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Trillion of Labyrinth 一生懸命癒やします!  作者: 魚介貌
第1話【ある滋養治士のお話】
13/69

彼女を弄る1h④

 岩窟都市国家ゴリンド。その主要産業である武具職人が集まった『金剛通り』……から一つ脇道に入った『鈴鳴り通り』。トキヤがオーガ装備のクエストを受けたのは、鈴鳴り通りの中程にある『鎧骨屋』(がいこつや)という武具屋であった。


 当時、守護騎士の装備できる重装鎧の種類が少なく、しかも装備を交換するタイミングがレベルを20を経過する毎と、入手ペースに開きがありすぎる仕様であった。トキヤに限らず、このジョブをする者には収集欲は厳禁とまで言われるくらい、壊れたら同じ装備を取り替え続ける事になるジョブとして、認識されていた。

 幾人かは『そんな手抜きな仕様は変だ』と、ジョブの装備を増やすには何かクエストでも必要なんじゃないかと調査を始めたのである。そして、その思い込みは正しかった。


 最初に発見されたクエストは、物理攻撃型の前衛ジョブなら誰でも発生できたものである。手軽な戦闘で入手できた『鉄靴』は性能はともかく、基本耐久値が設定され、いつか壊れる装備しか存在しない中、『耐久値:∞』の設定がなされていたのが驚きの逸品であった。

 このクエストは、最初は単発のクエストと思われていたが、プレイヤーが特定の条件を満たす事で次のクエストを発生させ、最終的に全身の部位を揃える事ができる連続クエストの最初のクエストであるのが、分かったのであった。


 そして、“特定の条件”の些細な違いで起こる、似たようなクエストが幾つも発見された。トキヤが受けた『オーガ装備のクエスト』も、その流れの一つであり、しかしトキヤ自身、クエストの発生条件が何だったのかは、よく分からないものであったのだ。


 そんなクエストの最初の流れ。

 受注時のログは既に新しいものへと差し替えられてしまっていた。だからトキヤのうろ覚えの記憶でしかない。朧気ではあったが、それは大体“このような”内容である。


 『化石を素材に武器や武装を作る風変わりな鍛冶屋。そこの店主が過去、自分と同じような境遇の鍛冶師がおり、特殊な装備を打ったという古文書を入手した。

 その鍛冶師の古文書によると、化石のみならずただの骨からも最高級の鋼に負けない武装が打てると書かれていて、鍛冶屋はそれを何としても再現したいと願った。長年古文書を解読し、素材や鍛錬法、特殊な仕上げを調べ上げたが、どうしても最後の最後の工程の素材だけが手に入らない。

 それを手に入れたら、礼に格安で武装を一式売ってやろう』


 そんな感じの、クエストだった。特に何の捻りもない、新装備導入の内容であると言えた。後は装備のステータスが記されており、五年前なら最強装備。現在ならば中堅レベルに最適という印象である。

 だがトキヤが見直したクエストの内容は、大幅に変更されていた。


 『化石を素材に武器や武装を作る風変わりな鍛冶屋。そこの店主が自分の先達となる鍛冶師のレシピを発見し、今の世に再現したいと望んでいる。

 その先達は自ら素材を集めるために世界を巡り、最終的に素材を提供させるため、とあるオーガの王を倒した。オーガの王の骨を使い見事全身を覆う甲冑を打った先達だが、その仕上げに必要な薬剤だけは集める事ができず、途中で命を落としてしまう。

 鍛冶屋は、先達同様甲冑を打つまでは再現できた。レシピを発見した時に先達が残した素材もあったからだ。だがやはり、仕上げに使うものは今でも手に入れる事ができない。鍛冶屋は先達のように戦う事もできないし、もう未来の同門に託す素材も無い。最後の頼みとして、冒険者に必要な素材を依頼する事にした。悲願の証である甲冑を報酬にする事として』


 なんとなく人情に訴えかける展開に変化していた。


 トキヤの感想としては、『ああ、だーれもクリアしてくれなかったんだろうなあ……』である。

 トキヤにして、今日まで忘れていたクエストである。トキヤ自身は知らないが、謎の報酬過多に遭遇している『唐揚げ定食』メンバーの状況あってこその展開であり、現在ではこのクエストが再び日の目を見るかも分からないのが実情である。


 そして、ログ同様変更された装備の性能。

 現在のレベルに合わされた能力値、金属製装備に対する有利不利。

 追加された変な“機能”や“属性”。

 必要素材『鬼の心玉』の意味など含め、一新されたクエストログを読み直し終わったトキヤへ、ちょうどNPCの独白寸劇が終了して報酬が渡されたのである。


 トキヤの新装備。

 |【鬼魂の鎧(色式)】《きこんのよろい・しきしき》。

 【概要】オーガの聖地、最後の王の骨を用いて造られた鎧。オーガの王族の特性【修羅の波動】を宿しており、着用者のレベルに依存する形で特性を発現、対抗に負けた者を特性の影響下に置く。特性の発現は自動処理。意図的に抑えるには着用者自身が対抗処理に“勝利”する事が必要。

