第21話 後始末
糟屋の戦いが終わり、数日が経過した頃、大きな動きがあった。
伊都国が福岡から撤退したのだ。霞によると元々第2軍団の領地であったため、今後奴国を迎え撃つ際に戦力の分散にしかならずデメリットが大きいと判断したのだろうとのこと。
ちなみに福岡には、矢矧、冬月、涼月、花月を派遣している。大和の帰順によりもはや裏切りの心配がないことと元々の統治者なので都合がよいというのもある。
さらに数ヶ月経過したある日、以前から計画していた遷都が実施された(宮若)
直方から徐々に移行されていたが、ここで王都の中央政府が完全に移行された。
徴兵部隊は、宮若を中央に見立て東西南北で青龍隊、白虎隊、朱雀隊、玄武隊に分かれている。ひとつの隊に複数の地区からの徴兵がある形だ。
内政面では、伊都国第2軍団で内政を担当していた榧(かや♀)と槇(まき♀)のふたりも奴国に投降してきたため、本国より派遣されてきた塩椎と共に糟屋の再整備が行われていた。
今後伊都国攻略の拠点になることも見越し、霞による糟屋の拡張計画も引き継がれている。
体制面では、まずは悠希の希望通り、霞が抱えていた諜報部隊が鴉軍に編入された。(1部のものは幻夢率いる梟軍に編入されているが表向きは粛清されたことになっている)
第2軍団の投降者は基本的に旧不弥国と同様に一旦市民に戻される(状況に応じて常備軍の募集が行われる)
ちなみに大和と霞は大和の傷の療養のため隠居扱いとなり一線から退いている。
ちょっとだけ奴国の統治体制を振り返る。
①什伍制を採用。徴兵は什で1人
②地区制を採用。地区の規模により什のグルーピングの単位である村の数を調整
③地区毎に警備隊を常駐。警備隊は定期的に配置変換がある。
①②は再興時からの施策、③は不弥国吸収以降の施策となる。
内政を司る丞相府は、相国である智恵を筆頭に、左丞相の理恵、右丞相塩椎、内政官の榧と槇。生産管理として高美、製造責任者として天邦、後方支援担当の仁美などが縁の下の力持ちに相応しい活躍をしている。
一方、軍事を司る元帥府。
尾羽張を元帥として頂点に掲げ、再編成のすえ、以下のような体制となった。
■親衛隊 → 元帥直轄部隊の総称
隊長 尾羽張元帥 副官 軻遇突智少尉
参謀 思兼
第1組 隊長 尾羽張元帥
第2組 隊長 石拆少将
第3組 隊長 根拆少将
第4組 隊長 闇淤加美少将
第5組 隊長 闇御津羽少将
■奴国自衛隊
第1大隊
隊長 沙羅大将、参謀 野椎
第1組 隊長 沙羅大将
第2組 隊長 上筒少尉
第3組 隊長 中筒少尉
第4組 隊長 底筒少尉
第5組 隊長 磐土大佐
第6組 隊長 水虬大佐
第7組 隊長 矢矧大尉
第2大隊
隊長 乃愛大将、参謀 我威也(がいや♂)
第1組 隊長 乃愛大将
第2組 隊長 聖花少尉
第3組 隊長 香美少尉
第4組 隊長 和樹少尉
第5組 隊長 紗牙少尉
第6組 隊長 歌音少尉
■徴兵部隊
青龍隊:
隊長 青龍大佐(美鳥)副官 冬月少尉
白虎隊:
隊長 白虎大佐(白斗)副官 涼月少尉
朱雀隊:
隊長 朱雀大佐(朱音)副官 花月少尉
玄武隊:
隊長 玄武大佐(霧也)副官 秋月(あきつき♀)少尉
※徴兵部隊はあくまでも4隊に集約されている。ひとつの隊の徴兵対象地区が増えている。
次は参謀府。
元々諜報部隊であった鴉軍が直轄部隊として再編された。
■鴉軍
隊長 悠希軍師長、副官 鴉魔大佐
戦闘部隊 隊長 悠希軍師長
諜報部隊 隊長 鴉魔大佐
最後に独立機動隊であるが、いよいよ功績が高くなり面倒臭くなって…もとい、王太子の当初の旅の目的が達成したと判断し、正体を明かして王太子府を改めて稼働させることとなった。
王太子府は旧王都で開府された。
危機管理上王都から離れていた方が良いとの判断だ。建設中の軍事施設はその状態のまま引き継いだ。
基本的な統治体制は他の地区と同様となるが、一部の規制緩和、特例処置が認められる特区となっている。
そのひとつが地区長制であり、北地区を破卍、東地区を緋鼻、西地区を裸流、南地区を渡連に任せている(従来の地区長にあたるものは副官として勤務している)
王太子府体制
王太子 志韋矢総帥(帥合)
補佐 聖羅姫(せいら♀)
副官 螺羅愛大佐(夢馬)、徐如大佐、久恵州大尉
参謀 奈々衣、白鳥
※聖羅姫は妹であり、王太子不在時の王太子府責任者代理となる。
■独立機動隊
隊長 志韋矢総帥、副官 螺羅愛大佐
参謀 奈々衣、白鳥
第1隊 隊長 志韋矢総帥
第2隊 隊長 渡連大佐
第3隊 隊長 緋鼻大佐
第4隊 隊長 裸流大佐
第5隊 隊長 破卍大佐
