13-3 謎解き - 決意
弾んだような声で本は一問目を出題した。元から頭脳派ではないツバサは始めから嫌そうな顔をして聞いていた。
「お前達の目の前には扉が2つある。1つは外へ脱出できる出口、もう片方は開けてはいけない魔物の世界の入口。お前達は外への出口を探している。どちらの扉が出口なのか知っているのは、門番として立っているアルルとレンだけだ。お前達はどちらかの門番に1つだけ質問をすることができる。しかし、アルルとレンはどちらかが正直者で、どちらかが嘘つきだ。さあ、お前達は何と質問をする?」
「質問の内容を考えるのか。……えー」
「まあ聞くとしたら、右は出口ですか?とかそんな辺りよね。これ結構有名な問題じゃない?でも答えなんだったかな」
「でも1人にしか聞けないからな。はいって答えたとしても、それが本当なのか嘘なんだか」
「当たり前じゃない。それがクイズの面白いとこでしょ。もうツバサはちょっと黙ってて。私こういうの好きだから1人で考えてみる」
「俺が聞いたらアルルもレンも嘘つきそうだな」
「ほんっとにクイズ苦手なのね貴方!私が一緒に来て良かった!」
ちょうどその頃、アルルとレンも喋る本からクイズを出題されているところだった。
「君達に出題するものは、間違い探しだ。これからある文章を読むが、どこが間違えているのか当ててくれ。ではいくぞ」
"むかしむかし、ある所に、魔術士と魔女と一人娘が住んでいました。とても仲が良い夫婦で、毎日幸せに暮らしていました。そんなある日、山から魔物がやってきて、魔女をさらっていきました。魔女を助けようと決心した魔術士は、娘を置いてたった1人で山へ立ち向かいました。しかし辿り着く前に、魔女は弱って死んでしまいました。そのことを知った魔術士は酷く悲しみ、そして魔物のことを恨みました。やがて魔術士も魔物に捕まえられ、娘は1人取り残されてしまったのでした。おしまい。"
「……何だか悲しい話ね」
もう一度本は問題を読んだ。
"むかしむかし、ある所に、魔術士と魔女と一人娘が住んでいました。とても仲が良い夫婦で、毎日幸せに暮らしていました。そんなある日、山から魔物がやってきて、魔女をさらっていきました。魔女を助けようと決心した魔術士は、娘を置いてたった1人で山へ立ち向かいました。しかし辿り着く前に、魔女は弱って死んでしまいました。そのことを知った魔術士は酷く悲しみ、そして魔物のことを恨みました。やがて魔術士も魔物に捕まえられ、娘は1人取り残されてしまったのでした。おしまい。"
「……さあ、どこが違うかな」
「ええっそんな長い文章覚えられないわよ」
「何か紙に文を起こせないのか?」
「仕方ないのう」
本が開かれると、両方のページ文章が浮かび上がった。さっきの文章が浮かび、レンもアルルも一文ずつ交互に確かめた。誤字から句読点まで隅々を観察した。アルルは唸った。
「どこも間違えているところが無いわ」
「間違っているのは文章じゃないのかもしれない……もう1回朗読してくれ」
「……了解した。ではいくぞ」
"むかしむかし、ある所に、魔術士と魔女と一人娘が住んでいました。とても仲が良い夫婦で、毎日幸せに暮らしていました。そんなある日、山から魔物がやってきて、魔女をさらっていきました。魔女を助けようと決心した魔術士は、娘を置いてたった1人で山へ立ち向かいました。しかし辿り着く前に、魔女は弱って死んでしまいました。そのことを知った魔術士は酷く悲しみ、そして魔物のことを恨みました。やがて魔術士も魔物に捕まえられ、娘は1人取り残されてしまったのでした。おしまい。"
「二つ目だ」
"むかしむかし、ある所に、魔術士と魔女と一人娘が住んでいました。とても仲が良い夫婦で、毎日幸せに暮らしていました。そんなある日、山から魔物がやってきて、魔女をさらっていきました。魔女を助けようと決心した魔術士は、娘を置いてたった1人で山へ立ち向かいました。しかし辿り着く前に、魔女は弱って死んでしまいました。そのことを知った魔術士は酷く悲しみ、そして魔物のことを恨みました。やがて魔術士も魔物に捕まえられ、娘は1人取り残されてしまったのでした。おしまい。"
