第37話 森の調査
マーグヌム港の解放から数週間。
併設されたリゾートビーチ、グロス・プラージュは一般開放された。
多くのリンカー達はそこで英気を養い、各地の戦闘で精を出していると言う。
一方でワールドミッションの続報は一切無く、各地の調査も未だ進行中。
どの地点も手を出すには情報と戦力が足りないという状況らしい。
そんな日々の続いたある時、ESFの面々はユニオンルームに集められていた。
最後に到着したのはやたら疲れた様子のタイトである。
「オッスー、遅れて悪いな」
「おう。おつかれ~……ってかマジで疲れてるんだな。何かあったのか?」
「良いことがあったんだよ。まぁ近々話せると思うから、待っててくれ」
それだけ言い残すと、彼は静かに席に着いた。
「さて……。作戦会議を始めるわよ」
今回彼らが集められたのはユニオンへの指名依頼が来た事が原因である。
発注者がメビウスである事、そして特定地点の調査依頼である事は事前に知らされていた。
「で、詳細な内容は?」
「迷いの森、およびマーグヌム山周辺の粒子雲地域を調査する事よ」
「粒子雲?」
「高濃度にクァドラン粒子が集まった場所の事ね」
最初のワールドミッションで迷いの森へ向かった彼らは、ヴァイカウントと呼ぶ協力なグルムを目撃した。
だがかの敵は本来、迷いの森に居るような強さの敵では無い。
それが何故現れたのか、理由を調査する必要があるのだ。
「期限は長めだからそこまで人数はいらないんだけど、ある程度纏まった戦力である必要がある。そこで――」
「――我々ジェムズも合同でミッションを遂行します。以前と同様」
「お、エイジか。久しぶりだな~!」
「はい! お久しぶりです!!」
以前の調査では別地域へ向かっていたエイジも含め、今回はジェムズのフルメンバーと合同でミッションを行う。
配置とチーム分けを決め、彼らは早速調査を開始した。
――――――――――――――――――――
調査初日は大した物を見つけられず、時間的都合により終了。
翌日も集まれる人で集まり、引き続き調査をしていた。
前日は森側を調査していたジンは、ジェムズのCAと共に山側へ向かう。
「何も無いなぁ……」
「ですねぇ……」
以前ヴァイカウントと遭遇したであろう地点にまで向かったが、やはり何も見つけられない。
そろそろ切り上げ帰ろうとしたその時、コックピットに警報が鳴り響いた。
「急速に接近する機影を確認、注意して下さい」
「敵か?」
「いえ、これは……」
ノーブル・ランクスの存在もあり油断は出来ないが、識別信号はメビウス陣営の機体となっている。
その機体は彼らが正体を確かめる前に有視界距離へと入り、通信を開くと同地に指を指す。
「おい! そこのアンタ!!」
どうやら機体の主は少女のようだが、彼女の指はアルゴンを指す。
一方の当人は辺りをキョロキョロと見回すばかりである。
「アンタや、アンタ!!! そこの白い奴!!!!」
「あっ、俺?」
「そうや!!」
「で何の用だ? 俺は見ての通り、散歩に忙しいんだが……」
「全然忙しくあらへんやろそれ!!」
相手は騎士風の機体なのだが、その動作は見た目にそぐわない主張の激しい物だ。
彼女は完全にジンのテンポに乗せられている。
「あぁもう! ウチはヘリオス、アンタが今持っとる弓の本来の持ち主や!!」
「本来の……」
「「「持ち主?」」」
ヘリオス曰く、アウルムアルクスは捜索対象兼報酬としてクエストが出されていた。
彼女はそれを探して各地を回っていたと言うのに、ジンが先に入手した為に無駄足となったそうだ。
それを恨んでアルゴンを探し、ようやく見つけ接触出来たのが今……という事らしい。
「いや、あの時お前どこで何してたんだよ」
「いやぁ……そら言えへんよ。迷いの森で迷ってたとか、そんなん全然言えへん」
「「「あぁ……」」」
「そんな事より! 弓を賭けてウチと勝負や!!」
「えぇ~……まぁ良いけど、シミュレーター上でだぞ?」
「っしゃぁ!!」
この手の輩が勝負しなければ納得せず、しつこく付いてくる事をジンは知っている。
