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第2話 王太子の旅立ちと諜報部隊

国勢調査を始めとした各政策も、一部混乱があったものの、順調に進み多忙な日々が少しずつ落ち着いていった。


そんな中、中央集権をより確かにするため、また富国強兵を実現するためにいくつかの方策が実施された。


まずは、ご意見所(通称:ロバの耳)の設置である。


この時代は言葉は存在していたものの、文字は記録を取るためなど一部でしか使われていなかったため、直接話を聞く必要があった。


ただし、直接話を聞く形式だと、人に見られるリスクや面と向かって話すことへの抵抗もあるため、利用者と話を聞く側の間は厚い壁で遮られている。


その壁には長い筒が刺さっており、利用者はその筒に向かって話をすることになる。

(利用者は匿名での利用も名前を告げての利用も可能)


聞き手は諜報部隊が担当し、その場での聞き手側からの返答はいっさい行わない。

(返信が必要な場合は後日別途連絡)


この「ロバの耳」により、事前に村長の悪巧みが発覚したり、国の運営に必要な人材と判断され内政官となるものが出るなどの成果があげられた。


また、国民への娯楽提供と軍事力の強化を目的とした「武道の奨励」を実施。


村単位で、剣道、短剣道、柔道、空手道、合気道、弓道の道場を設置し、農作業の合間に参加出来る門下生を集め、武道の稽古に励ませた。


モチベーションを維持するため、村ごと対抗戦(地区大会)および地区単位での優秀者・チームによる中央大会を開催した(個人戦、団体戦)。


優勝した村には高性能な農具が贈られたり、大会で目立った活躍をしたものは中央で採用されることもあるため各地区、村ではより力を入れることになっていった。


さらに、芸術面にも力を入れた。

特に絵画を奨励し、主に人物画、風景画は定期的にコンクールが開催され、優秀者は国のお抱え絵師として雇用された。


この3施策は、奴国の国力増強に大きな力となった。


-----


そんなある日、悠希と智恵は秘密裏に王と会談を行っていた。


「して、内密の話とはなんだ?」


悠希と智恵は顔を合わせて、うなずきあうと、悠希が口を開いた。


「王太子帥合様のことです」


王の顔が微妙な表情となり、なんとか平静を装いながら、続きを促す。


「王太子は優秀ではありますが、もう少し…なんか…こう…足りないと言うか…」


「頭の良いバカ」


「智恵、もう少し言い方を考えようよ」


「悠希は回りくどいところがある。はっきり言うべきことははっきり言わないと駄目。あの方は、頭の回転は良いのだけれど、世間知らずというか、ちょっとズレてる」


帥升は手で頭を抱えて、しばらく考えてから、ゆっくりと語り出す。


「伊耶那岐公の統治が終了し、国が別れて大乱の時代となり久しい。


人類史上初の大乱期を生きている我々は、人の革新の道を歩んでいるニュータイプである。


その戦乱の世も中盤に差し掛かり、今や9ヶ国に統廃合された。


すなわち、対馬国つしまのくに一支国いきこく末盧国まつろこく、伊都国、我が国奴国、不弥国、投馬国とうまこく、邪馬台国、狗奴国くなこく


この9ヶ国の中でも我が国は、あたらしい種として、主権を獲得するニュータイプにならなければならない」


「「……………………」」


なんだか月の裏側にある地球から最も遠い何かにいた人の演説みたいなことを言い出したぞ。

大体大丈夫なのか、この表現。

新人類の方が良かったか?


「帥合はそんな新人類の先駆けとなり、人類を導いて行ける人物だと思っている」


ひよったか…


「確かに帥合様は、頭のキレもよく何故かカリスマ性も申し分ありません。しかし、何かが、何かが足りないのです」


「坊やだからさ」


「智恵!?その台詞はここで使うのか?」


「して、お主達は何を言いたいのだ?帥合を廃嫡せよと申すか?我が子は帥合の他には妹のみ。妹に王太子の座を譲らせるつもりか?」


「私達は帥合様により成長して頂き、次代を担って頂きたいと考えています」


「…具体的な策があるようだな?」


「帥合様には旅に出て頂き、世の中のリアルな現実を見てきて頂きます。さらに、その旅で各国を巡り国ごとの分化、習慣の違いも実体験をとおして学んで頂きたい。欲を言えば、将来股肱之臣となる人物と出会えれば最良かと」


