三匹娘の初クエスト②
えー……。変質者が出ますw
クエスト受注の特殊エリアに侵入するという異常行動をした男性プレイヤー3人。受付担当者の中の人、となったスタッフが検索をかけて個人名はあっさりと判明した。
白人大男の名は『アノルドー』、普通サイズの方は『ジャンク』、浅黒虎獣人は『スパロン』。全員、フォート東日本魔王商工会に所属する構成員であった。
だが直接に所属するわけでは無い。モエ達と同様に下位フォートとして従属している〈グレート☆アイドラー(great☆idler)〉。通称〈G☆I〉と呼ばれている採集系フォートである。過去の記録によると、外見は兎も角、能力的には中々優秀な者達と分かる。豊富な情報源を元に様々な稀少素材を採集し、高レベル職人へと供給する。特に得意不得意とするジャンルも無く、時にはプレイヤーからの依頼によって高難易度の素材収集も請け負うという実力集団だ。
例え、全員が革のテンガロンハットにピッチピチの白のタンクトップ、更に虹色ラメ入りの迷彩の膝丈ハーフパンツに“足袋”という変態スタイルであっても。例え、自他共に認める困った性癖の持ち主揃いであっても、その実績を霞ませるには至っていないのである。
「「「その依頼書に嘘偽りの一切無し!我等の猛る胸毛の先すら、貴女方に触れる事は無いと保証しよう!!」」」
土下座というよりも何処か知らないボディビルドのポージング?と問いたい恰好から自然に立ち上がる形でアブドミナる3人の唱和が轟く。
「「「何よりっ、貴女方は我等が求む至高の存在!」」」
ポージングがサイドトライセップスに変わりつつ更に轟く。
「「「尊ぶ事は有ろうとも、玩ぶなどの下衆の極みは言語道断!」」」
ポーズがフロントラットスプレッドに移りつつ轟く轟く。
「「「然りとて、我等の容貌に恐れ戦く婦女子は数多有るのも事実!故に我等っ、ここの宣言いたそう!」」」
サイドチェストのまま痛ましい表情で嘆いた3人が、そのポーズのまま右腕を上げ天を指差す。
「「「我等〈G☆I〉が唯一求めるは幼女!まだ歩むも怪しい幼気な幼女っ!我が腕で無垢な笑みを浮かべる幼ーっ女!のみ!! 我等高らかに歌おう! 幼っ女ぉ! 幼っ女ぉ! 幼っ女! YOー!JOEー!! っごぶらあ!!!」」」
何故か拳を振り上げて大唱和し始めた変態確定の3人に、ミュラの蹴撃士の必殺技スキル〈昇竜蹴撃〉3連発がヒットする。本来、レベル差が有る上に非戦闘エリアの街中なのでダメージが発生する事は無い。事実ダメージ自体は発生してないが、丁度受付の“中の人”が危険人物として精査中だったので保護対象から外されていたのが幸いした。よって攻撃モーションだけは実行可能となり、〈G☆I〉の面々は蹴り上げられて宙を舞ったわけである。
トラブルへの実力行使はミュラ担当。その役割は、今回も遺憾なく発揮されたのであった。
◆ ◆ ◆
「──はい。……は~い。分かりました~わ。では~おじ様。失礼しま~す」
ミュラに蹴り飛ばされた筋肉ダルマが3つ。ギルドカウンター前にて今度は別の意味で土下座中である。
後述となるが、クエストの詳細を〈G☆I〉から説明されたモエ達は判断に困り、保護者であるジョージへと連絡。信用面での確認を取っていたのである。ゲーム内ではハンドレスの携帯通話同様で使えるチャット機能を使用して、マリアがクエストの実情を、そして何より〈G☆I〉の安全度を聞き出していた。
「問題無し~、だそ~ですわ~」
「うわ信じらんねー」
「だよねだよね」
マリアの言葉に当然の反応を返すミュラとモエだった。
「何~でも。『その3人は現実でも愛娘にベタ惚れの親馬鹿フォートでな。性欲じゃ無くて父性愛が暴走してる馬鹿だから心配いらん。3~4歳頃の娘は男親にとっちゃ劇薬同然だからな、外見が変態でウザさ全開だが大目に見てやれ』だ~そうですわぁ」
その説明に何となく納得してしまうモエ達である。自分も娘であり、何だかんだと父親には甘やかされた経験が山と有る。そもそも『Trillion of Labyrinth』のソフト代からして親持ちである。最高グレードで用意されたパッケージ代がどれだけ高額かは検索した時に知っていたので記憶に新しい。
もう一つの案件。クエスト内容に関しては、確かに説明どおりで特に問題は無かった。だが受けるに当たってジョージからはやや意味不明な確認をされた上に、マリア的には余り正直に言えるものでも無いので話すのは濁した。特に自分達以外の他人が居る場所では、迂闊にモエ達に聞くことは出来ない。というか自分達だけの場でも聞くのは悩む内容であった。
「ま~あ、さすがに~無いと思いますから~、確認は~いいですわねぇ」
「何が何が?」
「いえいえ~、何でも~」
注意する事は有っても一応はジョージからの免罪符が出たからか、以降マリアにしては気軽な感じでクエストを受ける方向で話し始める。やはり、一回で得られる報酬が大きいのは魅力である。懸念材料は身内クエストでの秘密性の高さから来る口止め料と納得し、喜色満面となった〈G☆I〉と細かい内容の確認となった……、いや、なりかけた。
「──その前に、事情聴取、いいっすカぁ?」
