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【完結まで執筆済み】1500万円で異世界を買い叩く 〜ブラック企業出身の俺、最底辺から経済を支配し、月面着陸を目指す〜  作者: 高山 虎
第二章 新大陸航路編

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第21話 狭すぎる、これでも足りないくらいだ

少し前に地図を確認して気づいたことなのだが、この世界の地理は地球のものと酷似している。 少なくともこの国オルドリンドはスペインに相当する位置に存在し、周辺国家の分布は中世から大航海時代にかけてのヨーロッパに近い。


ただ、それがどういう意味なのかはわからない。 しかし、だからこそ今まで疑問に思っていたことがある。


それは新大陸航路でスパイスが持ち帰られるということだ。 地理的条件が地球と同様であるならば、スパイスの産地まではインド航路をたどる必要があるはずなのだ。新大陸では銀、トウガラシ、カカオなどが主な商品だったはず。


だがしかし、港湾都市の連中に聞き込みをする中で確信したことがある。 この世界の新大陸航路には、スパイスが実在するということだ。


もしアメリカ大陸が史実と同じ位置にあると仮定すれば、本来そこではスパイスは採れないはずだ。しかし、彼らの伝承や過去の記録によれば、地球の中米にあたる位置には広大な熱帯雨林地帯があり、そこにはコショウやシナモンが山のように自生しているという。


そう――この世界のアメリカ大陸は、地球とは植生が根本的に異なっている。



「いいか、バルモア。海の上での死神は呪いだけではない。不潔こそが最大の敵だ」


キャラック船の甲板に降り立ったサトシの冷徹な声が響く。 出航までの二カ月、サトシはこの船を「洋上の実験室」へと作り変えるつもりだった。


最初の数週間、バルモアと船員たちはサトシの命令に激しく反発した。


「旦那、いい加減にしてくれ! 毎日床を酒精で磨き、水樽にまで酒を混ぜる。ネズミを追って船底を這いずり回るのが船乗りの仕事かよ!」


「そうだ、俺たちは新大陸へ行くんだ。掃除屋になるために雇われたんじゃねえ!」


荒くれ者たちの怒号に対し、サトシは無表情に一枚の羊皮紙を突きつけた。


「過去航海に失敗したデータをまとめてきた。最大の死因は海の呪い、だが統計によればその次に来るのはチフスだ」


「そりゃ知ってるが、それと掃除に何の関係があるってんだ」


彼らは細菌やウイルスという概念を知らない。 衛生環境が感染においてどのような意味を持つか理解していないのだった。


「いいかバルモア、船内の不潔な環境がチフスの原因だ。掃除と消毒、ネズミの捕殺を徹底すればそれだけで人が死なずに済む。逆に言えば掃除をしないのは仲間を殺す行為に等しいと考えろ」


つまるところサトシが持ち込んだのは、異世界の船乗りたちが聞いたこともない「衛生管理」という概念だった。


水の管理: 水樽に高濃度酒精を一定割合で投入し、バイオフィルムの発生を物理的に抑え込む。


完全なネズミ駆除: 船内の対策として数匹の猫を飼育し、係留ロープにはラットガードの装着を徹底。


定期的なアルコール消毒: 狭く湿った寝床を週に一度、霧吹き状の酒精で洗浄。カビや寄生虫の繁殖を阻止する。


こうして準備期間の二カ月が経つ頃には、船は見違えるほど清潔になり、船員たちは漂う酒精の匂いに安心感さえ感じるようになっていた。



ついにキャラック船は、霧に包まれた水平線の彼方へと姿を消した。


予定航路は順調にいけば往路に3ヶ月、さらに寄港地でスパイス採取に2ヶ月、そして偏西風に乗る復路は2ヶ月の計七ヶ月。天候などの問題も考慮すれば最短で八か月、最長で一年弱といったところだろう。