 【装備属性:火・剛力・他者魅了・……】



 問題は二つ。

 一つは、追加されたこの“謎”の概要である。自動発現(パッシブ)の能力らしいのだが名前から何となくヤバい雰囲気が伝わるだけで具体的な説明が無い。


 残る一つは、この概要の最後に書かれていた最後の“装備属性”である。

 装備属性とは、その装備を着用した事によってアバターの属性を変化させる機能だ。

 アバターが持っている基本的な何らかの属性。例えば作成時のパラメータやスキル構成で『火属性』を獲得したアバターは、物理や魔法の攻撃で火に関する攻撃力は上昇し、火属性のダメージには耐性効果で減少させる事ができる特性を有することになる。そのアバターが“水属性”付きの装備属性を持つ装備を着用した場合、本来の火属性を封印し、水属性へとアバターの特性を変える事になるのである。


 トキヤの新装備は、複数の特性を持つ高レベルでは順当な物であった。『火』はそのまま、火の属性へのプラス効果を得るものである。『剛力』は物理系のステータス全体を強化するものらしく、高レベルのトキヤはステータス数値が2.7倍のプラス補正と追記されていた。大幅な能力上昇である。『他者魅了』は他プレイヤーやNPCに対して精神的に優位な特性を得られるようだが、それがどのような形で発現するのかは、トキヤにはまだ分からなかった。漠然とだが、『アイテムの売買に有利?』くらいに考えていた。

 そして問題の最後の属性である。

 『呪い』と記されていた。同時に、クエスト完了に伴い自動的に装備された『鬼魂の鎧』の状態が変化していた。

 【装備状態:呪い】。実に分かりやすい。装備解除しようにも、『トキヤは呪われている。鎧を脱ぐことができない!』などとインフォメーションが流れたりもした。



 五年越しのクエスト完了。それは、トキヤにとって実に嬉しくない結果で終わったのである。



「……で、その恰好か?」


「……うん」


 オーガガ島迷宮にて合流した『唐揚げ定食』メンバーとトキヤである。


 打ち合わせどおり、トキヤは迷宮入りした地点から動かず、イワオ等が移動しての合流となった。幸い既に一行が撃破済みの通路だったのでハングローチの襲撃も無く、ものの数分で出会えたわけだが、そこで、少々妙なトラブルが発生したのである。


「ふあ~にゃああ~~ぁんん♡」


 再開を果たした途端、ウスネが唐突に発狂。トキヤに抱きついて悶え始めたのである。まあ、ウスネの行動では奇態も通常運転のひとつ。野郎メンバーは特に気にする事もなく、トキヤの新装備に関する話をネタの一つに、ここ数時間の情報を共有する事を優先しているのである。


 ドロップアイテムの過剰入手やマヤヤに関する祭り状態。サービス側でも未知の状況と、トキヤも一部思い当たる内容が語られ、補足として話したりもする。その流れで話題がトキヤの装備へ戻り、改めてトキヤの恰好がシミジミと注目されていた。


「……金ピカだなあ……」


「派手派手でゴザルな……」


「まあ、悪趣味じゃあ無いゼ……」


「迷宮入りするまでは普通に白っぽかったんだけどね」


 トキヤが最初に装備した状態では、オーガの骨が素材というイメージどおりにアオボリーホワイトな配色であった。『鬼の心玉』は部品というより釉薬な扱いで、外見は完成済みの表面に液状化させて塗り上げたような感じである。光の加減で虹色の光沢が追加され、それで本当の完成となったのだが、そう見た目の変化は無かったのだ。

 だが、いざ迷宮入りしてみれば、アオボリーホワイトの色合いは薄めの金色へと変じ、各部位の縁を墨色のラインで縁取る模様となる。

 元のイメージとは全く別の物となっていたのである。


「随分とレアなクエストがあったんだなあ……」


「イワオは知らなかったんだね」


「クエストの発動条件が合わなかったんだろうな」


 同じジョブ同士でもスキルやステータスの違いで発生するクエストに変化が出る。トリオン・オブ・ラビリンスでは通常の仕様である。


「ま、聞く内容じゃ受けれなくて正解って感じだけどな」


「オレだって知らないうちにクエスト内容が変わってんのが分かったら、途中破棄してたと思うよ……」


 現状、プラス効果でジョブ的には有利だから大人しいが、これでマイナス効果ばかりなら即『サービス側へのクレーム』ものである。


「な、トキヤ。多分だけド、その鎧のステータスはこまめに確認した方がいいゼ」


「……なぜ?」


 と問いつつ、反射的にカッツェの言うとおりにするトキヤ。そして驚く。

 ついさっき見た内容が、微妙に変化していたのだ。


 【装備属性:火・剛力・他者魅了・異性魅了・理性弱体(Lv1)・呪い(Lv1)】


「何か増えてる……」


「あー、ヤッパリなーア……」


 カッツェの疲れた調子の呟き、そして図らずも、全員の視線はトキヤに絡みつき悶えるウスネへと、注目するのであった。



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