「なるほどな。確かにそれならば帥合もひとまわり大きくなって帰って来よう。しかし危険な旅となろう、万が一があったらいかがする?」


「ご心配はごもっともですが、私の手の者が各地に滞在しておりますので、影から支援が可能です。それに今は乱世であり、それを乗り越えていくためには、多少の危険ならば鼻で笑い飛ばすくらいでなければならないと考えます」


「…よくわかった。私も覚悟を決めよう。目的からして帥合の不在については国民には伏せるのだな?」


「はっ、そのための王太子府ですので」


「なるほどな、王太子府の存在が王太子不在の隠れ蓑となる訳だな。飾りではなかったか…」


「王太子不在の王太子府なので、ある意味飾りかと」


「はははっ、確かにそうだな。よし、帥合を呼び話をしよう」


…数分後…


「およびでしょうか、父上」


「帥合よ、お主には旅に出てもらう」


「…つまり、私はもう用無しと?」


「はい」


「ちっ、智恵?違いますよ、帥合様。あなたがさらに成長するために世の中を見てきてもらいたいのです」


「先生、それはどういうことでしょう?」


悠希は帥合の教育係であり、公の場以外では帥合は悠希のことを先生と呼ぶ。


先程話した内容をあらためて帥合に話を聞かせた。


「よくわかりました。父上、先生、私はこれより名を代紅雲だいくんと改め、見聞を拡げる旅に出ます」


帥合改め代紅雲は一礼をしてその場をあとにした。


-----


「ついでと言っては申し訳ないが、いくつか気になっていることを聞かせてくれ。まず、製鉄などの製造面はどうなっている?」


「現在、生産・製造関連は、管理者として生産部門に和久(わく♀)、製造部門に波邇夜(はにや♂)を登用しました。和久は農業のことは和久に聞けとと西地区では有名であり、波邇夜は北地区で農具の開発・製造に関わっており、地元では創造の神と呼ばれていいました。また、製鉄技術に力をいれたいと思い、こちらは西地区で偏屈ものと評判の金山(かなやま♂)を中心に研究・開発を進めています」


※和久の補佐として「弥都波(みつは♀)」を登用。


帥升は眉間を指で押さえながら口を開く。


「…創造の神か、それは期待が持てるな。我が国の発展に力を尽くしてほしいものだ。で、偏屈もの? 何故だ?」


智恵は何言ってんだこいつ?見たいな顔をして答える。


「何かおかしいですか?もの作りと言えば職人、職人と言えば、偏屈ものでしょう?」


俺が悪いんだなと諦めた帥升は話題を変更しようと別の質問をする。


「…成果に期待しよう。ところで、青銅ではなく、製鉄技術の推進とは何か意味があるのか?」


「以下のとおりです」


せいどう【青銅】〔名〕

銅とすずの合金。

また一般に、銅合金。加工が容易で、耐食性にすぐれる。


てつ【鉄】〔名〕

金属元素の一つ。

堅くて強い性質がある。


加工技術が同等と考えると、強度では若干ではあるが鉄が、加工の容易さでは青銅が勝る。

この点から考えると青銅で問題ないと思われるが、大きく異なるのは生産コストになる。

銅や錫の鉱石は発掘量が少なく、鉄の鉱石は実はごくありふれたものなのだ。


ゆえに、製鉄技術の強化により、武具の生産高があがり、軍事力の強化に繋がるのだ。

さらにいうと、低コストで材料が入手可能なことから、農具や狩猟道具にも利用でき、農産物の生産高向上にも繋がる。


「さらに刀の性能向上を中心に研究を進めており、攻防両面の強化が期待されます」


「うむ、もの作りはロマンだな。何か成果があり次第報告をくれ」


「承知致しました」


「続けて、悠希に聞きたいのだが、諜報部隊は今どうなっている?」


「まずは、言葉の整理から」


ちょうほう【諜報】〔名〕

敵情をひそかに探って味方に知らせること。また、その知らせ。


かんちょう【間諜】〔名〕

ひそかに敵のようすを探り、味方に通報する者。間者。スパイ。


「草として教育した間諜達は既に不弥国、伊都国内に入り込んでおり、地域社会に溶け込んでいます。あまり苦労なく溶け込めたのは不弥国にせよ伊都国にせよ我が国と同様戦後の混乱があったためです」


