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ライバルは前世~生まれ変わりだから愛するのではなく今の私を貴方には愛して欲しいんです~  作者: リラックス夢土


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43/64

43 立食パーティー




 演奏会はルーヴァス侯爵邸の小ホールで行われるようだ。

 観客は私たちを含めて十数名。身なりから判断して皆高位貴族だろう。

 私が知っている者もいるし知らない者もいる。


 そして響の演奏が始まった。

 最初は軽快なテンポの明るい曲で次は切なく涙が出るような心を揺さぶる曲。


 五曲ほど弾いて演奏は終わり惜しみない拍手が響に送られた。

 私も感動して拍手を送る。



 やっぱり響の演奏は何度聴いても素晴らしいわ。



「さすが響様の演奏はいつ聴いても美しい」



 観客からはそんな声も聞こえた。


 その後は昼食会を兼ねた中庭での立食パーティーが行われることとなった。

 吹雪が男性陣と話をしていたので私が一人で手持ち無沙汰にしていると夏菜夫人に声をかけてくださる。



「真雪さん。こちらに来てお話しませんか?」



 そちらを見ると夏菜夫人の他に三人の女性が集まっていた。



「はい。喜んで」



 私は夏菜夫人に連れられて三人の女性の所に行く。



「夏菜夫人。そちらの方は?」



 女性の一人が私に気付き声をかけてきた。



「こちらは吹雪様がお連れになった魔公爵様のお気に入りの男爵令嬢の真雪さんよ」



 完全に夏菜夫人は誤解しているが訂正するわけにもいかない。

 ここで頑固に訂正してしまったら公子の吹雪が嘘を吐いたことになってしまう。

 まあ、嘘を吐いたというか侯爵夫妻の誤解を訂正しなかっただけなのだが。



「ジル男爵家の真雪と申します」



 私は三人に挨拶をした。



「まあ。魔公爵様の? これはご丁寧な挨拶ありがとうございます。私はシルク公爵夫人の胡蝶こちょうよ。よろしくね」


「よろしくお願いします」



 私は頭を下げた。

 シルク公爵夫人のことは知っている。

 お洒落な方でいつも最新流行のドレスや装飾品を身に着けているがそれを自慢することはない。


 シルク公爵家は裕福な貴族で胡蝶夫人の姉は現在の魔王の第一妾妃になっている。

 魔王様は正妃様の他に第五妾妃様までいらっしゃると私は聞いていた。


 妾妃は正妃より身分は下だが普通の愛人と違い妾妃の産んだ子供には王籍が与えられて王位継承権を持つ。

 その妾妃を輩出できるシルク公爵家は貴族の中でも名門中の名門なのだ。



「私はハーバード伯爵の娘の綾香あやかよ」


「よろしくお願いします」



 綾香様は初めてお会いするわね。

 きっと私が死んだ後にお生まれになったに違いない。

 伯爵夫人ではなく伯爵令嬢らしいから。



「真雪さん。私はレイト侯爵夫人の弓香ゆみかよ。よろしく」



 こちらの弓香様も初めて会うわね。

 温厚そうな笑顔をしているけれど。



「はい。よろしくお願いします」


「それで貴女はいつから魔公爵様のもとにいらっしゃるの?」



 胡蝶夫人の質問に私は素直に答える。



「はい。まだお傍に上がってそんなに日は経っていません」


「そうなのね。それもそうよね。魔公爵様にお気に入りの女性ができたというお話は初めて聞きましたもの」



 胡蝶夫人は扇を開きパタパタと扇いだ。



「そうですわね。魔公爵様は女性嫌いだと私は伺っていました」


「あら綾香さん。それは違うわ。魔公爵様は女嫌いじゃなくて今も亡き奥方を想っていらっしゃるのよ」



 夏菜夫人が綾香様の言葉を訂正した。

 烈牙様が亡くなったアリシアを今も愛していることは古くから烈牙様と交流のある夏菜夫人には当たり前のことらしい。


 私の胸がチクリと痛む。

 アリシアは死んだはずなのに烈牙様の中にもこの夏菜夫人の中にも生き続けているのだ。

 いつになったら私は皆の中に存在するアリシアに勝てるのかしら。



