そして、~彼女を籠女る新生活~
所々崩れてはいるが、マヤ式っぽい階段状のピラミッドは上るのに苦労はしなかった。頂上にある塔の基部は観音開きの大扉を開け放っており、中はただ上へと伸びる螺旋階段が続くだけと分かる。そして全員、特に騒ぐ事無く階段を上りきれば、最上階は円筒形で六畳ほどの小さな部屋であった。
「なるほど、まあ、ゴールっちゃあゴールっぽいか」
室内はある意味、予想外の様相となっていた。
「いち、にぃ、さん……、の6人。これもしかして“勇者”のパーティーかにゃあ?」
部屋の奥には如何にも城かエリアの心臓部といった感じの、赤く巨大な水晶の祭壇が置かれており、その手前に死骸が6体、力尽きるように倒れていたのだ。
死骸はどれも白骨化しているが、分かりやすいジョブ装備で飾られている事から、艶鬼王ドウテツを倒したものの、ほぼ相討ち状態で最後の仕上げは叶わなかった勇者一行。という想像をさせる状況だったのである。
「ご丁寧に勇者っぽい者が片手に持ってるのはドウテツの首でゴザろうな」
「しかももう片方の手の剣、祭壇の水晶に微妙に刺さってるよナア。これって、祭壇を壊せって事だよナア」
「……この人たち、蘇生魔法は使えないのです?」
ゲーム慣れして感性が摺れきった古参連中がデザイナーの意図を解読する中、マヤヤ一人が過去の偉人の亡骸への敬意を表す。これで恥いる感性があればまだ救いがあるのだろうが、残念ながら、他の面々は芯からゲームに適応した廃人である。
「いや多分な、そいつらの装備が俺達への報酬だと思うぞ」
イワオが指摘しながら如何にも盾役の重戦士らしい亡骸へ近づき、その身体に触れてみる。そしてイワオの宣言どおり、触れた死骸は光となって消え、重戦士のまとっていた装備がイワオのストレージへと格納された。
「“竜鱗の大盾”か。性能的に五年前なら最強装備だなあ……」
他の面々も自分が装備できそうな死骸に近づき、亡骸を消すと同時に装備を入手していく。
「勇者の遺品を得たのがカエル男とは、何とも浮かばれん末路でゴザル」
「うるせーヨ!」
勇者の定番は剣も魔法もというジョブなのだが、『唐揚げ定食』のメンバーで該当するのは“魔法剣士”のカッツェのみなのだ。
如何にも“聖剣”といったデザインの代物が、見た目“ゆるキャラ”風の存在に持たれるとは、今は亡きデザイナーも想像しなかったろうな結果である。
「“魔法使い”と“僧侶”枠は、デザインはともかく性能は魔法職全般用にゃーね」
「そうなの?」
マヤヤでは魔法職の微妙な違いが分からないので、ウスネがまとめてストレージに格納してから性能のチェックをする。その後僧侶系装備はマヤヤでも使えると判断、一式をマヤヤへ移譲した。
その他、攻撃役寄りの“戦士”装備はトキヤが貰い、“盗賊”装備は遊撃戦士のテンマルが得た。
「雷属性の両手持ちの大斧かあ、ちょっと使い道無さげかな」
「拙者マジにサービスへクレーマー化するでゴザル。何故、この『○蔵』そのものの盗賊は武器だけ“刀”では無いのでゴザルかあ!」
盗賊の恰好は黒の忍び装束に赤いマフラー、顔は鉢金で半分隠しているデザインだったりする。この姿はテンマルでなくてもツッコミを貰うに充分だろう。が、背に背負った得物は漆塗りの鞘に収まった忍者刀ではなく、剥き身の、背が櫛状になった片刃剣、いわゆる“ソードブレイカー”と称される物であった。
遠目には刀と見えるのが実に微妙な剣である。
「んじゃ、あの“如何にも”な祭壇ぶっ壊して終わらせるぞ。トキヤあ」
「ほいほい」
「全力でやったれ」
「押忍!」
一番の被害者に〆を任せ、トキヤの背後に控える全員。人間大の巨大水晶を壊すのなら手に入れた大斧が丁度いいと、手にしたままの斧を振りかぶって上段けら振り下ろすトキヤ。
水晶は呆気なく一撃で粉砕。同時に地震のような揺れが始まり、この場の全員が強制的に自分の視界を切り替えられた。
遥か天空から大地を見下ろす“神の視線”状態である。が、皆が突然大空へと転移したわけではない。いわゆる、イベント展開の強制ムービーを観せられる。というやつだ。