「ん?待てよ、では我が国にも草が入り込んでいる可能性が高いのではないか?」


「当然いるでしょうね。この戦乱の時に諜報活動をしない国に待つのは滅亡しかありません。ましてや残る国は30ヶ国の中から勝ち上がった9国ですから」


「対策は?」


「先の国勢調査に隣保制度、最近始めたロバの耳などが手始めに行ったことですね」


国勢調査により国民全員の身元を確認し、隣保制度によりお互いを監視、ロバの耳での通報など諜報活動をやりにくい環境を拵えているのだ。


また、ロバの耳による提案などもよく精査することで他国の思惑が絡んでいるかが判断できる。

その際には逆にそれを利用することも可能だ。もっともバレることが前提となっていることもあることは頭に入れておきたい。


「色々駆け引きがあるのだな…」


「諜報活動は戦の前哨戦です。主な活動としては…」


敵国の民間人に諜報活動を行わせる(因間)、敵国の官吏に諜報活動をさせる(内間)、敵の間諜を抱き込みこちらの間諜とする(反間)、虚偽の情報を敵に提供する(死間)、頻繁に敵国に侵入して情報を得て生還する(生間)がある。


奴国では、草をとおして敵国民間人に諜報活動をさせ(因間)、時間をかけて敵国官吏になり諜報活動を行い(内間)、得た情報を草経由で持ち帰る(生間)、また隣保制度やロバの耳で敵国の間諜をあぶり出し、その敵国間諜を味方に引き入れ二重間諜とする(反間)か、そのまま泳がせ虚偽の情報を与える(死間)。という基本に忠実な手法をとっている。


対策としては、先に挙げた政策により、因間、内間、反間、死間の被害を最小限におさえようとしている。


生間については沙羅率いる警備隊により国内の出入りをチェックしている。


「少なくとも不弥国、伊都国には諜報戦でおくれをとるつもりはありませんよ」


「頼もしいことを言ってくれるが、その先には邪馬台国もある。くれぐれも油断しないようにな」


邪馬台国という言葉がでると、悠希は拳を固く握りしめ、殺気を放ちつつ呟く。


「油断なんかするものか、先の戦いの屈辱は必ず晴らす。…必ず!」


そして、その殺気により、沈黙が…


パァ~ン!!


降りなかった。


「何をしやがる?」


智恵が悠希の頭をひっぱだき、悠希の前で仁王立ちになる。


「頭を冷やしなさい。『クールだ、クールになれ。頭脳派はどんな時でもアツくなったら負けだ』この教えを必ず守りなさい。二度と今のような醜態をさらさないで」


「…すまない…」


ひとつ深呼吸を挟み


「王よ、見苦しいところをお見せして申し訳ありません」


「よい、またひとつ成長の糧が出来たではないか。この糧をもってより大きく成長するがよい」


「ははっ!」


いかんな。たまにどうしようもなく感情が高ぶることがある…。恐らくこれが師匠が言っていたものなのであろう…。


まあよい。


「人を1人呼んでおります。ここに入れても構いませんか?」


気持ちを切り替えた悠希が王に確認する。


「構わんよ」


「では、鴉魔!」


「はっ」


今まで何もなかったところに、膝をつき頭を下げて待機する人と思われる何かがいた。人にしてはなんだか存在が希薄であった。


「このものは鴉魔と言って、諜報部隊:鴉軍の隊長を努めております。以後お見知りおきを」


諜報部隊

鴉軍(あぐん:通称カラス)

草が敵国もしくは国内で長期に渡り活動するのに対し、その他の諜報活動を担当する部隊である。

また、各地に潜む草との連絡係も担う。

諜報部隊の要である。


「そうか、鴉魔とやら、よろしく頼んだぞ」


「はっ」


「もう良い、下がれ」


悠希が指示を出すと音もなく気配が消えた。


「…。すごいものだな、それくらいでないとつとまらないか。それになんだか死線を潜り抜けたものがもつ貫禄というか、そんなものをあの男から感じたぞ」


「あの…鴉摩は10才の女の子ですよ」


「「なっ!!」」


これには智恵も一緒に驚いた。


鴉軍隊長 鴉摩(からすま♀) 10才

15才で成人となり、12才から徴兵対象となるこの国においても若いと言える。

ましてや諜報部隊の隊長という立場でなのだから尚更である。


~メモ~

平均寿命 30才

労働層 10~30

戦力層 15~25

15才を成人として世帯主とする。

※婚姻適齢期は 12~18


「各地に根を張る草達と鴉軍による活動が我が国の諜報の骨格となります」


「頼もしい限りだな。先の自信もさもあらんと言ったところか。これからも頼んだぞ」


「はっ、精一杯努めます」


その時悠希を見つめる智恵の表情に微かな影が浮かんでいた。


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