三人娘、ゲームを始める
三堀萌香。女、中学三年、受験生ではあるが、エスカレーター式の内部受験なので日々勉強尽くしの生活というわけでも無い。
それでも全く頑張らないというのも世間体が悪いので、仲良しグループ内で申し合わせ、VR環境での勉強会を開く事にしていた。
単にVR環境と言っても、現実よりデータ管理の面で便利、という程度ではあまり利用する意味は無い。なので、その環境を最も活用できる“場所”を使う事とした。
現実の1時間を体感で1日へと増加できる場所。VRゲームの舞台である仮想世界という場所を。
この分かりやすい時差を採用するゲームは多い。その中で萌香とその友人等が選んだゲームは『Trillion of Labyrinth』という物だ。
典型的な剣と魔法のファンタジー物であり、ゲームのメインコンテンツは地下深くへ潜るダンジョン探索となる。しかし広大な自然を再現したオープンフィールドや、個性豊かな都市国家スタイルの拠点をも有しており、正に仮想の世界を構成している事で有名なゲームなのである。
加えてVR用アバターを利用した種族とジョブの設定はバリエーションも多く、かなり無茶な理想も実現できるかもしれないと、多くのゲーム評論家からオススメされる物でもある。
故に、この類のゲームでは初心者揃いの少女達にとっては、一番良く目立つ物として写ったのであった。
「じゃあ私が担当するのは回復ジョブで……、〈神術師〉が好いかな。なんかシスターっぽいし」
放課後の教室にて、下校までの僅かな時間を使って大まかな役割を決める萌香達である。何故ならば、各自自宅からチャットで済まそうとすれば、アっという間に話題が二転三転して収拾のつかない雑談で終わってしまうからだ。
それはもう、既にゲームを始めようと決めてから2日を無駄にしているのだから、間違えようの無い事実なのである。
自前のタブレット端末を操作し、萌香が公式サイトで紹介されるジョブの基本デザインを参考に神術師を選ぶ。
だが実のところ、公式紹介のデザインは10年近く前に描かれたもので、現在主流のデザインとはかけ離れた物と化している。しかし萌香がそれに気づく事も無く、至極あっさりと決められてしまった。
「えーと、ウチはゼンエイ?担当やね。ちゅーかゼンエイって何なん?」
萌香の友人その1。エセ関西弁を喋る少女『睦月未来』が、イマイチ自分のする事を理解できないで質問する。
「前衛って言うのはね~、とにかく皆の前でドーンと踏ん張って~、とにかく相手をドカーンって殴る蹴るする役~だよ~」
「へー、なるほどなー。やぱしマリーは物知りだなー」
「え~、こんなの普通だよ~。ミライが馬鹿なだけだよ~」
「そっかー。ウチがバカなだけかー! アハハハハハ!」
「2人とも通常運転ダヨネ」
萌香の友人その2。ノンビリ口調で毒舌全開の少女『真壁マリアンヌ』。通称マリーがド直球で友人を貶める。が、マリー本人にその意識は無いし、言われた未来も同様である。
この3人の中では1人常識的な思考で要らぬ苦労を感じている萌香が、非常に哀れな会話内容であった。
「んーじゃ、ウチはコレな。〈蹴撃士〉。武器振り回すなんて知らないし、蹴りならオトンにし慣れてるし!」
「慣レテンダ……」
「じゃ~ワタクシは〈妖精使い〉で~。使役する妖精で攻撃と回復、両方できそうですし~」
実はマリーの趣味はVRゲームである。年齢的に本格的なMMOの経験は無いが、個人で遊べる類の物は幾つか遊んでいるので、この3人の中では講師役となっている。一緒に遊べるゲームとして『Trillion of Labyrinth』を選んできたのもマリーであった。
「えとえと、“ペットジョブ”のひとつ? 1人で複数人分の行動を取るために慣れが必要? なんか難しそうなジョブだね」