長く続く山脈の峰の一部が崩壊。小さな陥没から始まり、やがて山一つが丸々崩れていく。膨大な土煙が吹き上がり、風に散らされていけば、陥没の中から都市の威容が現れる。地震は続き、地中の都市はゆっくりとせり上がり、振動が治まれば山脈の中にできた小さな谷を埋めるように一つの城塞都市が誕生していた。
そして全員の視界に被る形でテロップが流れる。
『この日、世界に新たな国が蘇った……。
それはかつて『ルツボ』と呼ばれたドワーフの街であり、太古、オーガに攻め滅ぼされ消えた街として、伝説に残るだけの国だ。
その伝説は史実だったと今日、改められた。しかし、時代を超えて復活した国はドワーフの国としては復活しなかった。
国の再興を成した者は、ドワーフではなく、オーガだったのだから。
そしてこの国は、決して万人に開かれた国では無い。
武を好む鬼が統べる国である。
色を好む鬼が統べる国である。
何より、殺戮を好む、鬼の国なのである。
艶鬼王“?○※△?”が統べる禍国ルツボが、この世界に如何な乱を巻き起こすかは、今は未だ、誰にもわからない……』
~※艶鬼王の固有名称は現在非公開です。エリアの正式公開の場にて発表されるのをお待ちください~
長いような短いようなテロップが終われば、『唐揚げ定食』のメンバーは疎らに生える木以外は何もない山の中腹に立っていた。風に揺れる葉ずれの音と“ちちち”と鳴く鳥の囀り。その他には魔物はおろか野生動物の気配も無い閑散とした空間である。
「……ま、おそらく此処は、崩落してルツボができる土地なんどろうなあ……」
「あんなエンディングのような物を入れてて、終わりがコレ……かア」
「いや俺の名前が出ないだけで天国デスヨ。ホントだよ……」
「最後までグダグダでゴザルなあ……」
「あ、あそこに転送ゲートが、あるにゃ!」
「あー、ホント。私もう、すっかり歩いて帰るのかと思ってたのに」
各々がそうして感想を述べつつ、光る魔法陣に乗って城塞都市モタルサへと帰還した。何とも尻窄まりだったクエストの経緯が知りたいのが全員の思いだったので、そのまま冒険者の店へと向かう。だが受け付けの対応はそつけないものだった。
「えー、トキヤ様。そのクエスト当系列による正式な依頼ではありませんね。ですので当店では対応を致しかねます」
「……にゃー……」
「あ、いや。そう言われるとそのとおり……か」
しかもこのクエストは、岩窟都市ゴリンドで受けたものである。通常のクエストでも依頼は各街固有の扱いなので、クエスト報告も共有されないのは基本仕様である。
そのあたりを精神的な疲労からすっかり忘れていたトキヤであった。
「ゴリンドへは乗合馬車で数──……。と、言いたい処ですが、緊急対応の許可が降りてますので、これより対応致します」
「お、入れ替わったな」
「先程ぶりですね。皆様、クエスト完了おめでとうございます」
例によって、中身がNPCからスタッフに入れ替わったようである。しかも、口調から“糸山”なる者であるのは確実であった。
「さて、では先ず、クエスト報酬の変更をお知らせ致します──」
導入時期を含めれば7年近く封印されていたクエストである。現在とは報酬内容の価値が変わっているのが当然であった。しかも仕様レベルがトキヤが受けた頃なので、かなり低レベル装備になっているのが実情であった。
これは言い方を変えれば、ゴミを報酬と言うようなものである。
なので、手に入れた装備は素材扱いとし、後日、現在でも通用する装備に作り替える事が決定された。ただし装備のモデリングに時間を要するので現実時間で一週間は必要だと教えられた。
なんでも、このクエストの流れを初めて知った現状の開発スタッフが、新しいデザインに開眼したので、それを導入したいとゴリ押した結果だという。
「そして、新エリアは現実時間で3日、ゲーム内時間では約2ヶ月後に解放されますので、できれば、それまで内密にされますと助かります。それによる報酬も出ますよ。ちゃんとログチェックで秘密漏洩が無いと確認できれば、今流行りの“アレ”をドーンと贈るそうです」