「……分かったかも」
「ええっ今ので?!」
レンは黙ってうなずくと、ゆっくりと本に答えを伝えた。本はふわふわと動きながら聞いていた。
「文章中に間違いは無い。でも1つ目と2つ目を読む前に違いがあった。1つ目を読む時に必ず"ではいくぞ"と言っていたんだ。でも2つ目では言っていない。それだな」
「……正解だ。賢いのう。では次の問題に行こうか」
本は舞い降りてくるとページを開いた。今度は4枚の写真が浮かび上がった。それはその場にいた2人も含めたチームメンバー1人1人の写真だった。
「この質問で殆どのチームが解散に追いやられた。どのくらい互いのことを知っているか、という話だ」
「解散?!」
「では質問だ。この中で今後"化け物"になってしまう人は誰?解答権は1回のみだ。話し合いは勿論してくれて構わない」
「"化け物"だって……?」
「なってしまう人ってどういうこと?予言?」
「私は何でも分かるのだよ。この世界全ての知ってはならない情報まで全てを分かっているんだ。……ちなみに、さっきの文章だがあれは物語ではない。実際の話を物語風にリメイクしたのだ」
しばらく沈黙が流れた。クイズよりもこの本の言っていた予言に思考が持っていかれてしまい、レンもアルルも黙りこくる他無かった。そんな中、急にレンが口火を切った。
「なあ、"化け物"って言い回しがあんまりピンと来ないんだけど。"怪物"とかそんなニュアンスか?」
「その通り」
「私達の中で怪物になる人……?いや、今後なってしまう人?」
※決意
既に、カーターは怪物そのものだった。餌を食べる量が増え、パンがこんにゃくに変わった。今日もペーストが塗られたこんにゃくを頬張り、鋭くなった歯でむさぼり食っていた。そんな彼の変貌を、ラファウルはずっと傍で見守っていた。ラファウルもまた、皮膚が痛かった。翼も痛かった。美しかった白い翼も髪も、黒く染まりつつあった。
「カーター、ゆっくり食べないと、喉に詰まるよ」
時折、このようにラファウルは声をかけた。カーターが、カーターであることを忘れさせないために。
しばらく陽の光を浴びていない。異界に居た時とはまた違う辛さだ。オウバルBはじっとりしていて、真っ暗で気持ち悪い。
「僕達さ、何のためにここで頑張ってるんだっけ、カーター」
「アルル、アルルに、会わなきゃ、アルル」
「……良かった、まだ覚えていたんだね。そうだよ、君はここを出て、アルルに会うんだ。そして前よりも強くなって、殺すんだ……えっと」
殺す?誰を?カーターを不幸にした奴を。ラファウルは頭がぼーっとしていた。
「あれ……誰を殺すんだっけ」
「私たちが殺すってなったらグレイの一族に決まってるでしょ」
食事運搬係のサングスターの女悪魔が、口を挟んできた。なぜだかとてもラファウルは腑に落ちた。その名前は自然と口から出た。
「レン・グレイだ」
「ふわーあ眠い」
大あくびをして、カーターは体を丸ませて目をつぶる。眠りにつこうとするカーターにラファウルは布をかけてやった。少し笑いながらぶつぶつとラファウルはひとりごとを言った。
「そうだよ、レン・グレイだよ。殺さなきゃ、殺してやる。カーターが忘れても、僕だけは絶対に忘れない」
「あんた本当に天使?」
「待ちなさいリッチェル!」
「……図書館くらい1人で行けるわ」
「ダメです。いくら知られていないとは言え、皇女である貴方を1人で王宮図書館に行かせるわけにはいかないの。ただでさえルークが居なくなって、ツバサも最近顔を出さなくなったし……」
「リアさん、私にボディーガードでもつける気なんです?」
「そうよ」
「自由行動ができやしない……え?」
