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ライバルは前世~生まれ変わりだから愛するのではなく今の私を貴方には愛して欲しいんです~  作者: リラックス夢土


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38/51

38 咲夜祭




 私はその日の夕飯の後に吹雪からもらった青いドレスに着替えて約束どおり馬屋の前に行った。

 烈牙様はまだ来ていない。


 馬番に見つかっても困ると考えて馬屋の陰になっている場所待つ。

 しばらくすると黒衣で身を纏った烈牙様が現れた。



「真雪。いるか?」



 烈牙様の声が聞こえたので私は馬屋の陰から出て来る。



「待たせたか?」


「いいえ。私も今来たところです」


「そのドレスは似合っているな。真雪の美しさを引き出してくれている」


「ありがとうございます」



 烈牙様に褒めてもらえたわ。

 吹雪には感謝ね。



「ではこの仮面をつけろ」



 烈牙様は私に仮面を渡してきた。

 その仮面は綺麗な装飾をされた女性用の仮面だ。



 これをつければ知り合いの会っても私とは分からないわね。



 もし烈牙様の正体がバレた時に女性と一緒にいたと噂されてしまったら烈牙様に迷惑がかかってしまう可能性がある。

 少なくとも今はまだ烈牙様は私を妻に迎えたいとは思っていないのだから私が烈牙様の想い人と勘違いされたらきっと烈牙様も困るに違いない。


 烈牙様も顔を半分覆うような仮面をつけた。

 そしてご自分の馬を馬屋から出す。



 まあ、ハデスだわ。

 まだ元気に生きていたのね。



 烈牙様の愛馬の黒い馬はアリシアの時に飼っていた馬と変わっていないようだ。

 魔界の馬はとても長生きするとは聞いていた。


 この馬の名はハデスと言ってアリシアの時に私も可愛がっていた烈牙様の愛馬だ。

 ハデスは私の側に来るとブルルンと鳴く。


 私はハデスに近付き鼻面を撫でてやる。

 するとハデスは気持ち良さそうに瞳を和らげた。



「驚いたな。このハデスは私以外にはアリシアにしか懐かなかったのだが」



 フフ、きっとハデスは私の正体が分かったのね。

 ハデス、私はアリシアではないの。真雪なのよ。

 ハデスが口を利けなくて良かったわ。



 もしハデスが話せたら私がアリシアの生まれ変わりだと烈牙様にバレてしまったかもしれない。



「私は動物が好きですからこの馬も懐いたのでしょう。とても頭のいい馬ですね」


「ああ、ハデスは優秀な馬だ。このハデスに乗って数えきれないほどの戦場を駆け抜けた。私の戦友みたいなものだな」


「そうですか。ハデス、私は真雪よ。よろしくね」



 ハデスはもう一度ブルルンと鳴いた。



「では行こうか。真雪こっちに来い」



 私は烈牙様の手を借りて馬に乗る。

 烈牙様は私の後ろに乗り私を抱きかかえるようにした。


 そうするとどうしても烈牙様のたくましい身体に密着することになってしまう。

 自分の間近に烈牙様を感じて私は胸のドキドキが止まらない。



「しっかりつかまっていろよ」



 そう言って烈牙様はハデスを走らせた。

 走らせたといってもそれほどスピードは出していない。

 それでも私は烈牙様にしがみつく。


 今生では初めての乗馬だ。緊張する。

 烈牙様は私が落ちないように私の体をさらに強く抱き締めた。


 落馬しないようにとのことだと分かっても烈牙様の身体の温もりを感じられるのは嬉しい。

 愛されてると錯覚を起こしてしまいそうだ。


 魔公爵邸のある都の東の地域から咲夜祭が行われる庶民たちが住む都の西側へと向かった。

 西側に近付くとたくさんの人々が仮面をつけて歩いている。


 烈牙様は公衆の馬屋に馬を預けると私に向かって手を差し出す。



「月桜のところまで歩こう。迷うと大変だから手を繋ぎたいのだが真雪が嫌ならやめておく」