何時の間にか、頭部に『GM』とイニシャルの付いた赤色ベレー帽を装備したクエスト受付者が、乗馬鞭片手に待機していた。実の所、ずっと無視する形で放置されてたのだが、スタッフもこれ幸いと捕縛準備を強化していたのである。モエ達も気づけば、自分達の周囲に直径10mの円周状で金網のフェンスが張られているのを確認できた。壁や調度品の区別無く完全に重なり合うよう張られたフェンスの仕様が、普段のゲームに反映するシステムで無い事は一目瞭然だ。しかもこのフェンス、所々赤黒い染みや錆が浮いてたり、全面触るのも危険な有刺鉄線な見て呉れで凶悪さ満載である。
「「「「「「うわぁおっ」」」」」」
さて、本来乱入不可能のエリアへと登場した〈G☆I〉の絡繰りはこうである。
そもそもこのクエストは身内受注の制限を設けて発注した物なので、冒険者ギルドに登録したとはいえ常時クエスト閲覧に載せられる情報では無い。なので、閲覧可能のチェックが入った時点で発注者へデータの検索が掛かるようになっている。
本来、この工程はプレイヤーには感知出来ないレベルで行われるのだが、フォート〈東日本魔王商工会〉では感知出来るように独自のチェック機構を挟んでいるのである。当然、サービス側では想定外の行為なのだが、別に違法というわけでは無い。これもプレイヤーが編み出した、スキルの複合利用による効果に過ぎないからだ。
更に〈G☆I〉は、状況を感知した時点で同系列フォート同士で可能な“連合”処置を組むよう自動登録していた。
〈連合〉とは本来別々のパーティー同士が一時的に同じパーティーになる為のサポート機能である。何かのクエスト等で一つのパーティーでは進行不可能となった場合、知り合いや野良を一時的に組み込み攻略出来るようにした救済措置の一つだ。数の暴力を振るえる反面、頭割りになる人数で得られる利益は減少する等、メリットとデメリットは存在する。また、最大人数は63名と限界も有る為、絶対の力とも言えない機能である。
この機能はパーティーの区切りが基本だが数度のアップグレードの後にフォート同士でも使えるようになった。そしてフォート仕様の場合、上位のフォートから下位のフォートには組み込み許可の確認無く、強制的に組み込む事が出来る。〈G☆I〉は〈テトラペッツ〉よりも上位であったので、自動登録も問題無く出来てしまったわけだ。
よく注意していればモエの視界の脇に連合登録済み確認のログが出たのであるが、モエがそれに気づく事は無かったのである。
そして、擬似的にでも“同じパーティー、またはフォート扱い”となれば、エリアで裂かれる制限は無い。同じ集まりとなれば、例えエリア移動で離されても途中参加は可能となるのだ。これもサービス側が提供する本来の仕様である。
他にも、移動に現実同様の制限を設けているのが『Trillion of Labyrinth』の売りなのだが、コストを犠牲に瞬間転移を可能とするアイテムは稀少であるが存在する。〈G☆I〉はワザワザ直談判をする為に、1つ時価約50万Gする転移アイテムを惜しげもなく使い跳んで来たというわけである。
「……ゲーム廃人。マジ凄いんスねぇ……」
「マジの大人って、大人気ねー……」
絡繰りを知ったスタッフの第一声は、実に、本気で、呆れまくった感情に満ちていた。実はその転移アイテム、個人用なので3人分が消費されている。総額は150万となるわけで、それだけで依頼料を超える額なのだ。ゲーム内通貨とはいえ、会うだけにそこまで使う感性が信じられないというのが本心となる。
新人であるモエ達には金額的な感性は分からない。が、大金なのだろうとはスタッフの反応で判った。
それは兎も角、本気で馬鹿な大人の所業は置いておき、知り合いの知り合いで少なくとも一児の親。漠然と警戒心も消え去っており、本気で困った心象も見えた現状、寧ろ無碍にも出来ない心境となっていた。なのでクエストは受ける気分が完了していた。
「じゃあじゃあ、受けるでいいね」
「「「おおっ!有りがたい!」」」
「じゃ~あ、何処まで行くか~、教えてくだ~さいなぁ」
「「「うむ、目的地は『ルツボ』だ。現状、ほんの数人しか入れない超レアとなるエリアである!」」」
問うてはみたがモエ達にエリアの意味など解らない。せいぜい、『限定扱いのエリアなんだろう』な程度である。だからかスタッフの表情が劇的に変化したのにも気づいていない。
もしここでスタッフが気を利かせたならば、モエ達も思い直す機会も有ったのであるが、残念ながらスタッフは、私情を交えず沈黙を貫いた。そうして淡々と、本来NPCがやるべき仕事を代行し、幼気な子供にはキツいだろうな初仕事へと送り出す。
せめてもと、暗に“気をつけろ”の意味も込めて十字を切っていたのだが、残念ながら日本人の大半には日常でそんなジェスチャーを必要とする機会も無い。意気揚々と出発するモエ達は欠片も気づく事も無く、スタッフが内心で唱えるドナドナ付きで見送られたのであった。
何でもこの変態唱和、色々バージョンがあって時代と世代の違いによる派閥まで有るんだとか?
業の深い世界デスヨネー。