リッチェルは本を抱えたまま、1歩後ろに後ずさった。ため息をついたリアが、後ろを振り向いて声をかけた。リアの背中から、赤髪で短髪の綺麗めな顔立ちの男性が現れた。その顔は凛々しく、身長はリアよりもリッチェルよりも高く、2メートル近くあるように思われた。
「さあ、自己紹介して」
「はい。……はじめまして、リッチェル嬢。王宮公認団体から来ました、ケイ・クラウバーと申します。リッチェル嬢の付き人としてお力添えいたします」
「間に合ってます。丁重にお断りさせていただきます」
「ちょっとリッチェル」
「私は頼んでいないわ。そ、それに、またこんなイケメンを私に送りつけて、あわよくば婿にでもって思ってるんでしょう」
「そ、そんなこと思ってないわよ!」
いつになくサークル帝国女帝が慌てた声を出したせいで、リッチェルはげんなりとした。すると、低くもよく通る声がリッチェルの耳に入った。
「ご安心ください、リッチェル嬢。私は女性です」
「ええ、貴方女性なの?!」
「はい。申し訳ございま」
「当たり前でしょう!同性でないと付き人は難しいこともあるわ」
咄嗟に補足するリアを見て、ケイ・クラウバーは軽く笑みを浮かべ、リッチェルに目配せをした。納得がいかずリッチェルはムスッとしていたが、ケイは後ろをつかつかとついて歩いてきた。わざとらしくリッチェルが走り出すと、ケイは特に慌てた素振りも見せずに小走りをする。いくら走っても距離を引き離すことが出来ない。
膝を抱えながらリッチェルは息を切らした。
「はあ、はあ、はあ」
「こんなことはやめましょう、リッチェル嬢。無駄に体力を消費するだけですよ」
「絶対に付いてくるってことね……参りました、降参ですよ」
「これから、よろしくお願いします」
リッチェルとケイは、王宮図書館へ向かうため、2人でハネハネに乗った。黙って操縦をするケイに、リッチェルはそれとなく質問を投げた。
「順番が前後して申し訳ないけど、改めて自己紹介して貰えるかしら。詳しめにね。それから、私のことは色々リアさんから聞いてる?」
「はい。お嬢の家系について、リア陛下からお聞きしております。貴方がフェアリー家の末裔であること。地球出身の魔法士であること。それから、先日恋人のルーク・サングスターがお亡くなりになったことも」
「……ルーク、そうだわ、ルークのお墓に行って貴方のことも紹介しないとね」
「それはとても光栄です。では、私についてですが……私はケイ・クラウバー。元々は王宮公認団体に所属していました。父が巨人族、母が魔術士です。そのため、身長も高いです。体力には自信があります」
「クラウバーという名字は聞いたことがあると思ってたの。巨人族の中でも、国の軍隊として活躍されている方が多いでしょう。本で読んだことがある」
「そうなんですね、ありがとうございます。私の本能魔術ですが、空術はご存知ですか?」
「名前は聞いたことあるけれど……確か、月光術と並ぶくらい珍しいものだったはずよね」
リッチェルの反応を見て、ケイは少し嬉しそうな顔をした。珍しい空術を知っていることに対する喜びに加え、想定以上にリッチェルが知的であることに関心していたのだ。
「よくご存知で。魔術士でも知らない者は多いです。空術は、いわゆる魔術を"空"にする―無効化する魔術です。私に魔術的攻撃は効かないと考えてくれて構いません」
「すごいじゃない!……貴方、もっと軽い話し方でいいわよ、何だか落ち着かないわ。あと、リッチェル嬢って呼び方も……」
「であれば、どちらか片方だけ直します」
「……じゃあひとまず話し方をお願い」
「分かりました」
その後、リッチェルは少しずつ自分のことや仲間のことをケイに話した。どうせ全部知ってることなのだろう、とリッチェルは思っていたが、さも初めて話を聞くかのようにケイは喜怒哀楽豊かな表情を浮かべていた。
「ケイ、もし男性だったら凄いモテたでしょうね」




