの巨大な帳簿が広げられていた。 そこには、かつてブラック企業時代に見ていた億単位の数字が、異世界の通貨単位となって整然と並んでいる。


「……エレナ、現在の総管理資産は、金貨で二百五十万枚を超えた。これだけの重さを物理的に動かせば、それだけで街道が沈む。だが、いまや俺たちの証書はペン先一つで王国の端から端まで瞬時に移動している」


「二百五十万……。サトシ様、もはや私には想像もつかない額ですわ。王国政府の年間歳入の倍にも及ぶ金貨が、私たちの金庫を経由して流れているなんて」


エレナは、かつて数枚の金貨に一喜一憂していたオルファナでの出会いを思い出し、感慨深げに窓の外を見つめた。


不意に、彼女はサトシの背後に回り込むと、書類を整理する彼の肩に、柔らかく顎を乗せた。


「サトシ様。これだけの資産があれば、世界中の宝石も、絶世の美女も、思うがままですわね。例えば、私を銀の鎖で繋いで、一生贅沢な籠の中に閉じ込めておくことも……」


サトシの筆は止まった、だが振り向きはしなかった。 肩に伝わるエレナの体温と、先日十九歳になった彼女が纏う、少し大人びた香水の匂いを感じ取る。


「……エレナ、銀は変色しやすいし、鎖はメンテナンスコストがかかる。非効率だ」


視線を書類に落としたまま、あえて事務的な口調で吐き出す。 思わず手を出してしまいそうな、彼女の放つ甘い空気に飲み込まれないために彼ができる精一杯の抵抗だった。


「もう! またすぐそうやって『数字』で返すんですから!」


エレナは可笑しそうに笑うと、サトシの耳元でいたずらっぽく囁いた。


「では、別の投資のお話ですわ。サトシ様、今日は四十三歳のお誕生日でしょう? 帳簿の数字も素敵ですけれど……今夜くらいは、私という『不良在庫』の処分も検討してくださってもよろしくてよ?」


「……エレナは在庫などではない。お前は我が商会の、最も代替不可能な固定資産だ。評価額は高額すぎて算出不能だ」


サトシが淡々と、だがわずかに声を和らげて返すと、エレナは顔を赤らめて「……ずるいですわ、その言い方」と彼の肩に顔を埋めた。


ブラック企業の社畜だった頃には想像もできなかった、あまりにも巨大な富。 そして、自分の隣を歩み続ける一人の女性。


サトシは、彼女の髪に一瞬だけ手を置いた。 だが、彼の視線はすでに、その安らぎの先にある冷徹な未来を見据えていた。


「必要な資金は集まった、王室の国庫管理も握った。これから敷設する『鉄の路』が物流を完全に支配すれば、経済も軍事も、すべてサージョの指先一つで動くることになる」


国庫を掌握し、国家というシステムのOSをサージョ・バンコに書き換えたいま、彼はもはや一商人の枠に収まる存在ではなくなっていた。


「もう『金で物を買う』のは終わりだ。これからのサージョは『金で時代を作る』フェーズに移行する」


「はい、サトシ様。どこまでもお供いたしますわ。……次の時代の特等席は、誰にも譲りませんから」


彼は「最強の商人」から、大陸の「インフラ設計者」へと脱皮を遂げた。


中世のルールを使い潰し、次なる「近代」の産声が、鉄の路の向こうから聞こえ始めていた。




ピコン。


誰もいなくなった深夜の執務室にこの時代にはそぐわない電子音が鳴る。サトシのデスクの引き出しの中であのタブレット端末の画面が点灯していた。


『既定の資産額に到達、機能のロックが解除されます。転移可能人数 1 → 3 に変更されました。』



【第三章:金融革命編 完】


累積管理資金:金貨 2,500,000枚相当 (王国の経済を掌握し、国家予算の執行を代行するのに十分な額)


商会ランク: 王都、自由都市・港湾都市に大規模拠点を設置。国内両替商の大多数を代理店化。国内最大手の銀行として国内経済を牛耳る。バブル崩壊後の救済により王国各地に権益を保持。


技術管理: 偽造困難な魔法印刷の量産に成功、様々な審査及び融資ノウハウと取引記録からあらゆる経済情報の取得が可能になった。


同盟勢力: 王室(政治、軍)、救済融資を行った貴族(権力、土地)、グスタフ(海運・金融・警備)、ヴィクトール(製造・物流)、ヴィンセント(品質・薬品)、バルモア(新大陸航路運航者組合)、ニコラ(王立学院)、社交界の紳士淑女および海軍上層部、全国の両替商

最後までお読みいただきありがとうございます。


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