妖精使いの説明をチェックした萌香の感想だ。
「妖精自体は~AIで行動するし~、コマンドは音声入力だから~、そう難しくないのよ~」
仮想でペットを飼うゲームなどでは一般的に使われる手法である。わざと音声入力の効きを変える事で、簡単に懐き具合を演出できるのである。
最も、妖精の場合は最終的に思考と連動するまでの操作が可能となるために、厳密にはペットとは言えないのであるが。
「ワタクシよりも~、ホントはミライの方~が大変かも~よ? こ~、軽~くジャーンプしたら~、三階まで跳び上がったり~するし」
蹴撃士は蹴りを主体とする格闘ジョブである。現実でのカポエラや実戦空手を模している技が多いのだが、全ての技がゲーム的な派手な演出付きでもあるので、実際の技とは似つかない物となっている。
その感覚を体感で覚えなければならないので、実は使用難易度の高いジョブと言えるのである。
「あー大丈夫ダイジョーブ。家にトランポリンあって、昔から結構遊んでるし。三階くらいならよく跳んでるー!」
……が、未来にとっては日常の範疇らしい。
「後~モエカも~、事前に魔法~の効果とか覚えなきゃだからね~。ま~、ちゃんとチュートリアルすれば~慣れれるけど~」
「ふーん。普通のゲームとは違う感じ?」
萌香もマリー程では無いがVR環境でのゲーム経験はある。ただし、どれもオフラインと言っていい環境ではあるのだが。
そしてマリーとは普通にゲームの貸し借りをしているので、萌香の言うゲーム内容を容易に想像できるマリーからしっかりした注釈が語られる。
「戦闘~が、ターン制じゃ無いの~。モンスターがね~、こっちが技を選ぶ間も、普通~に攻撃してくるから~。だからタイミングよ~く避けたり~とか、殴られても~魔法使うまで耐えたり~が、いるのね~」
「へー」
いまいち良く分かっていない萌香である。
「そ~ね~。じゃあ具体的に~は、“ミライにクスグられながら~、俳句をちゃんと読んでみよ~”の感じぃ? て事で~、実践~」
唐突の襲撃である。マリーの言葉が終わろうかというタイミングで、いつの間にか萌香の背後に回っていた未来からの全身クスグリ攻撃がスタートする。
「うわっ、ヤメ!? キャハハハハハハッ!」
「うりゃりゃりゃりゃ!」
耳の後ろ、脇の下、脇腹、果てはスカートの中まで侵入した未来の十指が、縦横無尽に蠢いて萌香を翻弄する。自慢にならないどころか寧ろ自慢できる程に敏感体質の萌香である。事ある毎にオモチャにされるのも何時もの事なので、既に派手に騒いでも教室で気にする者すら居ない有り様だったりした。
「はい、続きを~読もう~。『ふるいけや~かわず~とびこむ~』ぅ?」
「みっ! みちゅっ、みつゅうううっのっ、うおっふぉっ、おひょおぉぉっ! らぁめぇぇぇ!!」
悩ましいシャウト混じりの発音で謎の言語を発した萌香である。同時に周囲の男子生徒の何人かは“グッジョブ”とマリーにエールを贈り、別の何人かは前屈みとなってシズシズと教室から立ち去る。
爪先をビクンビクンと痙攣させて、しばらくグッタリと放心した後、実行犯2人にポカポカと小動物的な反撃に出る萌香に癒される教室内。
実に、数日おきに繰り返される何時もの教室の風景であったりした。
結局、そろそろ下校時間も近いのでゲームの予習はお終い。後はキャラ作成と個人で済ますチュートリアルが終了してからという事となり、現実時間で今晩0時にゲーム内で合流するという話で切り上げる事となる。
が、当然のように帰宅途中も未だ見ぬゲーム世界の話題で盛り上がり、寄り道を繰り返して夕飯近くまでワイワイと騒ぐ事となるのであった。
2話の更新に被る形で1話のサブタイトルを変更していきます。
そして2話のタイトルは現状未定扱いです。