「「「「「アレ?」」」」」
「あなた達専用の固有エリア。つまり“建国許可”です」
ルツボ解放という、新エリアを誕生させた報酬には何が相応しいか? 呪いクエストにかこつけて集められたサービス側が出した結論は、現在最も価値があると思われるものであった。
幸運にも、運営担当の最高決定者がその場に居たことから、その許可はあっさりと降りる。ただし、このクエストの進行には表沙汰にはできない物も含まれるので、その口封じ、の意味も含む内容なのだ。
「(えースイマセン。つい、社内の内情を大解放しちゃったので、イワオ様には今後もダンマリしてほしいと言うことで)」
「(いやまあ、それは構わんが。俺だけでいいのか?)」
「(ええ。他の方々は結果的に断片情報しかバレてませんので。漏洩しても対応できる対外情報は散布済みです)」
「(つまり、この報酬を餌にしての3日っつう時間が大事と)」
「(なっ、何卒おぉ!)」
全員への説明の合間にイワオ個人へ秘話チャットを飛ばすスタッフ糸山である。
イワオとしては、トキヤの問題は後に残りそうな害と無いし、サービス側の問題でゲーム存続が危ぶまれる流れは好まない。別に身内以外が呪いでどうこうしようが、あくまで他人事である。それも今後、解決の方向へと行くのなら、わざわざ表沙汰にして騒ぐのは面倒以外の何物でもないのだから。
なので、ちょっとした“別報酬”で了承する事とする。
そしてサービス側も、その要求は如何かと悩みはしたが、その結果はイワオが得を得るだけのモノではないと、許可された。
その内容は、なんとも大人の汚い世界の話であるので、省略しよう。
そして、一時解散。
連続してかなり濃い時間を過ごしたので、ゲーム時間で1日は自由行動となる。
実はここまでで、ゲーム内時間で3日程しか過ぎていない。現実で言えば3時間。全員の起床時刻までは、ゲーム内だと4日近くあるのである。
「本命の報酬は今回のログインでは無理だから諦めだな。だが、それ以前の報酬は渡せるから渡しとく」
そして各自手にした1億G。何故か“建国”よりも驚く全員。仮想とはいえ“現生の力”恐るべし。である。
しかもマヤヤのスキルの影響なので、今後のクエストでも莫大な報酬を得られるのは確実である。全員渋々ではあったがスカベンジオーガ退治の再戦も決まる。今回の報酬の大半はそのクエストなのだからしょうがない。クリーピングアローの素材集めを希望していたテンマルのみが喜んでいた。
そして待ち合わせ時間を決め、各自別れる時に少々の変化があった。
「? ……イワオさん?」
冒険者の店から出てバラバラになるも、マヤヤの行動基準はすっかりイワオ中心である。だからか歩み始めたイワオの後をついていこうとしたマヤヤは、伸ばされた大きな腕に浚われるように腰を抱かれて、イワオの隣に並ぶ事となる。
「そろそろまた限界だろう。意識が飛ぶ前に宿屋で休んだ方がいい」
イワオに言われたとおり、街へと戻った事で無意識の緊張が解け、足元をふらつかせていたマヤヤである。後半の精神的なダメージ供給者がイワオ当人では? という部分は都合よく消えていたりするが。
ふと、マヤヤが離れる仲間を見れば。
テンマルとカッツェは得た報酬で何かを探しに行ったのか、既に影も形もない。
トキヤとウスネの後ろ姿は見えたが、強引にトキヤの腕をとり、ズンズン進んでいくウスネへ声をかけるのは自殺行為とマヤヤにも分かった。
つまり、誰に気にするでもなく、自分の時間を過ごしていいという事である。
むしろ気にかけてもらえるのを、無理に拒む必要も、マヤヤにはない。
と、本当にそうだったのか? と数分後に思い直すマヤヤである。
「ええと、イワオ……さん?」
イワオ任せで取られた宿屋は、マヤヤが初めてみるデザインの部屋である。
大きさはツインと変わらないがベッドは一つ。しかも巨大である。いわゆる『キングサイズ』よりも更に大きく、イワオの種族に合わせたサイズとも、考えられなくも……ない。
が、実はこのベッド、“就寝のみには使われない仕様”のために、イワオが野営地の自室で使用する物よりも遥かに大きい。
