表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Trillion of Labyrinth 一生懸命癒やします!  作者: 魚介貌
第2話【】
62/69

三匹娘の初クエスト①

 21世紀を半分も過ぎた現在。仮想環境を楽しむ人種に性差は無くなっている。だがゲームの方向性の違いであろう、『Trillion of Labyrinth』においては圧倒的に男性の数が多かったりする。


 それ故に、新人として表れたモエ達を軽くストーキング、または悪質な意図で近寄って来る男性プレイヤーは多かった。が、現状、それ等の有象無象は尽く物理的に散る羽目となっていた。

 ジョージが施した防衛処置が遺憾なく発揮されたのである。


 通りすがりにミュラの尻を撫でようとした人間型(プレナ)は腕毎雷系攻撃で吹き飛び、再び盗聴系のアイテムを仕掛けようとした犬型獣人(ガルンド)は、そのアイテム毎ストレージ内のアイテム全てを全損状態まで破壊される。

 それらの対抗処置がモエ達自身には全く気づかない状況で行われているので、彼女等が歩いた後に残る無惨に倒れる野郎共という惨状を知らないまま、モエ達はジョージに言われた目的地へと到着する。


「此処が冒険的ギルドの中かあ」


 なんの事はない。モエ達3人が合流した場所である。だがその時の目的地は隣のカフェだった。なので隣接する建物とはいえ、冒険的ギルドがどの様な場所なのか。は、初めて知るモエなのである。


 そしてノエドの街の冒険的ギルドは、正直、余りギルドと呼ぶには苦しい外見をしていた。一応は木造三階建てで中々に巨大で立派な造りだ。一階の半分はクエスト対応のカウンターと、それに隣接する形の酒場のバーが併設され、残り半分が待合所兼食事の出来るスペースとなっている。二階は宿泊施設でプレイヤーなら誰でも宿泊可能だ。三階はギルド構成員の生活空間として解放はされていないが、ギルドから特定のプレイヤーに指名依頼される高難易度クエストの受注場所として、一部のプレイヤーには知られる場所である。


 だが、そのどれもギルドの施設としては真っ当な物であり、特に外観の違和感に直結する問題では無い。そしてその違和感には、モエ達はハッキリとした答えを既に持っていた。


「えーとえと、海の……家?」


 そう、この冒険的ギルドの建物には、殆ど、壁という物が存在しない。柱と床と天井と屋根。それだけの建物だ。目隠しに簾や葦簀が吊されてはいるが、凝視すれは向こう側が見える事確実なオープン感である。


「あら~、モロにビーチパラソルも~、有るのねぇ」


 酒場の空間では“かき氷”と“焼きそば”と“生ビール”が大量に並び、たまに如何にも不味そうなラーメンを見かける。さすがに客となるプレイヤーに水着は居ないが、ギルド構成員の大半は本気で海の家的なユニフォームで統一していたりした。


「再現率ハンパねー」


 何時の間にかミュラはかき氷を購入し、好みのシロップで彩っていた。赤いイチゴと青いブルーハワイ。二つが混ざってムラのある斑となり、色が安着に混ざって紫とならない処までの高再現率であった。

 食べれば舌の染まり具合いまでも再現されるのだが、残念ながらミュラ自身には知る事が出来ない。


「ほらあ、オジサンの言いつけどおり、クエスト受けに行くよー」


「ああ、モエー。待って待ってー」


モエ達の自己防衛機能と新装備の調達が終わった後、ジョージが3人に課したノルマである。

 『クエストでポイントを稼ぎ、自分達の拠点を得る事』

 具体的に言えば、個人用の休息アイテムである『野営地』の収得である。名称は野営地となっているが、実態は個人占有のプライベートエリアとなる。所有者である当人と、入室許可を得た数人しか入れないので防犯と自衛を得たい時には必須のアイテムと言える。


 野営地を得るには特定のクエストをクリアする必要が有るのだが、そのクエストを発生させるには前段階となる別クエストを幾つか消化しないとならない。加えて、プレイヤーとしてのゲーム内名声を高める必要もある。その名声を高める方法もクエストを数多くクリアして名声ポイントを稼ぐ必要がある。

 兎にも角にも、新人プレイヤーは大量のクエストをクリアし続けなければならない造りとなっているのだ。


「ん~ではぁ、貰ったリスト~の、クエストを選ぶ~わねぇ」


 ノンビリ口調でテキパキと進めるマリアである。縁の下の何とやら、では無いが、方向性が決まっていれば率先して動くのはマリアの役目と言っていい。この3人が連む(つるむ)ようになってから、何か始める切っ掛けは萌香(モエ)。そのサポートはマリアンヌ(マリア)。先陣とトラブル対処は未来(ミュラ)の役割となっている。故に現状の主役はマリアが勤め、残る2人は金魚のフン同然の状態なのであった。


 クエストに応対する受付は全員女性NPCであり、全員揃ってタンキニタイプのセパレート水着をユニフォームにしている。色はまちまちなのでマリアが好みの色である黒の受付を選ぶ。


