第1話 再建に向けての第1歩
帥升の死から7日経ち、簡素ながら葬儀も滞りなく終了し、王太子は二代目帥升を名乗り、奴国国王に就任した。
翌日の朝、円卓会議室(身分を問わず参加者の誰もが自由に意見を交換できる場として開催される会議が行われるところ)にて今後の方針を決める話し合いが始まった。
参加者は以下のとおり。
王…二代目帥升
王太子…帥合(すいごう♂)
軍師…悠希(ゆうき♂)
将軍…神威(かむい♂)
100人長…乃愛(のあ♀)、沙羅(さら♀)
尚書…智恵(ちえ♀)、理恵(りえ♀)
王である二代目帥升が口を開く。
「悠希よ、まずは当面の方針を示せ」
下げ角髪のよく似合う丸顔童顔な青年:悠希は、帥升に促され、方針を示す。
「まずは伊都国、不弥国を警戒しつつ、内政を充実させ国力を回復、成長させます」
「具体的には?」
悠希は円卓に筑紫島北部の地図を広げる。
「我らが奴国は現在筑紫島の北方に位置しています」
筑紫島北部の島を指し示す。
そして島の南東と筑紫島を繋ぐ線をなぞりながら
「この南部の東側では、潮が引くと筑紫島本島へ通じる道が浮かび上がります。この道の筑紫島側には不弥国があり、南の海を隔てたところに伊都国があります」
と、筑紫島北部の中央部分を示す。
「現在、先の戦の残存兵310を我が国南部に待機させており、これが今の総戦力となります。沙羅に兵100を預け警戒にあたらせます」
沙羅は了承の意を示す。
「さらに残存兵の一部にある程度の教育を施した上で、不弥国・伊都国に草として根付かせます。既に根付いている草共々、私が直接指揮を取らせて頂きます。これによる情報収集の結果少数での警戒が可能となります」
草とは、スパイ活動をする為に、敵地に住込み、敵地の住民と同化して、2代、3代に渡ってスパイ活動をする者達のことである。
ゆっくり地域の住民に溶け込み、静かに情報収集や思想洗脳をする。
裏切りのリスクも大きいが得ることの出来る成果も大きい。
ここで王太子帥合が首をかしげたずねる。
帥合は幼いときより権力争いを身近に見て育ったお坊ちゃん。しかし、母親の死をきっかけにエリートとして成長してきた。その急成長の期間は、悠希が教育係を担当していた。
「一定以上の年齢に達しているものを草として送り込むのはリスクが大き過ぎないか?低年齢時に洗脳教育を施すのがセオリーだと思うが?」
悠希は答える。
「確かに草の者として育成するには低年齢時に『思想教育』を施し裏切りのリスクを下げるのが一般的でしょう。しかし、思想教育をしなくとも草の者としての適正が高い人材はいるのです」
「…親、兄弟、恋人などの親しいものを殺された者達…か…」
「良く出来ました。ただし、その中でも自分の感情をある程度抑えることが出来ることが重要となります」
帥合が理解を示したことを確認して、悠希は続ける。
「続けて統治体制の話をさせて頂きます」
地図を現在の奴国領土のみのものに入れかえ話を進める。
曰く、
・我が国は、中心部は山となっており、北部、南部、西部は平地となっている。
・人々は、平地である北部、南部、西部に住居を構え、農耕が中心の生活をおくっている。
・各地域とも海に面しているため、漁業も行っている。
・中心部は各地域により狩猟および鉱物資源の採掘が行われていたが、敗戦を機に中央政府が置かれている。
「現在兵を滞在させている南部で多少の混乱が発生しているため、残存兵を中心に新たに東部に居住区を作りそこに移住させます。当面の生活は備蓄から補助を出す予定です。これにより、我が国は中央地域の政府を中心に、東西南北の各地域の合計5地域からなる国家を形成します」
悠希はここまで話すと、智恵を見る。
智恵は、長い髪を後ろで束ねた可愛らしい女性である。異性からは勿論、同性からも可愛いと評判の彼女であるが、内政能力は群を抜いていた。(ちなみに悠希とは幼馴染みであり夫婦でもある)
智恵は悠希の合図にひとつ頷き…
「ここから先は、私の方から話をさせて頂きます」
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「まずは統治体制を1から見直し、王を中心とした絶対王政とします。全権力を中央である王に集める中央集権体制を実現させます」
