彼女を巡りて1h②
ウスネ、テンマル、カッツェ、そしてトキヤ。
この四人は各自独自の伝手を頼りに、トキヤの『呪い』の処理法を探して行動していた。
伝手を頼りの行動といってもそう遠出はできない。仮想空間とはいえ、ゲーム仕様のおかげで移動には現実を感じさせる時間を使う。無駄に移動に時間を割くのなら、その分調査自体に割いた方が役に立つのだから。
本心では、そう、思いたいというのが真実だが。
しかし、それぞれがゲームやプログラム技術のエキスパートというわけでもなく、単なる学生か新社会人である。基本は未知の雑学溢れる友人知人の知恵頼み、なのが実情であった。
「お、まだ開いてたゾ!」
カッツェが探していたのは“レア装備”や“プア装備”、“サービス側の黒歴史”といった様々なアイテムを収集しては見せびらかし合って、他人には欠片も共感できない独特の世界を垂れ流す趣向の者達の“溜まり場”であった。
『垢ちっくレコーダー』という看板を掲げたプレイヤーショップであるが、店内に並ぶ商品はほとんどが非売品。『見て触って羨んで帰れ!』が店の方針である。
極上のレア装備を欲しがりつつも去るしかない貧乏プレイヤーの表情が日々の糧と称して憚らないクズと、それを賞賛し追々する微クズ共の集う魔窟として、一部では有名な店であった。
「お、同志Kが降臨したぞ!」
「おお、同志Kか!!」
「おおお、またも珍妙でレアな装備で降臨か! さすが同志K!」
そんな魔窟にモテ囃されるカッツェである。彼の下衆な一面が明らかになった瞬間であった。
昼間、邪な願望で入手した新装備『南国風素敵革紐鎧』のおかげか、新作披露の話題で店内の空気は明るい。流れでメンバーや客が知る過去の稀少装備の自慢話が幾つも語られ、カッツェの巧みな誘導で『呪い』に関したものへと集中していく。
だが、残念ながらトキヤに類する話は無かった。
トキヤの装備と似たような効果を持つ『呪いのアイテム』はあるのだ。
異性に対する倒錯的なアイテムなど、機能はともかく発想としては陳腐な程にメジャー過ぎるものなのである。
中でも有名な物は『惚れ薬』だろう。服薬用のアイテム形態で、飲む者が呪いの対象となり、任意の相手、この場合一服盛った相手を好きになる。という定番だ。亜種というか、服用した者が周囲の異性全員を対象として惚れられるバイオテロのような物もあるが、共に『呪い』という自然解除の怪しい方法のために沈静化が難しいものとなる。
服用という方法をとらず、着用で効果を発揮するタイプもある。発現効果は服用と同じ場合が多いが、こちらは着用状態を解く、つまり装備を解除できれば『呪い』から解放できる可能性もあるという、服用よりは大人しい方法だ。
だが、だからかトキヤのように、装備が外せなくなるような付属効果も付くものが多い。『呪い』を演出するにも好都合なので、“呪われる”から“外れない”はワンセットのものとすら言えた。
類似がいっさい無いのは、複合する『呪い』の効果である。もしくは時限式か段階的かで異なる『呪い』が発動するタイプだ。今までに発見された物に複数の『呪い』を格納できなかったのか、全くの新種なのか、そこはハッキリしないので謎のままである。
こうして、今日の収穫は『トキヤの装備は“新種”だ』というのが分かっただけである。カッツェの内心にしては、あまり満足の行くものでは無かった。
まだまだ自慢話大会は続いているが、話題の中心はレア装備の元、レア素材発見の苦労話に変わっていた。こうなるともう、ここにカッツェが居る必要は無い。店を出て新たなヒントを探すか、精神的な疲れをリフレッシュさせてから再開するか、な感じであった。
「……そう言えば、ドタバタしてろくに“堪能”できなかったゼ」
ウィンドウを展開し、ストレージから個人データへとツリー移動。自分の視覚をそのまま画像や映像として記録する『スクショ』を立ち上げる。
続いて今日撮影した部分を選択。似たようなアングルの人物画像が大量に展開されていく。
ほとんどがマヤヤを撮ったもので、1アングルが連続撮影で最低でも30枚は繋がっていた。
(ウム、ウスネには最大の感謝だゼ!)