(『そんなに黒好きなら自キャラも黒くすれば良かったのに……』)


 図らずもモエとミュラの心が一つになった瞬間である。が、何故かマリアはその場でクルリと回れ右。2人に対して意味深に微笑む。


「うふふ~。ワタクシ、黒で~彩るのが好きなのねぇ。だからぁ黒~が映えるぅこの~真っ白な身体を選んだ~のよぅ」


 そして再び半回転。今度こそ受付NPCと話始めたマリアである。

 一方、ナチュラルに思考を読まれた2人が反射的に抱き合って恐怖していたのだが、実は偶に有る事なので程なく立ち直る。


 それに合わせるかのように、『あら?』と受付担当者の変わった反応が返ってきたので、今度はマリアが当惑する。


『貴女方は“東日本魔王商工会”の所属ですね?』


 正確には違うのだが、否定できるものでも無い。マリアが2人を振り返ってから取り敢えず肯く。すると受付担当者が『レベル-X、シークレットクエストが発行されています』と、新人プレイヤーには意味不明の連絡をしてきた。

 “シークレットクエスト”とは、特定の条件を満たさないプレイヤーには閲覧出来ないクエストの事を言う。その条件は冒険者としてのレベルであったり特定のクエストを消化済みであったり等である。なのでクエストの内容は一般の物とそう違わない。だが最も実質的に違う部分としては、プレイヤーが特定のプレイヤーに対して発注するクエストが多い、というものだ。理由の殆どは、余り公にしたくないから信用のおける者を選びたい、等だ。少々生臭い言葉にすれば、秘密を独占したい。という意味にもなる。


『このクエストは同フォート関係者のみに発行されるクエストでして、新人プレイヤーには破格の経験値と名声ポイントを得られる物となります』


 そう言われて内容を確認すれば、クエスト名は『稀少素材収集。ただ立っているだけのお仕事です☆』となっている。

 そこはかとなく、怪しい雰囲気のタイトルである。更に必須条件として『女性プレイヤー限定』やら『前衛後衛拘り無し』やら、ヤバい方向で無節操な内容が書かれていた。


「無し~かしらぁ……」


「これはこれは、基本報酬100万Gプラス獲得素材の15%。ポイントも一気に500入手とか、逆に嘘っぽいね」


「楽して儲かるなら好いと思うけどなー? ホラ、何か支給品まで有るし」


 文末に太字で『仕事着支給!ノータッチ厳守!』と注釈が打たれていた。何やら装備が支給されるらしいが、続く言葉で全て台無しになっている。ミュラ以外にはこのクエストの危険性が解り過ぎる程解ってしまった。


「「パス決定」」


 新人プレイヤー以前に女子として危険な物だと判断できる。というよりも、そう判断できない方がオカシイ内容である。

 故に決定も速やかだ。モエとマリアが決断した以上、ミュラも強く言う気も無い。3人は改めて他のクエストを選ぼうとした。が、そこに唐突な横槍が入る事となる。


「「「チョォット、待ったあああ!」」」


 異口同音、異常に野太い男の声がモエ達に襲いかかる。まるで全身を揺さぶられるような大声に『ひっ!』と驚き竦む3人だ。


 そして別の意味で驚いたのは受付担当者のNPCである。

 モエ達は知らないが、彼女等が受付でクエストを受けようとした時点から3人は他のプレイヤーが干渉出来ないように別のエリアへと移動していたのだ。それは混雑緩和用に組まれたクエスト受注システムの基本システムであり、一度生成されたエリアには当人達が出る以外の行動は不可能に設定されている……筈なのだ。

 であるのに、唐突に別のプレイヤーが乱入してきたなどという事態は、『Trillion of Labyrinth』始まって以来初の異常事態として記録されたのである。


 乱入者は男性プレイヤーが3人。身長に個人差は有るものの、3人とも実に似たようなボディビルダー体型である。1人は大柄で白髪混じりの金髪をオールバックにした白人タイプのプレナ。もう1人も白人だが、最初のに比べればやや細身で若い雰囲気である。金髪は角刈りにされて如何にも海兵といった見た目だ。最後の1人は赤銅色の肌にチリチリの黒髪、目も鼻も真ん丸と他の2人に比べれば柔らかい雰囲気だが、虎系獣人(ティンガー)なので溢れる獰猛性では一番危険に感じる印象があった。


「「「このクエスト、是非にも受けてくれい!!」」」


 首輪の防御がある事も忘れ、今にも首に噛みつかれて食われそう、という原始の恐怖に怯えるモエ達を余所に。巨大な岩のような筋肉の男達は、エリア全体を崩壊させるが如くの銅鑼声を上げて突然の土下座である。


 正に3つの大岩と化した男達を前に、正気を取り戻した3人が対する事になるのは今暫くは先となる。そして人知れず、異常事態発生を受けてNPCから人間スタッフへと受付担当者の中身変わったものの、初見でそんな妙な状況を確認した為、スタッフもまた、暫くは頭が真っ白となる目に遭う事となったのであった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