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第20話 糟屋攻略Ⅱ

「悠希様、敵の両翼は制圧完了。中央も大勢が決したようです」


鴉魔が悠希に報告する。


「志韋矢大佐より、中央制圧で一旦侵攻を止めたいとの要望が来ております。如何でしょうか?」


奈々衣が志韋矢からの伝令の言葉を悠希に伝える。


「志韋矢大佐には中央の陣の維持を任せ、元帥隊、遊撃隊、警備隊をこちらに引き上げさせろ!」


「はっ!」


直ちに鴉軍が伝令に飛ぶ。


幻夢。


ハッ


どうなったのだ?


敵左翼は問題なく計画通り進みました。

敵右翼ですが第3組隊長陸奥と志韋矢大佐が一騎打ちを行い、陸奥の片腕を奪いましたが逃げられています。その際夢馬…螺羅愛ですか…が相手の副官の時雨との戦闘で重症です。

中央では尾羽張が武蔵を討ち取りましたが力を使い果たし立つのがやっとの状態。また、敵副官との戦闘で石拆、根拆が重症となっておりますが、こちらは敵副官を全て討ち取っています。


なるほどな、中央の副官を討ったのは?


渡連・緋鼻で1、徐如と白鳥で1ずつ。


独立機動隊か…。


分かった。


「尾羽張、乃愛、沙羅が戻り次第、軍議を開く。引き上げてきた隊は臨戦態勢を維持させたまま待機させよ」


「「「「「はっ!」」」」」


暫くして軍議が始まる。


「さて、まずは各陣の様子はどうか?」


「各陣とも制圧完了。左翼…改め右翼は白虎隊、玄武隊が、右翼…改め左翼は青龍隊、朱雀隊、中央は独立機動隊がそれぞれ守備についています。兵力の損耗は約5%程度となっています」


悠希の問い掛けに鴉魔が答える。


「続けて、特別遊撃隊は?」


「特別遊撃隊は現在臨戦態勢を維持し待機中。兵の損耗はありません。疲労も少ない状況です」


「特別警備隊」


「我が隊も遊撃隊と同様です」


「元帥隊は?」


「現在臨戦態勢を維持し待機中。石拆、根拆が重症であり戦線を離脱。兵の損耗は10%に及びます」


「右翼、中央での戦いとなった独立機動隊は戦力の低下は問題ないレベルなのか?」


「はい、螺羅愛少尉が負傷により戦線を離脱し、多少戦力が低下していますが、問題ありません」


「よし、まずここまではおおよそ予定通りと言える。今後の方針だが、敵砦の一部に工作が完了している。後はそこを突破し糟屋を制圧するのみ。…だが」


参加しているもの達は工作完了に驚きを隠せない。

そんな中…


「問題は大和をどうするか?…ですか?」


思兼が発言する。


「確かに。武蔵はなんとか討ち取れましたが、あれは10回に1度の奇跡のようなもの。それ以上とされる大和に対しては生半可なものでは太刀打ち出来ない。下手をすれば戦局そのものがひっくり返りかねない」