さらに数ヶ月経過し、糟屋制圧から半年が経った。
帥合は夢馬と共に王太子府の訓練施設に向かっていた。
「夢馬、久しぶりに手合わせしないか?」
…………
へんじがない ただの しかばねのようだ。
いやいやいや。
「夢馬?」
「ん?あっ、ああ!私の事ですね。旧に独り言言い始めたのでいよいよ不味いかと思いましたよ」
「いよいよって…。まぁ、いいや。で、久しぶりに手合わせしないか?」
「はい、それは構いませんが…」
夢馬が困惑した顔で答える。
「何か問題でもあるのか?」
「いえ何でも…、いや、やっぱりはっきりさせて頂きますね。夢馬より螺羅愛の方がしっくり来るのですが、今後も螺羅愛では不味いですかね?」
「良い提案だ。私も違和感があったのだ。では、志韋矢と螺羅愛で行くとしよう!」
「私はともかく、帥合王子は不味いのでは?」
「いいじゃないか。名前など飾りだよ」
「…、まっ、いっか。では、志韋矢総帥、お手合わせお願いします」
ふたりの呼び方が落ち着いたところで、訓練施設に到着した。
施設に入ると、渡連と緋鼻、裸流と破卍が組手を行っていた。
中々迫力のある良い組手だ。
ふと見るともう一組、組手が行われていた。
「うん?今日も来ているのか…」
「はい、最近ちょくちょく来ますね。暇なのでしょうか?」
そこには、白鳥相手にふたりで立ち向かう乃愛と沙羅の姿があった。
ふたり(特に沙羅)は、半年前の糟屋の戦いで自分の未熟さを痛感し、改めて真の強さとは何かを考えている。
まずは、切っ掛けとなった志韋矢の元に稽古に来ている訳だ。
志韋矢も中々王太子として多忙なため、一番暇である白鳥が相手をすることが多い。
「たかが軍師」扱いした相手だし出直すには調度良い相手とも言える。
しかし、あの二人相手に2対1で楽々かぁ~。相変わらず底が見えないなぁ。
と志韋矢は感心すると共に早期に超えなくてはならない壁だと実感する。
「では、螺羅愛。始めよう」
「はい、総帥」
しばらくして…
「ハァハァ…、螺羅愛も腕を上げたな。私も力をつけたつもりだったがまだまだか…」
「ハァハァ…、いえ、大佐…総帥。紙一重でしたね。やはり大和との戦いが大きかったようですね、かなりの成長率かと」
「そうじゃな」
「「うぉっ!」」
いつの間にか近くにいた徐如も志韋矢の成長を認めているようだ。
「王子様、あの大和との戦いを1から思い浮かべながら、振り返って見るといい。反省をしながら何度も頭でシミュレーションしてみるのです。意識が飛んだところも身体が覚えてるはず、そのうちはっきりするでしょう。そこまで振り返られた時もうひとつ殻を破ることが出来るでしょう」
「あの戦い…。分かった、試してみよう。ありがとう、勉強になる」
「フフフ」
「「あっ!」」
徐如は笑顔で消えていった…。
「あの化け物め…」(苦笑)
「王子!」
ふと見ると白鳥との組手を終えた乃愛と沙羅が近くまで来ていた。
「精が出るな」
「いえ、まだまだですよ。学ばねばならないことが次から次へと出てきます。仕事をしている場合ではないですよ」
ん?
爽やかな笑顔で言っているが、それじゃいかんよな…。
「沙羅…」(怒)
「のっ、乃愛…、じょ、冗談だとも」
「だよね~」
怒られたな。
「乃愛もお疲れ様。稽古はどうだ?」
「私もまだまだだと言うことを実感しますね。あの方が異常なだけだと思いたい程に…」
「あはは、わかる気がするな。でも大丈夫だろう、乃愛なら超えられるさ」
「ありがとうございます、精進します」
ゲシッ…ゲシッ…
螺羅愛が蹴りを入れてくる。
何故だろう。
「では、我らは任務に戻ります」
乃愛と沙羅は任務に戻っていった。
こうして、国内の整備と鍛錬に明け暮れる日々を過ごしていると、事件が起きた。
王都円卓会議室に、帥升を始め、志韋矢、悠希、尾羽張、智恵が集合していた。
「今日集まってもらったのは、最近頻発している奴国自衛隊襲撃についてだ。まずは状況を整理したい。尾羽張」
帥升が尾羽張に状況の整理を求める。
「はい。最近警邏中の自衛隊が何者かに襲われるという事件が頻発しています。基本的に隊長クラスがいない小数の部隊での見廻り中に襲撃にあっていますね。死傷者も出ています。現在対策としては有効な手立てがとれていない状況です」
「襲撃犯に目星はついているのか?」
「わりと小柄な男で奴国にというより上層部に恨みがあるようだとしか…」
「あ~」
志韋矢が尾羽張に手掛かりはないか訊ね、尾羽張の答えに悠希が反応した。
「悠希よ、心当たりがあるのか?」
帥升が悠希に問う。
幻夢、あいつだな。足取りは掴んでいるか?