従来の奴国の統治体制は、地域ごとに代表者がいて、代表者が集まり、最有力な代表者が王として即位する形式をとっている。
人が生まれ、集団を形成し、大きな集団が小さな集団を吸収していく。
今は大乱の時期であり、複数の国に分散しているが、伊耶那岐・伊耶那美の統治も原則的には、そういった統治体制であった。
「なぜ見直さなければならない?」
神威が問う。
神威は先の戦いで討死した大元帥の弟であり、個人の武力では兄を上回っていた程の武人である。面倒見の良い性格で悠希の良き兄貴分である。
今の統治体制に多少の問題はあるものの、大幅な見直しが必要とは思えなかった。ましてや、従来の統治体制で奴国は大国にのしあがった実績がある。
「国としての意思の統一が難しいのが一番ですね」
智恵曰く
王家が年貢の割合を決める。
すると、地方の有力者がそれを受けて民から少し多めに徴集。
さらに民の数や生産可能量を少なく報告するなどし、力を蓄える。
こうして力をつけていき、最終的に王家の言うことを聞かなくなって行く。さらに自分の言うことを聞かせようとしていく。
「王家(≒中央)の意思が配下(≒地方)の思惑によって妨げられる…、おかしな話ですよね?」
今までは絶妙なパワーバランスによって力のベクトルが正の方向へ向いていたに過ぎない。
先代の意思に従い、再び筑紫島に覇を唱えるために一丸となるべき時に、地域ごとの思惑が絡めば、それは妨げでしかない。
「王の、中央の意思を末端まで浸透させ、強力な国を作るためには、戦後の混乱が残り、人口も減った今しかないと考えます」
帥升は目を閉じる。
……しばらくして目を開き皆の考えを聞く。
「智恵の示した方針が最善かと」
代表して悠希が発言し、この場の参加者も同意とばかりにうなずく。
こうして、奴国の統治体制の方針が決定した。
「ならば、具体的なことを話させて頂きます」
智恵が述べた具体的な体制と実現に向けた動きは以下のとおり。
■国勢調査と検地の実施
まずは正確な人口と世帯の実態を把握するために、国勢調査を実施する。
それに合わせて検地を実施し、基礎生産量を算出する。
検地は、農地のみならず、漁場・猟場、野草などの採集地についても実施する。
基礎生産量
→単位面積あたりの収穫可能量のこと
乃愛を長とする特別機動隊を組織する。
理恵指示のもと、特別機動隊が調査にあたる。
■隣保制度の導入
国勢調査を実施後、隣保制度として什伍制を採用し導入する。
成人(15才以上を成人と規定)したものは独立し世帯を持つことを前提に、5世帯を1組(「伍」と称する)として、2組を最小管理単位(「什」と称する)とする。
伍単位で伍長を選出、2組の伍長の中から什長を決める。(什長にならなかった伍長は副什長となる)
一方、現地域数は、5地域。
中央は別管理として、4地域。
地域を地区と呼称し、北地区、南地区、西地区、東地区とする。
これを合わせて、地区内の什の数により、グルーピングの単位を設定する。
まずは、仮おきとして、什を10組でひとつの村とする(地区ごとに村の数を調整)
まとめると以下の通りとなる。
国
├ 中央政府(1)
└ 地区(4)
└ 村(5)
└ 什(10)
└ 伍(2)
└ 世帯(5)
└ 個人(5)
各区分けごとに長、副長を選出
世帯主、伍長、什長・副什長、村長・副村長、地区長・副地区長。
世帯は家族で構成されているので、世帯内の最年長男子が世帯主となる(男子がいない場合は最年長女子。ちなみに相続は末子相続となる。年長者から順に独立していくため)
伍長は所属世帯の世帯主による話し合いで、什長・副什長はふたりの伍長による話し合い、村長・副村長は所属する什の什長・副什長による話し合いもしくは多数決にて決める。
地区長・副地区長は、所属する村の村長・副村長により候補として、中央の丞相府へ申請し、丞相承認を経て決定される。
各地区長、副地区長は国が開催する議会へ参加する権利・義務がある。
※会議体の設立は後日。
・伍長以上の各長、副長の任期は原則4年
(4年ごとに再選出)
・組織メンバーの過半数の同意のもと罷免可能。