思兼の発言を受けて尾羽張が発言する。


そこなんだよな。

尾羽張の強さはかなりのもので私とほぼ同等に近い。

複数で掛かっても連携がしっかりしていないとかえって弱くなる。

現時点で可能性があるのは…。


「奈々衣、独立機動隊のメンバーで対抗可能なものはいるかな?」


「悠希様、我らが…」


「乃愛、無理だよ。乃愛と沙羅は個人武力では尾羽張には及ばない。ふたりのコンビであれば尾羽張を若干ではあるが上回るだろう。でもそれでは駄目なんだ」


乃愛の発言を遮り悠希は言う。


「志韋矢大佐、徐如少佐、螺羅愛少尉、それと白鳥軍師」


「軍師だと?ふざけるな!」


「私は真面目に話していますよ、沙羅少将」


「軍師ごときが戦えるものか!それに螺羅愛少尉は右翼の副官に遅れをとっているではないか!」


「ごとき…。まあ、良いでしょう。螺羅愛少尉が勝てなかったのは正直意外でした。陸奥に時雨…」


「奈々衣、そこまでで良いや」


「はい、悠希様」


「大和は独立機動隊に任せるよ。敵参謀の霞は出来れば手に入れたい」


「ゆっ、悠希様!」


「黙れ、沙羅!」


悠希は怒りの表情で沙羅を睨み付ける。


「うっ…」


その迫力に沙羅は完全に萎縮してしまう。


「お前の言う『軍師ごとき』に萎縮しているようならば任せても無駄だ」


「はっ…」


「悠希様、霞を味方につけるのは少々厳しいかと。霞は大和に従うこと長きに渡っており、沙織の時の様にはいかないかと」


奈々衣は、さらっと流し、霞の奴国へ仕えることはあり得ないと答える。


「そうか…」


「しかし、差し出がましいようですが、悠希様の希望は第1に霞の参謀としての能力。第2としてその手足かと推測致します。第2の方であればなんとかなるやもしれませんが…」


「分かった、そちらは私が手を打つ。手出し無用」


「はい、承知致しました」


「では、明日、糟屋をとる。まずは、元帥隊の内、闇淤加美隊、闇御津羽隊を中央の陣に向かわせろ。乃愛、沙羅は鴉魔の誘導に従い、砦に穴を開けろ。独立機動隊は穴が空き次第突入せよ。良いか、くれぐれも独断専行の無いように」


「「「「「はっ!」」」」」


幻夢!


はっ、霞の手足…夢幻を味方に率いれます。


頼んだぞ!


はっ!


翌朝中央陣にて志韋矢と徐如、白鳥が話をしていた。


「徐如、大和のことは知っているか?」


志韋矢は徐如に聞く。


「噂程度ですな。詳しくは知りません」


「白鳥は?」


「私も直接は。ただ、本来はかなり好戦的な人物であり、時には敵味方の区別なく戦いを仕掛けていたようですね」


「その大和が今回のような専守防衛を基軸にした戦いに徹している。何故だ?手の内を見せていない敵は苦戦が免れぬ…。倒したと思ったら第2形体とか、現実ではシャレにならん」


「恐らく霞が鍵を握っている。彼女が大和についてから今のスタイルに変わっているので」


大和に何があったのか霞との関係は?

なんにせよ、倒さねばならぬ相手か…。


「基本的には私が相手をするで良いのかな?」


「それが良いでしょう。修行ですな。門司の若者との戦いを思い出すが良いかと」


門司の若者…、あの時か。

あの時のあの動き…勘の良さ?

そうだな、勘の良さが極限に高まって身体を動かしていたような。


そう言えば、相島での修業(こっちは修行ではない)の時、1度だけ経験したような…。


あの万能感があれば…、でも可能なのか?


必要なのは雑念を棄て集中すること。

集中することすら意識せずに集中すること。


「徐如よ、助言感謝する」


晴れやかな顔で言う志韋矢をみて、徐如は満足げに頷いた。


※戦いにおけるニュータイプ能力の発動は所謂ゾーンに入ったということか。


「久恵州!」


久恵州が志韋矢の近くまで来る。


「はっ!」


「悠希様の言う砦の細工は掴めたか?」


「はい、やや右翼より、旧第2組の敵左翼に隣接する壁に細工が施してあります。ものの数分で破壊可能でしょう」


「なるほどな。奈々衣、元帥麾下の闇淤加美、闇御津羽の隊はどうなっている?」


「先程到着しました。現在引き継ぎ中で、間もなく独立機動隊出陣可能となります」


「よし、悠希様に伝令。いつでも行けると」


「はっ!」


程なくして、本陣より太鼓の合図が聞こえてくる。


よし、殺るか!!