「ああ。確か人間だったという奥方ね。よく人間ごときが魔公爵様の寵愛を受けられたましたわね」



 綾香様は人間に対して嫌悪感を抱いているようだ。

 この綾香様の反応こそ魔族としては当たり前の反応なのだ。

 魔族より格下の人間が魔公爵夫人だったことは綾香様には受け入れがたい事実なのだろう。



「でもアリシア様はとても感じのいいお方でしたわ。魔公爵夫人として権威を振りかざすこともなくて」



 夏菜夫人がアリシアを擁護してくれる。

 アリシアが亡くなった今ならアリシアのことを批判しても誰に責められることもないと思うのに夏菜夫人はアリシアを批判しない。

 やはり夏菜夫人はお優しい方だ。



「それでも人間は人間でしょう?」



 綾香様はあくまで人間嫌いのようだ。

 その気持ちも痛いほど分かる。



「まあまあ、綾香さん。もう亡くなった方のことを悪く言うものではなくてよ。響様も吹雪様もアリシア様のお子様なのよ」



 胡蝶夫人が綾香様にそう言うと綾香様は自分の失言に気付いたようだ。

 アリシアを悪く言うことはその子供の吹雪や響も蔑んでいることになる。



「そうですわね。吹雪様や響様はご立派な方々ですものね」



 綾香様は慌てて取り繕うようにそう言うと扇を開いて口元を隠した。


 その反応に私は複雑な気分になる。

 私は望んで烈牙様に嫁ぎ公子たちを産んだが公子たちは半人半魔という陰口を叩かれて育ったことは間違いない。


 きっと純粋な魔族では受けることのない批判的な言葉を受けて息子たちが傷ついたこともあるはずだ。

 その点について考えると息子たちに申し訳ない気がした。



「やあ。真雪。ここにいたのか」



 そこへ吹雪と響がやって来た。



「吹雪様。はい、皆様と仲良くさせていただいております」


「そう。それは良かった。皆さん、真雪は父上からの大事な借り物なのでよろしくお願いしますね」



 ここでも吹雪は私を烈牙様の特別な存在ということを匂わせる。



「ええ。もちろんですわ。吹雪様。それとこないだのネックレスの評判はとても良かったわ。ありがとうございます」



 胡蝶夫人が吹雪ににこやかに挨拶をする。



 胡蝶夫人は吹雪の顧客の一人なのね。



「ありがとうございます。シルク公爵夫人。また新作が出たらご紹介しますよ」


「ええ。楽しみにしています」



 胡蝶夫人は嬉しそうに頷く。



「響様。今日の演奏もとても素敵でした」



 今度は綾香様が響に声をかけ笑顔を向けた。



「ありがとうございます。綾香殿。また聴きに来てください」


「ええ。喜んで」



 綾香様は僅かに顔を赤く染める。



 あら、この反応はきっと綾香様は響のことが好きなのね。



 響が綾香様のことをどう思っているかは分からないが烈牙様に恋する私は綾香様の恋心がよく分かる。

 たとえ響が半人半魔であっても恋する気持ちは止められないことが。


 だって私がアリシアだった時も自分が人間で烈牙様は魔族であることが分かっていても烈牙様のことを好きになったのだから。

 恋をするのに種族は関係ない。

 それが恋というものだ。



「では、我々はこれで帰ります。夏菜侯爵夫人、また次回もよろしくお願いします」


「ええ。分かりましたわ。お気を付けてお帰りください」


「真雪。行くぞ」


「はい」



 私たち三人は馬車に乗り魔公爵邸を目指す。



「ご婦人方にいじめられなかったか? 真雪」



 馬車の中で吹雪が心配そうに訊いてきた。



「いいえ。そんなことはありませんが……」


「どうかしたのか?」


「いえ。ただ、やはり私を魔公爵様のお気に入りというのは言い過ぎだったのではないかと」


「そんなことはないよ。真雪が父上のお気に入りなのは真実だもん」


「そうですよ。真雪は堂々としていればいいのです」


「はあ…」



 二人に言われて私は反論を控えた。



 私のことが烈牙様の立場を悪くしなければいいけれど。



 魔公爵にお気に入りの女性がいるという噂が広まる可能性ができてしまったのが私には心配だった。





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