・罷免する際には上部組織に連絡し許可をとること
(最終的には丞相が許可する)
■農地、漁場、猟場、採集地の分配
隣保制度に従い、組織を編成した後で、伍単位に、農地、漁場、猟場、野草などの採集地を再配分する。
■税と徴兵制
税については当面は年貢のみとする。
情勢に応じて臨時で税を徴集することがある(臨時徴税)
年貢は毎年秋に什単位での実収穫量から中央が定める比率分を納める。
(検地により、採れ高を管理しているので誤魔化しはきかない)
徴兵について
徴兵対象は1世帯の中で成人1名とし、什単位で2組ある伍から交代で徴兵に応じること(什単位で5名の徴兵)
徴兵期間は、秋の収穫時期を除き、1ヶ月ごとに2週間とする。
※年貢は什単位での徴兵を意識した比率としている。
徴兵期間は、神威率いる近衛隊指揮の下、軍事訓練が行われる。
「と、まずは、このあたりでしょうか。
まだ考えることはたくさんありますが、統治体制の基盤作りの第1歩としては十分かと」
「各地域の有力者は反対し抵抗するだろうな」
「確かに一部権力者の反発は大きいでしょうが、大半の民衆にとってはメリットが大きいため兵力が集まらず大規模な反乱には発展しないでしょう。念のため、当面の年貢は2割程度に抑えます。さらに、有能な権力者は中央での登用も検討しましょう。有能な人材は沢山いるに越したことはありませんからね」
それでも反対するのなら容赦はしない。
討ち果たすか、中央での強制労働にあてる。
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「ところで、国勢調査、検地、隣保制度、生産地の再配分は、東西南北の各地区についてのことだか、中央部および中央政府についてはどうするのだ?」
「こうします」
智恵の説明を要約すると以下のとおり。
・王が立法、行政、司法、軍事の全てにおける最終決定権を持つ。
・王の補佐役として中央政府を組織する。組織構成は、王の下に王太子府、参謀府、丞相府、元帥府を置く形となる。
参謀府:国家戦略、戦術を担当
→ 軍師長、軍師、副軍師 など
丞相府:立法、行政、司法を担当
→ 丞相、尚書令 など
元帥府:軍事を担当
→ 元帥、将官、佐官、尉官 など
・王都および中央政府は中央地区に配置する。
・製鉄、武器・武具、農具の製造は中央政府が管理する。またそれらに従事する者の工場、住居は中央地区におく。
「細かいところは、随時臨機応変に追加、統廃合をしていくとして、まずはこの形かと」
「なるほどな。大体問題ないのだが、ひとつわからないのが、王太子府だな。具体的には何をするのだ?」
「飾りです」
「ん?」
「飾りです」
「…どういう意味かな?」
「かざり【飾り】〔名〕
1.飾ること。また、飾るもの。装飾。
2.うわべだけをよくみせようと取り繕うもの。体裁をととのえるだけのもの。虚飾。
3.《多く「お飾り」の形で》正月のしめ飾り。松飾り」
「いや、辞書的なことではなくて…」
「2です」
「…智恵…。王太子府は王や中央政府に異常があった場合に、臨時政府の役割が与えられます。平時においては独立機動隊として活動します」
悠希が頭を抱えながら、説明を補足した。
気を取り直した帥升が告げる。
「よし、当面の方針、体制 および やることは、はっきりした。まずは、このメンバーに官職を与える」
「悠希よ、お主を軍師長とする。奴国の進むべき道を示せ!」
「はっ、有り難き幸せ」
「智恵よ、お主には丞相を任せる。奴国の内政は任せた」
「はっ、全ては奴国の発展のために」
「神威、元帥を任せられるのはお主しかないだろう」
「はっ、有り難きお言葉。粉骨砕身努めます」
「理恵は尚書令となり、丞相智恵を支えよ」
「はっ!」
「乃愛、沙羅、お主達には、小将の地位を与える。存分に力を示せ!」
「「はっ!!」」
「皆一致団結し国難を乗り越えてほしい」
「「「「「はっ!!」」」」」
多くの有力者を戦争で失った奴国。
新しい力で巻き返しなるか?
~ 新生奴国の体制 ~
王…二代目帥升
王太子…帥合
軍師長…悠希
丞相…智恵
尚書令…理恵
元帥…神威
小将…乃愛、沙羅