糟屋内司令室に、大和と霞がいた。


「大和様、申し訳ありません。私が不甲斐ないばかりに」


「良い。霞の責任ではないさ、奴国が強かった。それだけだ」


「しかし、最初から本来得意な攻撃を前面に出した戦い方であれば…」


「たらればは言っても始まらぬ。どのみち攻撃特化のままでは先は無かったのだ、奴等に対抗するためにはな」


「大和様ならば対抗出来たはず、父が…」


「霞!」


霞の言葉を大和が遮る。


「さあ、死出の旅路への土産話に、奴国の勇者の力を試そうではないか!」


「お供させて頂きます。願わくば大和様が全力を出すことが出来ますように」



「行け~っ!一気に壁を破るのだ!!」


乃愛が遊撃隊の兵士に発破をかける。


「特別警備隊も遊撃隊に続け!」


一方の沙羅は少し元気がない。


まあ、元気はなくとも今回の戦いは奴国が圧倒的有利、大和が出てくるまでは。


「壁にヒビが入ったぞ!後一息だ!」


兵の誰かが叫び、沙羅は崩壊の現場に立ち会うべく歩を歩ませる。


ドド~ンッ!


壁の一部が崩れ去る。

そこに目掛けて、奴国軍が突入したその瞬間…


バキバキッ…ドン!

バァ~ン…ドン!


突入した兵が何かに弾かれるように吹っ飛ばされて戻される。


「なっ、何事か?」


「呆けるな沙羅!先程から注意力が散漫だぞ!あんなことが起こるのは…」


間もなくして粉塵も落ち着き、破壊された壁が露になる。


そこにいたのは巨体マッチョな男だった!


「どきやがれ!…ハッ!」


ドンッ!


兵が斬りかかるが、呆気なく跳ね返される。


沙羅は見た!

大和は殴ったのだ!ただ殴ったのだ!


飛ばされた兵は顔があり得ない方向を向き、死んでいた。


「沙羅!お前は退け!あれは敵将だ、奴が大和だ。今の呆けたお前ならばすぐに死ぬ!」


乃愛が沙羅に退くように告げる。


「何を!ナメるな!!」


カチンと来たことにより、本来の姿を取り戻した沙羅は太刀を抜き、一気に大和に斬りかかる。


「イヤーッ!」


大和は軽く身体を捌くと沙羅の腹を殴り付ける。


「ウグッ…」


沙羅はふらつきながら1歩、2歩と後退りする。


「沙羅!」


乃愛が声をかけるが大和は追撃の一撃を繰り出す。


「沙羅~ッ!」


ガンッ!


シュッ…


大和の拳が沙羅の頬を掠めて抜ける!


「お待たせ致したようで、後はお任せを。乃愛少将、どうやら突入の必要は無くなったようです。全軍に待機命令を!そして沙羅少将を頼みます」


志韋矢が大和の拳を殴り軌道をずらした。

大和を見据えつつ、乃愛に語りかけた。


「了解だ!全軍に告ぐ、穴を中心に一定の距離を保ち、その場で待機!」


乃愛は全軍に告げると沙羅を抱え…


「後は頼む!」


後方に下がっていった。


「さて、私は志韋矢と申します。大和殿とお見受けする。この糟屋の攻防は私と貴方の戦いで締めくくりとさせて頂きたい。返答はいかに?」


「ほぅ、貴君が志韋矢とやらか。長門の軍を叩き、陸奥をも退かせた勇者よ。よかろう、我に異存はない。むしろ心遣い感謝する。礼に、勝っても負けてもこの糟屋をくれてやろう。私の最後の戦いを盛り上げてくれよ?」