それは生きて帰る者などいないと言われる絶望の航海だ。 だが、港で出航を見送るサトシの背中に悲壮感はなかった。


「サトシ様……本当に、大丈夫でしょうか」


暗い過去を思い出し、カエサル商会の無念が頭をよぎって不安に震えるエレナに、サトシは不敵な笑みを向ける。


「確かに100%確実な航海などない。しかし、対処できるリスクはすべてつぶした。結果は天のみぞ知る。……考えても仕方がない、バルモアを信じるだけだ。それよりエレナ、彼らが持ち帰ってくる『奇跡の証』を収める器を準備するぞ」


サトシはすでに彼らが無事に帰ってくることを見越して行動を始めていた。



次の日、サトシは港のほど近くにあるグスタフの館を訪ねた。


「倉庫を探しているだと? サージョの、お前も気が早いな。まだ船が出たばかりだというのに」


グスタフは豪快に笑いながら、港の図面を広げた。


「よかろう。新大陸航路に失敗して夜逃げした連中の物件がいくつかある。……ここはどうだ? 港の東側、利便性はいい。一隻分の荷を捌くには十分だ」


図面を見たサトシは即座に拒否を示した。


「却下だ。狭すぎる」


この時サトシはバルモアの成功のさらにその先を見据えていた。


「なら、ここはどうだ。元は造船資材の置き場だった場所でな。最近はめっきり外洋船の発注が減ったことから売りに出されている。さっきの三倍以上の広さだ」


「まだ足りない」


サトシの拒絶に、グスタフは眉をひそめた。


「……サージョ。あまり欲をかくな。出航した船はたった一隻だろう」


サトシはそれでも足りないんだとグスタフに訴えた。


「なら、もうここしかない。かつて新大陸に無謀な野心を抱いた男が建てた連立倉庫だ。やつは船団を組んで航海にでたがもう4年も返ってきていない。残された家族が売りに出したものだ。建物は完成しているが、あまりに巨大すぎて港の端に取り残されている」


図面の端にあるその場所を指し、グスタフは鼻で笑った。


「しかし維持費だけで金貨が飛ぶぞ。本当に買うのか?」


サトシの目が、その巨大な建物の図面を見て確信した。


「ここだ。ここを買い取る」


「正気か? 船一隻の荷を置くだけなら、九割は空になるぞ」


「問題ないさ。バルモアが返ってくれば、すぐにこれでも足らなくなるんだからな」



一週間後、倉庫の引き渡しに立ち会ったエレナと商会の従業員たちは、目の前にそびえ立つ大聖堂のごとき巨大な倉庫群を見上げ、絶句した。


「……サトシ様、いくら何でも大きすぎます! こんな広大なスペース、維持費だけでどれだけの負担になることか!」


エレナが声を荒げる中、従業員たちも隠れてサトシの判断を疑っていた。


「こんなに大きいのはいらないだろ」「サトシ様は気が触れたのでは……」「うちの商会、大丈夫かな……」


周囲が不安と嘲笑混じりに囁き合う中、サトシは埃の舞う倉庫の中央に立ち、不敵に笑った。


「今はな。だが、バルモアが新大陸から『答え』を持ち帰った瞬間、世界の流れは変わる。その時になってから倉庫を建て始めるのは、無能のやることだ」


サトシにはがらんとした巨大な空間にもかかわらず、既に香辛料の山が積み上げられた光景が見えているかのようだった。


「これでも足りないくらいだ。航海の成功にただ喜ぶだけじゃつまらん。俺が見据えているのは『大航海時代』の権益そのものだ」


【第21話 収支内訳】


支出項目:


旧海運会社・巨大連立倉庫 買収費: ▲金貨 2,100枚


倉庫改修・消毒用酒精・警備体制構築: ▲金貨 400枚


バルモア隊への追加支援物資(酒精、衛生資材、食料): ▲金貨 150枚


合計: ▲金貨 2,650枚


収入項目:


酒精・香水販売利益: 金貨 800枚


【第21話終了時 総資産】


金貨 1,617枚相当(3,880万ルピ)


※周囲の商人からは、莫大なキャッシュを投下したサトシが失敗すると考えられており、破滅へのカウントダウンと嘲笑されている。

最後までお読みいただきありがとうございます。


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