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【完結まで執筆済み】1500万円で異世界を買い叩く 〜ブラック企業出身の俺、最底辺から経済を支配し、月面着陸を目指す〜  作者: 高山 虎
第二章 新大陸航路編

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第26話 港湾都市に訪れた黄金の安寧

柔らかな朝の陽光が、港湾都市シーリンの街を一望する商館に設けられた商会長専用の寝室に差し込んでいた。


日差しに起こされたサトシが重い瞼を開くと、鼻腔をくすぐったのは、酒精の匂いでも潮風でもない、新大陸産の最高級茶葉が放つ圧倒的に芳醇な紅茶の香りだった。


「――あら、おはようございます。サトシ様」


枕元では、すでに身支度を整えたエレナが、ティーポットを手にいたずらっぽく微笑んで待っていた。 ベッド横のナイトテーブルに置かれた銀のトレイには、湯気を立てる磁器のカップと、深い漆黒を湛えた一粒のビターチョコレートが添えられている。


「……エレナか。いつも朝早くからすまないな」


「いいえ、毎日朝の準備をするのが楽しみなくらいですわ。もう、目覚めの一杯は私が一番上手く淹れられるようになりましたのよ」


サトシは上体を起こし、彼女が差し出した白い磁器のカップを手に取る。 唇に寄せ、傾けると黄金色の雫が喉を潤し、続けてひとかけらのビターチョコレートを口に含む。


カカオの濃厚な苦味と、後から追いかけてくる酒精の香りが、眠っていた脳を一気に覚醒させた。


「……最高だ。このルーティーンがなければもう仕事にならないな。朝の一杯を飲めただけでも新大陸への航路を開拓した意味がある」


「まあ、嬉しい。……でも、サトシ様。お口の端に、少しチョコがついてますわよ?」


エレナは自然な動作で身を乗り出し、指先でサトシの唇をそっと拭う。 その指先の熱と、ふわりと香った彼女自身の香水が、サトシの鼓動をわずかに早めた。


「……ああ。すまない」


若干赤くなりながら視線を逸らすサトシを見て、エレナは満足そうにクスクスと笑った。



朝食を済ませた二人は、護衛のカイルを伴って活気に沸く港の目抜き通りへと繰り出した。


かつて「海の呪い」に怯え、死んだように静まり返っていた港は、今や嘘のような賑わいに包まれている。


「見てください、サトシ様! あんなに立派なカキの屋台が。港湾都市名物の『港の白真珠』、以前はあんな値段では食べられませんでしたわ」


「……ああ。街の経済が持ち直した証拠だろうな。物流が血流なら、この賑わいは健康の証だ」


サトシは満足げに頷きながらも、並んでいる商店を素早く見渡した。


「エレナ。今日はこれから、世話になっている面々や各地の有力者たちへの贈り物を揃えるぞ。以前のような妨害を受けないためにも、社交界や権力者たちには十分な『鼻薬』を嗅がせておく必要があるからな」


「心得ておりますわ。サトシ様は厳しいお顔をなさいますが、こういう時は一番気前がよろしいのですから」


二人は、新大陸からの輸入品やサトシたちが苦労して仕上げた嗜好品の数々が並ぶ自社の販売小売店へ立ち寄った。


「そうだな、グスタフ殿には最高級の煙草で作ったシガリロを。彼は口では渋るが、今ではあれがないと仕事にならないはずだ」


「ヴィクトール様には、熟成させた酒精の強烈な古酒がよろしいかしら。あの美食家を唸らせるのはこれしかありませんわ」


「王立学院長殿には、新大陸の先住民から仕入れた呪い道具のセットなんてどうだろうか。……彼には研究意欲を刺激するのが一番の毒となるだろうからな」


「そして、あの助教授には……」


サトシが少し考え込み、エレナと顔を見合わせる。


「あの神経質な男には、よく効く鎮静効果の高い最高級のハーブティーのセットにしよう。彼が追われている責任の重さに耐えられるように」


「ふふ、皮肉がきいていますわね、サトシ様」


二人は笑い合いながら、贈り物を選んでいく。 その二人の様子は、巨大な利権を操る国内有数の大商人というよりは、仲睦まじい夫婦の買い物のように見えた。


背後で手持ち無沙汰なカイルは「あーあ、やってられねえな」とタバコの煙を空に吐き出していた。



そうして夕刻。 買い物を終えた一行が拠点である商館へと帰還したときのことだった。


サトシが執務室の奥にある巨大な大金庫の前を通ると、足元のぶ厚い床材が「ミシリ……」と不吉な音を立てて沈んだ。


「……? 今の音は? 床が鳴ったのか」


サトシが振り返り、金庫を見つめる。 新大陸からの交易品がもたらし続ける未曾有の利益。 毎月のように増え続け、積み上げられた金貨の山は重厚な金庫こそ耐えているものの、すでに床材の耐荷重をとうに超え、その重みで床を軋ませていた。


「サトシ様、どうかされました?」


「エレナ。この金庫、重さで床を軋ませているぞ」


エレナも続いて金庫を見つめている。


「……このままここに金貨を保管し続けるのは危険だ。防犯面はもちろんだが、この建物の構造的な意味でな」


サトシは溢れんばかりの金貨を見つめ、静かに首を振った。


「そうですわね。ですが金匠や神殿勢力への預け入れには費用も掛かりますし、あまり使い勝手のいいものでもありませんわ。地下に金庫室でも造成するのはどうです?」


そうしてサトシは少しの間、何かを考えこんでいた。


「いや、手元にこれだけの現金を死蔵させておくのは悪手だ。これだけの金が市場から消えれば、街の流動性が減少し、経済に悪影響を及ぼす。移動させるのだってただじゃない、考えてみれば取引のたびに金貨の検数で一日つぶされるのだって明らかに非効率じゃないか」


この時のサトシは、この世界にないものを生み出すときの顔をしていた。


「そうか金庫室か。金庫室を作るならいっそ経済の『心臓』を創ってしまえばいい……。さて、まずはどこから投資をするかな」


そう、金貨という貨幣の物体的価値にとらわれているままでは経済の飛躍は望めない。 これから必要とされるのは信用という羽ばたくための翼なのだ。


【第二章 新大陸航路編 完結】

【第26話 収支内訳】


収入項目:


港湾都市店・新装開店記念特別セール(嗜好品・香辛料): +金貨 5,000枚


支出項目:


主要関係者への贈答品(鼻薬)代: ▲金貨 650枚


エレナとの休暇・遊興費: ▲金貨 40枚


第二章:飛躍・深淵の海編 ―完―


第二章最終資産・勢力図項目内容


総資産: 金貨 56,677枚相当


商会ランク: 自由都市・港湾都市に拠点。新大陸貿易の命綱を握る国内有数の大商会


技術管理: サージョ・タブレットの製造法独占、異世界技術での高濃度酒精製造成功。海軍へのタブレット納品により技術流出を防ぐ。


同盟勢力: グスタフ(海運・金融・警備)、ヴィクトール(製造・物流)、ヴィンセント(品質・薬品)、バルモア(新大陸航路運航者組合)、ニコラ(王立学院)、社交界の紳士淑女および海軍上層部

最後までお読みいただきありがとうございます。


「続きが気になる!」「サトシの経済侵略を応援したい!」と思っていただけましたら、下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価いただけると執筆の大きな励みになります!


ブックマークもぜひ、よろしくお願いします!


なお、次話より投稿を一日一回朝7:07分とさせていただきます。

これからもよろしくお願いします!!

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