「…着いて来てください」


志韋矢は振り返り歩き出す。

大和が後に続く。


暫くして止まると、大和の背後に控える女性に声をかける。


「霞殿とお見受けする。最後の戦いらしく観客も多い方が賑やかでよろしかろう。そちらの兵もお呼びになると良い」


「はっはっはっ、それは良い。派手にいこうではないか。霞よ、観客を呼ぶが良い」


「はっ、直ちに。少々お待ちください」



やがて、両軍の兵が見守るように戦場を囲み、簡易的な闘技場のようになった。


志韋矢は太刀を抜き中段に構える。


それに対し、大和は脇に差した太刀を抜かず腕を組んでいる。


「いざ!」


「来い!」


志韋矢は大和が太刀を抜いていないのをみて自分も納刀する。


そして、太刀を構えるように両拳を中段に構える。


脇を締め、肘を曲げ、右拳を鼻先20cmに、左拳は丹田に据える。


それを見た大和は腕をほどき、両脇に下げ、拳をやや握り、身体はやや前傾姿勢で志韋矢を見据える。


志韋矢が間合いを詰めていく。


両者の間は約9歩の間合い。


さらに詰める。8歩。


さらにさらにさらに。7、6、5。


緊張感が辺りを覆う。

両陣営合わせて1,000を超える兵士達が緊張のあまり口も聞けない。


4、3…。


大和が無拍子で右拳を下から奮う。


志韋矢は半歩後退し、右拳で大和の腕を往なす。


さらに大和は振り上げた拳を裏拳で返す。


これも志韋矢は若干右に体を捌き、右拳で往なす。まるで拳を太刀に見立てているかのような動きだ。


「ほぅ…」


大和は拳を拳闘スタイルに構える。

左拳が前のオーソドックスな構えだ。


そして、高速で左拳を打ち込む。

志韋矢は捌く。


打ち込む打ち込む打ち込む。

捌く捌く捌く。


打ち込む打ち込む打ち込む。

捌く捌く捌く。


トントントン…

大和は親指でひとつ鼻を払い、志韋矢を中心に左回りにステップを踏む。


そして、高速で左拳を打ち込む。

志韋矢は捌く。


打ち込む打ち込む打ち込む。

捌く捌く捌く。


そこに、右!

捌く!


ここから大和の攻撃はさらに勢いを増す。

左右の拳を上下に打ち分け志韋矢を幻惑する。


志韋矢は動じず見事な足捌きを見せ全て躱していく。


一瞬の隙をついて志韋矢が踏み込みと同時に右拳を突き出す。まさに面打ちか突き打ちか。


拳は大和の鼻先に僅かに触れる。


「まだまだですな。あそこは胸元を狙わねば今のようになりますよ」


「まあまあ、徐如様。反撃を喰らわなかっただけ良しとしませんと」


徐如と白鳥の呑気な会話が交わされる。


「だ、そうだよ?志韋矢殿」


「まだまだ子供扱いか。まったく」


大和は楽しげに志韋矢に話しかけ志韋矢もそれに答える。


「さて、続きと行きましょう」


志韋矢は気合いを入れ直す。


大和はまたステップを踏みながら志韋矢の周りを回る。


左、左、左右、左、右腹、左、右…


躱す躱す躱躱す躱す躱す躱す躱す…


左、キンッ!


大和は左拳を繰り出した後、右手で抜刀、そのまま右へ薙ぐ。

志韋矢は左拳を体捌きのみで躱した後、太刀を真ん中まで抜刀し、大和の斬り込みを防ぐ。


互いに間合いを計り、太刀を中段に構える。

ちょうど剣先が触れない程度の間である。


志韋矢は左足にプレッシャーを与えるように重心をずらしつつ、やや前傾姿勢となる。


大和は完全な自然体で構える。


志韋矢がその場で踏み込みながら、大和の剣先を払い、半歩前に詰める。

大和は半歩下がりながら、すぐさま正中線を取り直す。


今度は大和が志韋矢の手元を狙いながら半歩前に詰める。

志韋矢は鎬で捌きながら半歩下がる。


志韋矢は下がった反動で一気に前に詰める。

大和はそれを受け、右足を大きく引き上段に構える。

さらに詰める志韋矢、すると大和は左を引き太刀を中段まで降り下ろす。


キンッ!


志韋矢の太刀を大和の太刀が捉え、志韋矢の太刀が中心を外れる。


それを見た大和は突きを繰り出す。


志韋矢は咄嗟に首を捻り、ギリギリのところで躱す。


シュバッ!