無駄に機体を消耗させられない為にシミュレーター上での勝負になるが、ヘリオスとしてもそれは望む所のようだ。
二機を駐機状態にし、データをリンクさせる事で勝負は始まる。
ジェムズの各機はその護衛を行う事にした。
「ほな、ウチから行くで!!」
ヘリオスは標的に向けて照準を動かし、トリガーを引く。
だがアウルムアルクスは矢を作り出さず、金の粒子を纏う事すら無い。
「……アレ、ちょっとー? これ壊れとるんとちゃう!?」
「単純な出力不足です」
無慈悲なアルの言葉と同時に、ジンはトリガーを引く。
チャージはいつも通りの八秒前後で完了し、矢は勢い良く放たれた。
「余裕だな」
「余裕ですね」
「嘘、やろ……こんなの納得出来んやろ……」
シミュレーションが終了し、モニターの映像が元の景色に切り替わる。
例え現実であっても変わらない結果であるが、ヘリオスは納得出来ないようだ。
「チートや! こんなんアンタが不正したに決まってるやん!!」
「めんどくせぇ~……」
ヘリオスはジンの行く手を阻むだろう。
簡単に予測出来るその結果を回避する為、ジンは次の一手を打つ。
「ヘリオスつったら太陽神だから……陽ちゃんで良いか?」
「なんでウチの渾名知っとるんや!?」
「あーもうお前の事とか知らないから。シミュレーションで納得出来ないなら実機でやれよ」
「おうっ!?」
アルゴンはアウルムアルクスを投げ渡し、ヘリオスはそれ落としそうになりながらも何とか受け取った。
「っとと……。ははーん! こんなん渡されたらウチのモンやで!!」
そして実機と同じように手頃な標的を狙い、トリガーを引く。
だがシミュレーションと同じく矢は放たれず、現実ではそれ以上に悪い結果が伴う。
エネルギーが枯渇してしまい、ヘリオスの乗る機体は地に手を着き動きを止めた。
同地にアウルムアルクスはその手を離れ、地面へと落ちていく。
「うっ、嘘やろ……」
「嘘じゃないって」
アルゴンは落下したアウルムアルクスを拾い、シミュレーションと同じ動作で射撃を行う。
金の粒子を伴う矢は山に直撃し、大きな土煙を作り出した。
「な?」
「マジやん……」
ヘリオスは大きく落ち込み、機体のエネルギーが回復してもなお動く事が出来ない。
だがそんな彼らの元へ警報が届けられる。
「何だ何だ?」
「ジン、敵機の反応が急増しています! この場は撤退を!!」
「オーケー。さっさと行くぞ!!」
――――――――――――――――――――
敵が近づく前に帰還、ヘリオスも連れ帰りユニオンルームへ連れ込んだ。
一方のジンはクレナに首を掴まれ、締め上げられている。
「ジン!」
「いや分かってる、不用意に攻撃するなってんだろ?」
「分かってるなら何で撃ったのよ!!!」
「だってやんないと納得しなかっただろ? コイツはさ……」
「それは……そうだけど!」
ユウトはオロオロするのみであり、ジェムズが口出しをするつもりは無くヘリオスにも口出しは出来ない。
つまりその場をどうにかできるのはタイトだけである。
「まぁまぁ。おかげで敵の拠点らしき影も見えたんだし、結果オーライって事でね?」
圧縮したクァドラン粒子、つまりアウルムアルクスの矢に引かれ粒子雲は濃度を低下させている。
それによって撤退途中のグラファイトが敵基地を発見し、座標データを取得した。
情報は既にメビウスへ共有しており、調査依頼の結果としては上々だろう。
だがその場には納得出来ない者が居た。
「ウチは絶対に認めん!!」
「何がだ?」
「アンタがあの弓を持つ事や! こんなんもうチートで何かしとるとしか思えんやろうが!!!」
ヘリオスはユニオンルームを飛び出し、どこかへと走り去る。
ジェムズとESFの面々が残されたユニオンルームでは、彼女のバディがモニターに現れていた。
名前はアポロと言うらしい。
「我がマスターが無礼を働いた、彼女に代わって私から謝罪の言葉を遅らせて貰う。本当に申し訳ない」
だが彼もそれだけを言い残し、何の問答もする事無く消え去ってしまった。
「……彼女どうするの?」
「どうするもこうするも無いだろ。俺達は俺達の仕事をする、それだけだ」