 烈牙様は必要以上には私に触れないと誓ったから私の許可を求めてくれる。

 その心遣いだけで嬉しくて涙が出そうになった。



「はい。お願いします」



 私は自分の右手を差し出す。

 烈牙様が私の手をしっかりと握った。そして二人で歩き出す。


 通りには屋台も多く出ていて人が多く集まっている。

 その中を人にぶつからないように烈牙様は巧みに私を先導してくれた。

 やがてメインの月桜が咲いている広場に着く。



「まあ。本当に綺麗」



 月桜は月の明かりに照らされて美しく咲き誇っていた。

 その周辺では音楽が流れて男女が踊っている。


 自分の好きな人だったり今夜限りのパートナーだったり人それぞれだろうが皆情熱的にステップを踏んでいる様子に私は目を奪われた。


 私は咲夜祭への参加は初めてではないがまだ月桜の下で踊ったことはない。

 それは私の想い人が烈牙様だったから他の男性と踊る気にはなれなかったからだ。



「真雪。一緒に踊るか?」


「え!」



 私は驚いた。

 咲夜祭に来たとはいえ烈牙様が庶民に混ざって踊るとは考えていなかった。



「私は軍人だが踊りも結構上手いぞ」



 烈牙様の赤い瞳に優しい光が宿る。

 その瞳に見つめられるだけで前世で烈牙様に愛されていた記憶が蘇り私の身体は熱くなってしまう。



「それならお願いします」



 私が返事をすると烈牙様は私を踊っている男女のところまで連れて行った。

 そして私たちは踊り出す。


 貴族が舞踏会で踊る踊りとは違うが周囲の人を見ながら音楽に合わせてステップを踏む。

 烈牙様もすぐにステップを覚えたようで私と手を組みながら私の身体をクルクルと回す。


 私は夢の中にいるようだった。



 烈牙様と一緒に踊っている。

 これは月桜の魔法かしら。



 私は踊りながら烈牙様の瞳を見つめていた。

 烈牙様も私の瞳から視線を逸らさない。


 その時だけはまるで世界に二人だけしかいないように感じた。


 しかし夢の終わりは来てしまう。

 私たちは二曲踊ると踊りの輪の中から抜け出した。



「真雪はダンスが上手いな」


「烈牙様こそとてもお上手です。烈牙様のリードが上手いので楽しく踊れました」



 私は踊り終わってもまだ夢心地だった。



「真雪?」



 そこで私の名前を呼ぶ女性の声が聞こえ私はハッとして振り向いた。

 そこには仮面を取った素顔の紅葉がいる。



「紅葉!」


「やっぱり真雪じゃない。貴女の白銀の髪は目立つから分かったわ」



 いけない。烈牙様と一緒のところを見られてしまった。



 私は一気に現実に引き戻される。



「そちらの殿方はどなた?」



 だが紅葉には烈牙様が誰だか分からないようだ。

 紅葉もまさか咲夜祭に魔公爵の烈牙様が参加するなど思っていないからだろう。



 どうしよう。烈牙様のことがバレたら大変だわ。



 私が何と説明しようか悩んでいると烈牙様が口を開く。



「私は真雪の今宵のパートナーです。失礼ですが真雪との限られた時間を楽しみたいので二人にしてくれませんか?」



 紅葉はその言葉を聞いて意味深な笑みを口元に浮かべた。



「それは野暮なことをしてしまったわね。申し訳ありません。真雪と楽しいひと時を」



 紅葉は自分の仮面をつけると人混みに紛れて行ってしまった。

 私は烈牙様のことが紅葉にバレなかったことにホッとする。


 その時都の中央にある時計台の鐘が時を報せる音が聞こえた。



「真雪。明日も早い。そろそろ帰るぞ」


「はい。分かりました」



 祭りはまだまだ続くが明日も仕事がある。

 名残惜しいが私と烈牙様は屋敷に戻った。



 烈牙様と踊ったこの夜のことは絶対に忘れないわ。






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