本日のマヤヤはウスネのコーディネートで飾られた。ウスネ自身、何故あそこまで舞い上がったのかは謎だが、親友共々モラル暴走してくれた成果はカッツェ的にはスバラシイの一言である。
慣れない恰好で、サポートとはいえ戦闘という動きをしていたのだ。スクショに写るマヤヤの姿は、テニスやバスケでこまめに姿勢を変えるように、不自然に飛び跳ねる躍動感を見せていた。当然、布切れ一枚の装備がどれだけ乱れたかは、推して知るべし、である。
仮想の肢体であるのに、そこに人の意志が宿ったとたん、生身同然の“生命”を感じる。不思議な感動を得られたカッツェである。
それ以上に、莫大な劣情も溢れだしていたのだが。
(改めて観ると、本当に細かい造形だナア……)
仮に一般の女性プレイヤーを対象にこのようなスクショが撮れたのなら、カッツェの所業には大絶叫ものだろう。透過光処理やら絶妙なアングルやらの補正も無く、公には絶対出せない犯罪アングルばかりである。しかも今日のマヤヤはウスネの暴走で最低限のインナーすら着用していない。日本人的には正に、撮る方撮られた方共に人生終了ものの作品集である。
当のマヤヤの場合、カッツェの隣で平然としていそうなのが悩ましいのではあるが。
だがカッツェが選ぶベストアングルは、そんな“モロ物”では無い。
別のアングルの連続撮影が展開された。それはマヤヤの顔がアップのスクショである。画面の下3分の1は緑の肌の平面で、その肌に抱き縋る形で密着するマヤヤの見下ろし画像だ。
これは、カッツェに対して回復魔法『博愛の口づけ』を施すマヤヤの一連を撮ったものなのである。このクエストにおいて、カッツェのみ大幅に素肌を露出する装備を着用した。それは最初のクエストにおいて施された時の反省に基づいてのものである。
他のメンバーは、マヤヤに魔法を施される場所に“おでこ”を選ばれる。カッツェも最初はそうだった。この時、最接近するマヤヤを撮らないという選択は無かったろう。であるから、カッツェは撮った。
しかし、下から上へと流れるマヤヤの唇のアップや、透け仕様だが完全に隠された上半身。MAX下でもお臍まで。
カッツェ的には、チャンスの一割も活用できていなかったのである。
そして、新装備導入での今回、『博愛の口づけ』という魔法の利点を最大限に活用したスクショが撮れたのだ。
魔法の効果は“心臓”に近いほど好ましい。その利点を利用し、マヤヤには自分の胸部へ魔法の施してもらったのである。
カッツェの腹に両手を添えて、胸元へ唇を近づけるマヤヤの構図。直立するカッツェの立ち位置から、マヤヤは立ち膝で上向く姿勢となっている。
カッツェの視線からは、マヤヤが自分の前で跪き、上目遣いで“縋ってくる”ように見える。さり気なくマヤヤの背に手を回し、より自分へと密着させたのも、ポージングを強調させていた。画面上部ギリギリに写せた、ハートマークの上半分のようなマヤヤの丸い尻のラインが妖しすぎる。
カッツェ渾身の“いい仕事”であった。
身体はほぼ固定され、後は首から上がカッツェの胸元へと魔法を施す流れである。唇が緑の肌に接し、ピンクと緑のコントラストが映える瞬間やら、離れる唇に一瞬遅れて肌に接したままの舌先の一枚。さらに離れた舌先と肌を繋ぐ透明な唾液の“糸”など、よくぞ仮想でここまで、という再現処理付きの画像である。
若しくは、男の劣情ここに極まり、念写をスクショに収めたか? な究極の一枚であった。
周囲3メートルから他人がドン引く“歪んだ”カエル面を晒していたカッツェへと、“ピコーン”と軽快な電子音が鳴る。それはメールの着信を知らせるもので、送り主は馴染みの武具屋。昼間、このスクショを撮るための最高の装備を、条件つきでタダで譲ってくれた恩人である。
そろそろその条件、“マヤヤのスクショ”の催促なのかと、メールを開いてみれば、そこにはカッツェの予想を斜め上に上回る事が記されていた。
『新人ちゃん、あ、マヤヤちゃんか。彼女のスクショは確かに余さず拝領いたしました。こちらの要望どおり主観視点で見事なベストアングルを撮られたカッツェ氏に心から賞賛の意を贈ります。──あ、その装備な、着用者がスクショ撮ったらオレんとこにコピって転送するよう細工入れてあるんだわ。後一ヶ月は機能するんで、新人ちゃんの撮りよろしく~』
愕然とするカッツェである。
そして、夜の街を物凄い勢いで跳ね跳び去る巨大カエルが目撃された。
一時、突発的な魔物襲来のイベントか?! などと驚かれたが、変な意味でカッツェもそこそこ有名人である。
すぐに“何時ものことか”と納得されて、街は再び、日常の夜へと戻るのであった。