失礼致しました、放置していました。至急確認します。
頼む。
「恐らく黄龍かと」
「…なるほどな。狙いはなんだと思う?」
「嫌がらせ程度でしょうね。複雑なことを思い付けるタマでなし。手の者に探らせましょう。念のため、王子も手の者に捜索させて貰ってよろしいですか?」
「承知した」
「では、この件は黄龍の仕業と断定し、見つけ次第拘束する方向で。危険と判断した場合は生死は問わない。帥升様、よろしいですか?」
「うむ、各自充分注意するように」
「「「「はっ!」」」」
数日後。
悠希様、黄龍の居所が判明致しました。
この地よりやや西方にいます。
やや西方か…。調度沙羅が巡回しているところだな。そろそろ隊長クラスにちょっかいかけてくるかなと思ってたらこれだ。相も変わらず分かりやすいやつだ。幻夢、引続き監視を。
はっ!
やれやれ。
さて、王子もそろそろ情報を掴んだ頃かな。
「悠希様、志韋矢総帥から使者が参っております」
ナイスタイミング。
「ここに通せ」
「はっ!」
しばらくして使者が現れる。
「申し上げます。黄龍とおぼしき者、王都のやや西方に潜伏とのことです。対処はどうするか確認したいとのこと」
「こちらも同じ情報を掴んだところだ。沙羅大将の巡回コースに当たるためそちらに任せると伝えるように」
「はっ!」
使者が下がるのを確認し、鴉魔を呼ぶ。
「鴉魔、沙羅大将に通達、黄龍を見つけ次第拘束するように。また、元帥府にも連絡を入れておけ」
「はっ!」
さて、沙羅は勝てるかな。以前は歯が立たなかったが。どの程度成長したか、楽しみだ。
さらに数日後、巡回中の警備隊を影から眺める人影がある、黄龍だ。
「ふん、沙羅か。私の足元にも及ばなかったくせに大将だと?笑わせてくれる」
すっかり板についたストーキング術で巡回中の沙羅隊を追走する。
「確かあの先はしばらく人気の無い道が続くはずだ」
事前に道も確認しているストーキングの達人は、沙羅隊が人気の無い道に出るのを息を潜めて待つ。
そうこうする内に沙羅隊は人気の無い道に差し掛かる。
「まだだ、こういう時は慌てた方が負けなのよね。よし、ちょっと先回りだ」
黄龍は先回りするために道を外れていった。
「沙羅殿、黄龍とやらは先回りするために道を外れた見たいです。この先で待ち構えるつもりでしょう。…勝てますか?」
…バレている。
ストーキングの達人も白鳥にはかなわなかったようだ。
「白鳥殿、確かに以前は歯が立たなかったが、今の私ならば確実に勝てる。自分を見つめ直し鍛え直した私ならば」
「油断なきように」
あそこだな。
しばらく歩くと沙羅は物陰に隠れている黄龍の気配を察した。
駄目だ、ストーキングの達人の称号は取り下げだ。
近くまで進むと物陰から黄龍が飛び出してくる。
「はっはぁ~…ガッ…」
その瞬間、沙羅は一気に間合いを詰め、おもいっきり殴り付ける。
「なっ、何をする?」
踏鞴を踏んで後退りした黄龍が吠える。
「問答無用。貴様を拘束する」
沙羅は太刀を抜き中段に構える。
「チッ、沙羅の分際で」
黄龍も太刀を抜き中段に構える。
黄龍が無造作に間合いを詰めていき互いの剣先が触れ合う。
沙羅は剣先を鋭く僅かに持ち上げる。
黄龍はそれに反応し僅かに手元が浮く。
そこを逃さず一閃。
バシュ!
黄龍の右手が太刀を掴んだまま障害物となる。
「うっ!」
沙羅はすかさず太刀を地面に突き刺し、黄龍の左腕を掴むと背後に回り込みながら一本背負いの要領で腹から地面に投げ付ける。
そのまま、腕を絡め制圧した。
「こっ、この野郎。離せ!」
「五月蝿い!」
バキッ!
騒ぐ黄龍の後頭部に右ストレートをかます。
「…」
バタッ
「右手を止血。中央に連行せよ」
終わってみれば沙羅の圧勝であった。
「技量以前に性格の問題…か。私もひとつ間違えればこうなっていたのか」
「しかし、貴女は気が付き正すことが出来た。人は誰でも間違いを犯したり、勘違いするものです。問題は、間違い・勘違いに気が付き、学べるか否かと言うことです」
その後、黄龍は中央に送られ処刑された。
省みること、反省するこては大事なこと。