僅かに首元を大和の太刀が捉えており、志韋矢の首から血飛沫が舞う。


それを見た大和は八相の構えに変化、袈裟斬りに斬り込む。志韋矢も反応し体を捌き躱す。


大和は止まらない。

右から左から繰り返し切り返す。

日々の鍛練に裏付けされた綺麗で切れのある切り返し。

それをこれも鍛練に裏付けされた足捌き・体捌きで躱していく。


兵達と共に観戦していた乃愛と沙羅。


「乃愛よ、私は恥ずかしい。醜い嫉妬心により心が腐っていたようだ。なんと素晴らしい立ち合いであることか。ふたりの並々ならぬ鍛錬の成果か。昨日の尾羽張元帥と武蔵の立ち合いをも超えるふたりの技量目指す場所はあそこにある」


「うん、確かに自分に誇りを持つことは大切だよ。でもそれは行き過ぎるとマイナスになる。誇りを持つ、誇りを捨てる。状況に応じて使い分けないとね」


「ああ、お互い頑張ろうな」


「うん」


一見互角に見えるこの攻防。

しかし、決定的な差が生じている。


それは…。


シュッ…ドスッ!


大和の切り返しを躱しつつ太刀を突き出す。

突き出された太刀は大和の脇腹を貫く。


「グッ…」


大和はたたらを踏んで後退する。

志韋矢はすかさず追撃の一撃を繰り出す。


カッ!


「勝負あり!」


なんと志韋矢の太刀を止めたのは白鳥だった。


ググッ…グググッ…


志韋矢は白鳥の太刀を更に押し込む。


パァーン!!


「ウッ…。じょ、徐如?」


徐如が志韋矢の頬を払う。


「大和殿。私は徐如と申すもの。勝負に横やりを入れたこと謝罪致します。この勝負引き分けと判断し介入致した次第です」


「…引き分けとは? 私は止めをさされる寸前であり、どう見ても志韋矢殿に軍配が上がるところだったが?」


「ただの殺し合いならばその通りかも知れませんな。しかし、この勝負をただの殺し合いにするにはあまりにも惜しい。周りを見てごらんなさい。どの顔もふたりの戦いに魅入られているでは御座らぬか。…皆のもの、そうであろう?」


『オオオオオオッッッッ~!!!』


徐如の問い掛けに伊都国、奴国を問わず歓声を上げる。


「…そうか。しかし、私は、止めをさされる寸前でそこのものに救われた。止めて頂いた理由はわかったが、引き分けというのはどういうことなのだ?」


そこで徐如は志韋矢の方を向き、志韋矢に問い掛ける。


「どの時点から記憶がない?」


「!?」


大和は目を見開く。


「大和殿の突きを首に受けて以降」


「なっ、なんと。その状態であの動きを?」


志韋矢が答え、大和が愕然とした表情で口にする。


「恐らく極限の集中の中で、大和殿の一撃が契機となり、ひとつ上の領域と入ったのであろう。新たな領域への成長は見事。しかし、歯止めがきいていない状態となり、最後は半ば暴走状態であった。そのため、この勝負は引き分けとして止めたのだ」


そうか。私はコントロール仕切れなかったのか。あのまま大和を斬っていたら私は後悔の念に縛られていただろう。

ふぅ…、私もまだまだだな。


「徐如、白鳥、感謝する」


「…この勝負、やはり私の負けだ。引き分けとしては私の気が治まらぬ。糟屋の地は先程の言葉通りくれてやる。その上で私に出来ることはないか? この期に及んで出来ることは少ないが、力になろうではないか」


「大和様…」


「霞か。すまないな、死に損ねた。その上でこの者の先を見てみたくなった」


「では、大和殿と霞殿のお力を頂きたい。また、霞殿の手足も含めて」


いつの間にか近くに来ていた奈々衣が要望を口にする。


「よかろう。ただし、私はしばらく使えぬぞ?」


「承知しています。しばらくは霞殿とご養生を」


「霞、良いか?」


「私はどこまでもお供します」


大和は両の足に力を込めて立ち上がる。

そして大音声で告げる。


「皆のもの我々の負けだ!このまま奴国に従うもよし、他の地に逃げるも良し。各人の判断に任せる!今まで大義であった!」


こうして、糟屋の地は奴国のものとなった。


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