そして当然のようにマヤヤと一緒に部屋へと入ったイワオは、これも当然のようにマヤヤのウィンドウを展開。あれよあれよのうちに目的の操作を終えてしまう。
「あ……、あふ……、イワオ……さん、私……」
既にマヤヤには分かり過ぎる体調変化、発情状態にパラメーターを変えられたのが分かる。しかし何故突然、そんな事をされるのかは分からず困惑するマヤヤである。
「ん、覚えてないか? ほら、俺にキレた時あったろ」
「ん、んん。あ……? あっ」
半分意識が飛んでいた時の事である。マヤヤ自身はその時の事をよく覚えてないない。だが、今似たような状態になった事でイワオがエヴァラと話していたないようが、朧気ながら脳裏に浮かぶ。
『(あーあ、とうとう火がついちゃったねぇ~)』
『(こうも焚き付けられ続けりゃあ、さすがに無理だ)』
「ぁ……あ!」
「お、思いだしたな。と、俺も思い出した」
イワオがまたも虚空に指をなぞせらせれば、マヤヤのステータスの管理ウィンドウが開かれる。その幾つかをチェックするとマヤヤから“にゅるん”といった擬音をたててコノハズク型のエヴァラの使い魔が飛び出してきた。
「さて、それじゃあそろそろ覗き魔には退場してもらいますか」
『あら、あらあら、何で何で?!』
これはイワオがサービス側とした“別報酬”による効果である。
今回のログイン期間中に限り、イワオはマヤヤの全ステータスの管理権限を得ているのだ。この仮想の身体に限り、イワオはマヤヤ自身よりもその身体と心を自在に操作できるのである。
更にサービス側が使った盗聴防止の処理などもコマンド化されており、その機能を使ってエヴァラの寄生を解除したのであった。
「これからは本当にプライベートなので。後は若い者同士に任せて、ご年輩はご遠慮ください」
『あら酷いぃぃ!』
使い魔はマヤヤと切り離された事で室内への入室権限を失う。なので速やかに転送処理がなされ、別のエリアへと飛ばされた。
これにより、この部屋にはイワオとマヤヤの二人だけ。という事となる。
勝手に高まる快感の痺れで身体の自由が利かなくなりつつあるマヤヤは、イワオが保持、というより絡め取っている。そのままベッド中央に放り投げ、仰向けに倒れるまま、辛うじてただ膝を震わせ、脚を閉じ合わせるのがやっとの動きだった。
「マヤヤ……じゃないな。柔波にとっては“こっち”が本当の目的だろう。だからまあ、タップリとレクチャーする気になった」
「あふっ、あのっ、あのぉっ」
ベッドを埋める程の巨体でマヤヤにのし掛かるイワオ。その指が虚空を撫でる毎にマヤヤから装備が消えていく。
「今も含めて、これからのコトは、近い将来、柔波が現実で体験するコトだろうな。柔波が柔波のままなら、明日の放課後にそうなっても不思議じゃない」
無自覚に男を挑発するのだ。しかも現実ではそれが既に1ヶ月は続いている。何かのきっかけがあれば、マヤヤは容易く襲われてもおかしくない。
「だからまあ、一度、いや何度か本気の流れを教えてあげよう。自分じゃどうしようもない、翻弄されるしかない流れってやつをな」
そのまま強引にマヤヤへと口付けをするイワオ。
「んっ、んむっんふん♡」
口付けの間も装備は剥がされ、髪色以外、マヤヤと柔波の違いらしい違いがなくなっていく。長い口付けが終わり、イワオから離れようとしたものの、痺れた身体を無理やり動かし、マヤヤの方から離すまいと後を追う。
「あぅ……ん♡」
「(これから朝まで、いや現実へ帰るまでタップリ調教だなあ。もしかしたら花梨の目論見とは真逆になるかもしれんが、それはしょうがないだろうし……な)」
後日、数年を経過して、とある地方高校で犯罪に類する事件が起きたという報告は無い。
しかし……極たまに…………。
さて、マヤヤと『唐揚げ定食』編はこれで一旦退場です。
彼彼女等のお話は、しばらくしたらまた始まるかもしれません。
つーか、ノクタ臭プンプンなので書けるかどうかワカンナイヨ。
……開き直って向こうで後日談風に書くかもねぇ……。




